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社会が転換期をむかえ、企業や組織のあり方にも変化が求められている。
企業のイノベーション創出や変革のサポートを行うコンサルティング企業・BTSが、2021年7月に人材育成の最前線での課題や、課題解消のための取り組みについて情報共有する「Head of Talent Forum」をオンラインで開催。企業で人材育成を担当する役職者が集い、組織や業界の垣根を越えて議論が交わされた。
フォーラムであぶり出されたのは、働き方や組織をアップデートさせようと試行錯誤する企業の現状だった。その中で日本の組織が抱える課題点と、組織改革の際に求められるアクションを、BTSジャパン Managing Director ケビン・プラストーさんに聞いた。
オンラインでできる業務、対面が必要な業務、その線引きは?
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コロナ禍で人材育成のあり方も変化した。フォーラムに参加した某大手外資系企業の担当者は、こう語る。
「オフラインで行っていた研修内容を、そのままオンラインで実施してもうまくいかない。例えば、これまで社員を一カ所に集め数日間にわたり行っていた研修を、同じようにオンラインで行っても集中力が持続しない。代わりに短時間で、頻度を上げて開催したほうがよいことがわかった」
また、「オンラインでもできることと、対面でなければいけないことを、線引きしようとしています」とは、別の外資系企業の担当者。ほかにも、オンラインにおける研修/トレーニングに関して次のような意見があがった。
・頻繁に質疑応答を挟むなど、2、3分ごとにアクティビティを加える
・参加者にオンラインとオフラインの両方がいると、うまくいかない
研修やトレーニングのオンライン化が進み、各社試行錯誤を重ねた結果、課題点やより良い方法が見出されつつあるようだ。
いかにハイブリッド化を進めるか
コロナ2年目の現在、出社とリモート勤務のバランスをどう取るかは、各社が頭を悩ませているポイントだ。同じくフォーラムに参加した日系大手企業の担当者は、次のように断言する。
「ブレインストーミングなど、クリエイティビティが必要なものやイノベーションに関するものは、出社して対面でコミュニケーションをとるのが望ましい。取り組む業務が対面とオンラインのどちらに適しているのかを精査する必要がある。いずれにせよ、多くの社員がリモートワークのメリットを実感している今、コロナ以前の働き方に戻ることはない」
ある企業では約4割がフルリモートの継続を、残りの6割がリモートと出社のハイブリッドを希望するという回答が得られたという。さらにレイヤー別に見ると新入社員のうち、75%がハイブリッドを希望しており、会社に馴染んだり業務を覚えたりする上で、メンタルサポートなどを含め、ある程度は対面での環境が必要だと感じているという。
今後は、出社とリモート勤務それぞれが持つメリットとデメリットを理解した上で、ハイブリッド化を進めるのがよいのかもしれない。しかし、その上で「シニアリーダー層が出社を好む傾向にある」という課題も残る。
企業が変化するには「トップダウン」が不可欠
BTSが企業の組織変革を手がける際に重要なのが、企業が求めている変革の姿と、その結果をどのように評価するかを明確にすることだという。「抱える課題や求める変化の形は組織によって異なる。各企業に必要なアプローチで変革をもたらすことが、BTSが提供するバリュー」とプラストーさん。
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フォーラムの後、プラストーさんに日本の組織が変革するために必要な要素を聞いた。するとプラストーさんは、定年退職を控える中間管理職層に多く、変化を嫌う層=「フローズンミドル」について指摘した。
「世界的な問題ではありますが、まだまだ終身雇用制度が根強い日本では、特にこの傾向が顕著。若手が変化を望んでも、このフローズンミドルが動かない限り、組織が変革することはできない」(プラストーさん)
しかし、「組織の和を重んじる日本では、一度皆が同じ目的を共有できれば、その後の実行力は非常に高く、迅速。まずは、全員が“同じ船に乗る”ことが重要」と、日本の組織が秘める可能性についても語った。
では、自社で組織のカルチャーを変えようとする際、何から始めれば良いのか。プラストーさんは変化に必要な要素として次の3つの視点(英語ではAMCという要因)を挙げた。
1.アラインメント:全社員が同じ方向を向いていること
2.ケーパビリティ:変化に伴い社員に必要になる新しいスキルをトレーニングすること
3.マインドセット:新しい考え方や企業文化の各社員への浸透
また、全社員が同じ方向を向くには、一人ひとりが「これが正しい方向である」と信じることと「自分に何を求められているか分かる」ことが重要だ。 プラストーさんは、次のように語る。
「その手法として理想的なのは『トップダウン』。 といっても一方的な指示ではない。また、役員が同じ方向を形式的に向くだけではなく、役員一人ひとりが必要なマインドセットシフトを経て、自分に必要な新たなケーパビリティを高める。これができてから、フローズンミドル層の意識を変えることが理想。まずは上層部と中間層が変わり、それを現場に近い階層に下ろす。そうすることで、効果的、かつサステナブルな変化がもたらされます 」(プラストーさん)
前述のフォーラムでは、マインドセットの切替に関して、社員向けのラジオ番組運営をしているというある外資系企業の事例が紹介された。社員が選曲した音楽や社員へのインタビューを放送するその番組は、リモート勤務でも社員同士がコミュニケーションを図るよいツールとして機能している。同社の社員の企業に対する愛着心や、自主的に貢献したいという意欲を測るエンゲージメントスコアは、90%を超えるという。
日本はまずインクルージョンから始める
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多様な人が集まり異なる視点が集まるからこそ、イノベーションは生まれる。昨今さまざまな企業でダイバーシティ&インクルージョンの施策が推進されているが、プラストーさんの指摘から、日本の組織にとっての突破口が見つかりそうだ。
「島国である日本の場合、人種問題を含む海外のようなダイバーシティを考えることは現実的に難しいかも知れませんが、とにかく外部を含むさまざまな人の意見を取り入れるという、インクルージョンを考えるべきです 」(プラストーさん)
フォーラムでは、「社会が大きく変革したコロナ禍だからこそ、変革のチャンスだと肌で感じ、ワクワクしています」というポジティブな意見も。
企業文化や社員のマインドセットを変えるのは容易ではない。しかし、社会が大きな転換期にある今なら、今回の内容を踏まえて一歩踏み込み、着実な変化をもたらすことが可能なはずだ。
MASHING UPより転載(2021年8月18日公開)
(文・中島理恵)
中島理恵:ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。