セラノス創業者のエリザベス・ホームズ。2019年7月17日、カリフォルニア州サンノゼの連邦裁判所での公聴会の後に撮影。
Reuters/Stephen Lam
- 血液検査スタートアップ「セラノス」の創業者兼CEOだったエリザベス・ホームズの裁判が、始まった。
- ホームズと元COOのラメシュ・バルワニは、投資家、医師、患者を騙した詐欺罪で起訴されている。
- 有罪判決を受けた場合、ホームズは最高で懲役20年、罰金275万ドル、および賠償金を科せられる可能性がある。
血液検査のスタートアップ企業であるセラノス(Theranos)社とその創業者であるエリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)は、医療検査と診断に革命をもたらすとして称賛の的になった。しかし、同社の技術に対する疑惑が指摘され、連邦政府による調査が行われた後、ホームズは裁判の被告人になった。
ここでは、彼女がどのようにしてここまで来たのか、そして裁判で何が起こるのかをご紹介しよう。
エリザベス・ホームズとは何者か
エリザベス・ホームズは、9歳のとき、親戚に「大きくなったら億万長者になりたい」と話していたとセラノス社の盛衰を記した『Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup』に記されている。同じ頃、ホームズは手紙に「私が人生で本当にやりたいことは、何か新しいこと、人類が知らなかったことを発見すること」と書いていたという。
ホームズはスタンフォード大学で化学工学を学んだ後、2003年に中退し、19歳でセラノスを設立した。2014年には、世界最年少の起業による女性ビリオネアと呼ばれ、推定純資産額は45億ドルに達していた。
ホームズは、シリコンバレーのユニコーン企業を率いる数少ない女性の一人であり、ビジョナリーであると高く評価されていた。彼女は憧れていたスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)を彷彿とさせるように黒いタートルネックを身にまとい、休暇を取らないことが多かった。また、彼女の特徴である深みのある声も注目を集めたが、これは元セラノスの従業員の中には、ホームズが男性優位のスタートアップの世界にうまく溶け込むために作り上げたものではないかと考える人もいた。
セラノス社とは
セラノスは、血液検査のスタートアップ企業で、多くの採血量を必要とする従来の血液検査とは異なり、少量の血液でさまざまな健康状態を検査する方法を開発した。セラノス社の検査は、従来の血液検査に比べて、より安く、より速く、より正確であることも標榜されていた。ホームズは「エジソンマシン」と呼ばれる同社の技術によって、「誰もがすぐに別れを告げる必要のない世界」が実現すると述べた。ピーク時のセラノス社の評価額は90億ドルに上った。
ラメシュ・「サニー」・バルワニとは何者か
ラメシュ・「サニー」・バルワニ(Ramesh "Sunny" Balwani)は、セラノスの社長兼COOだった。2009年にセラノスに入社する以前は、マイクロソフト(Microsoft)およびロータス(Lotus)でソフトウェアエンジニアをしていたという。
バルワニと約20歳年下のホームズは、ホームズが大学に進学する前年に、北京で行われたスタンフォード大学の夏期講座で知り合った。ホームズがスタンフォードを中退した頃には、2人は恋愛関係にあったという。『Bad Blood』によると、2人は2016年に破局し、バルワニはその年に会社を辞めている。
セラノスはなぜ凋落したのか
2015年8月、アメリカ食品医薬品局(FDA)の調査官がセラノス社を訪れ、施設の検査を要求した。バニティフェア(Vanity Fair)によると、同じ頃、アメリカ保健福祉省のメディケア・メディケイド・サービス・センターは、セラノスの検査に重大な誤りがあることを発見し、同社が数十人の患者に疑わしい検査結果を提供したと述べている。
その2カ月後、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のジョン・カレイロウ(John Carreyrou)は衝撃的な調査結果を発表した。それによると、セラノス社が提供している240種類の検査のうち、同社の「エジソンマシン」で実施されたのは15種類のみで、その他の検査は従来の血液検査機で行われたという。
アメリカ証券取引委員会(SEC)もセラノスの調査を開始し、2016年7月、ホームズは検査業界に関わることを2年間禁止された。同年末、セラノスは研究所とウェルネスセンターを閉鎖した。ホームズは2018年6月、司法省が彼女を詐欺罪と共謀罪で起訴した日に、セラノスのCEOを辞任した。
起訴内容と想定される刑罰
ホームズとバルワニはそれぞれ、2件の通信詐欺(wire fraud)の共謀と9件の通信詐欺の罪で起訴されている。有罪判決を受けた場合、それぞれ最高で懲役20年、罰金25万ドル、さらに被害者への賠償が科せられる可能性がある。
アメリカ司法省は、ホームズとバルワニが、セラノス社とその財務見通し、および技術について虚偽の主張を行い、投資家、医師、および患者を欺く計画に関与したと主張している。
ホームズとバルワニの主張は
ホームズとバルワニはともに無罪を主張している。
カレイロウが衝撃的な記事を発表した後、ホームズは次のように反論した。
「これは、物事を変えようと努力したときに起こることだ。最初は狂っていると思われ、次に喧嘩になり、そして突然世界を変えてしまうのだ」
セラノスの役員や投資家は誰だったのか
セラノス社は、複数の著名人を投資家や取締役として起用していた。
巨額の出資をしていた人物には、ニューズ・コーポレーションのルパート・マードック(Rupert Murdoch)会長、トランプ政権の教育長官ベッツィ・デヴォス(Betsy DeVos)、ウォルマート(Walmart)創業家のウォルトン家のメンバーなどがいる。
同社の役員には、ジョージ・シュルツ(George Shultz)元国務長官、ヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)元国務長官、ウィリアム・ペリー(William Perry)元国防長官、ジェームズ・マティス(James Mattis)元国防長官、ウェルズ・ファーゴの元CEOであるリチャード・コヴァチェヴィッチ(Richard Kovacevich)などが名を連ねていた。
今後の展開は
8月28日に陪審員の指名が始まり、冒頭陳述は9月8日に予定されている。この裁判はCOVID-19の影響で延期されていた。また、3月には、ホームズが妊娠中であることを理由に延期を要求し、認められた。バルワニの裁判は1月に始まることになっている。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)