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「脱成長」シフトと利益両立を模索する企業。大量生産モデルでないビジネスモデルとは

じぶんごとのWE革命

パタゴニアが期間限定でオープンした、国内初となる古着専門ポップアップストア。店内には「必要ないモノは買わないで」というメッセージが掲げられている。

撮影:横山耕太郎

斉藤幸平さんの『人新世の「資本論」』の売り上げが34万部を突破したという。

「SDGsは『大衆のアヘン』である」から始まる本書は、気候変動の脅威を前に、現行の資本主義システム自体の限界を指摘し、共産主義的な脱成長路線にシフトするべきである、と主張する。冒頭の挑戦的な一文は、見せかけのSDGsを標榜し、ジェンダー不平等や人権問題を放置しながら、サステナブルという概念ですら商売の道具として使って従来通りの利益主義を追求し続ける企業への痛烈なパンチとして読んだ。

だが、パンデミックが起きてもなお経済が優先されがちな日本で、脱成長を掲げる論旨に「勇気がある」とも思ったものだ。今、この本を手に取る人が増えていることに希望を感じている。

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、気候変動に緊急対策を取り、自然を守りながら、不平等を解消し、ジェンダーや暮らす場所にかかわらず、食糧やエネルギー、安全な水などを確保できる環境を達成するために17分野における指針を示し、加盟国の合意を取り付けたということが、当時はそれなりに評価された。

一方で、あくまで「目標」でしかなかったSDGsは、具体的な数値目標も拘束力も持たず、今、私たちの目の前に迫る気候変動の脅威への対策としては、ほとんど実効性を持たなかった。また柱のひとつには「経済成長」が掲げられ、経済の規模を拡大させ、守りながら、持続性の改善が可能であるかのような幻想に寄与した。

気温上昇は1.5度で食い止められるのか

カリフォルニア州で8月21日に撮影された山火事の様子。

カリフォルニア州北部で発生した山火事「カルドア・ファイア」(2021年8月21日撮影)。アメリカだけでなく、多くの国で毎年大規模な山火事が起きるようになっている。

REUTERS/Fred Greaves

この連載の第1回で書いたように、私自身が自分のあり方を根本的に見直すきっかけになったのは、2018年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)特別報告書「1.5度の地球温暖化」だった。

地球の平均温度が1.5度上がるシナリオが現実化したときに起きるさまざまな大惨事を見通す文書は、自分の生業を省みさせるほどに衝撃的だった。そして、この報告書の衝撃は、世界中でたくさんの人を気候アクションに駆り立て、いまだかつてなかった規模の気候ムーブメントを誘発した。

しかし一方で、悲しいかな、気温上昇のスピードは、それ以降、減速するどころかますます加速している。3年後の2021年8月9日に発表された第6次評価報告書の内容は、さらに厳しい未来を予見するものだった。

グテレス国連事務総長が「人類へのコードレッド(非常事態を告げる合図)」と呼んだ報告書によれば、これまですでに大気中に放出されたCO2(二酸化炭素ガス)によって、2015年のパリ協定で阻止するべき目標として定められていた1.5度の気温上昇は、今から2040年までの間に確実に現実となる。

さらに第6次評価報告書は、ついに1.5度上昇以降のシナリオを現実のものとして考慮し始めた。実際のところ、わずか3年前に書かれた報告書で対策をしなければ急増すると警告されていた豪雨、台風、ハリケーン、干ばつ、山火事、洪水といった自然災害は、もうすでに現実になり始めているが、今後19年のスパンのどのタイミングで起きるのかは、人類の努力による。1.5度の上昇以降、そのあとも温度はどんどん上昇し続けるのか、1.5度で食い止めることができるのか、その地獄の度合いもまた人類の努力による。

気候変動問題に意識が薄い日本

2016年10月11日にドイツで開催されたローレウス・スポーツ・フォー・グッド・サミットでのSDGsパネルディスカッションの概観。

日本でもSDGsバッジをつけている人は多いが、どのぐらいの人がその内容まで熟知し、自分の仕事の中で実践しようとしているだろうか。

Simon Hofmann/Getty Images For Laureus

日本ではいまだに気候変動に対する危機感ですら、世界基準とのギャップが著しい。国連が2020年に発表した調査によると、「気候変動は人間の経済活動によるものである」という考えに対する同意・不同意の割合を見ると、日本は「同意」が53%。世界平均の77%とも、欧米だけでなく中国(76%)、サウジアラビア(71%)、ロシア(63%)と比べても低い。

2021年4月に日本政府が46%に引き上げたCO2排出削減目標も、諸外国が京都議定書が採択された1990年時点からの削減を設定しているのに対し、日本政府は、東京電力福島第一原発の事故によって国内の原発が停止し、石炭火力への依存度が高まったことで大幅にCO2排出量が増えていた2013年に設定している。これも不誠実である。

そんな日本において、SDGsは周知が遅れていた気候変動の脅威を浸透させる効果はあったのかもしれない。また人権やジェンダーなど、日本の意識が圧倒的に遅れている分野に注意を喚起するとの期待もあった。

ところが現実には、SDGsは企業がこれまでどおり、モノを作り、売り続けるためのマーケティングのギミックに成り下がってしまった。

SDGsを標榜した東京五輪で、判明しただけでも​​13万食、1億1600万円相当の食糧が廃棄されたことは大いなる矛盾としか言いようがないが、今、SDGsの皮をかぶった巧妙な商売が世の中に溢れている。例えば企業が持続性を謳い、プラスチック袋の廃止を目指しても、コットンのトートバッグを新たに生産し、売るのであれば、それはさらなる環境破壊に貢献することになる。

エコバッグ

日本では“レジ袋”有料化によって、多くの人がマイバッグを持つようにはなった。だが、マイバッグの生産もまた環境に負荷をかけているのだ。

Shutterstock/Pixel-Shot

こうした状況を今見ていると、「経済成長を維持しながら、環境的・社会的持続性を達成する」というSDGsの目標自体が幻想だったのだと思わざるを得ない。

抜け出せない「より安く、より大量」モデル

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