米シューズメーカーのオールバーズ(Allbirds)は8月31日、米証券取引委員会(SEC)に新規上場を申請した。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)モデルを採用する同社が上場後、どのような事業戦略を図るのか詳細が明らかになった。
投資への判断材料にも使われる上場目論見書が、初めて一般に公開された。ブルームバーグの6月の報道によると、オールバーズは上場に向けてモルガン・スタンレーなどの投資銀行に支援を依頼し、目論見書の草案を密かにSECに提出していた。ユニコーン企業に成長した同社が2020年に1億ドルを調達した頃から、新規上場のうわさはすでに広まっていた。
オールバーズは2016年、ジョセフ・ズウィリンガー(Joseph Zwillinger)とティモシー・ブラウン(Timothy Brown)が共同で創業し、最初に開発したウール素材のスニーカーがシリコンバレーで働くIT業界の人々の間で大流行となった。
共同創業者のジョセフ・ズウィリンガー(右)とティモシー・ブラウン。
Allbirds
共同CEOでもあるズウィリンガーとブラウンは、シューズに快適さを求めるだけでなく、環境への負担を減らした素材を取り入れることで他社との差別化を図った。プラスチックをはじめ石油由来の原材料に頼らず、サトウキビやカニ殻由来などの天然素材を使用したシューズを製造している。
「自然素材の製品は、より快適で、美しく、高性能です」と、公開された目論見書の「創業者からの手紙」の中でズウィリンガーとブラウンは記している。
8月31日付の目論見書では、実際の上場日や希望する調達額などの詳細は明らかにされていないものの、世界中から注目を集める同社の現状と将来展望については細かく示されている。
公開された204ページに及ぶ目論見書から、オールバーズの今後の見通しを5つのポイントにまとめた。
2020年度の純損失は前年比増、赤字は継続見込み
売上高は創業以来、急速に伸びているものの、黒字化への道のりはまだ遠い。目論見書によると、2020年度の純損失は2590万ドル(約28億5000万円)で、前年度の1450万ドル(約15億9000万円)から大きく拡大した。
連続赤字が回避できる見通しは、2021年度にも立っていない。この上半期で、純損失はすでに2110万ドル(23億2000万円)にのぼっているからだ。
投資家は早期の黒字転換を期待するべきではないと、オールバーズは目論見書で述べている。「創業以来、大幅な純損失を継続的に計上しており、今後もしばらくは損失が続くと見込んでいます」と記されている。
なお赤字は続いているものの売上高は伸びており、2019年の1億9400万ドル(約213億円)から2020年度には2億1900万ドル(約240億円)へと増加した。
攻めの出店戦略
実店舗を展開するD2Cブランドは増加傾向にある。オールバーズも例外ではなく、壮大な出店計画を進めている。
目論見書によると、「2021年6月30日時点で、全世界で27店舗を構えていますが、アメリカなどにはまだ十分に出店余地があると考えています。今後、数百店規模に及ぶ積極的な出店を計画しており、ユニットエコノミクス(ビジネスの最小単位における収益性)を高めてまいります」としている。
大規模出店計画には、顧客を効率的に獲得するという狙いがある。顧客が実際に店舗で商品を見たり触れたりして体験した後、オンラインで購入を促すという。
2020年度の実店舗の売上高は約2500万ドル(約27億5000万円)と、総売上高に占める割合はわずか11%だ。2020年初頭には、新型コロナの影響で多くの店舗を一時閉鎖したが、数カ月後には再開している。
Allbirds
上場後も創業者が主導権を握る
上場後、オールバーズは2種類の株式を発行する議決権種類株式(デュアルクラス株式)を採用する方針だ。クラスA株は1株当たり1議決権、クラスB株は1株10議決権を付与する。共同創業者兼共同CEOのブラウンとズウィリンガーを含む役員らが、クラスB株を保有する。
目論見書では「当面の間、このような支配権を確保することで、株主による当社の経営活動への関与を制限、または除外いたします」と書かれており、意に沿わない役員の選任や買収などを回避したい考えだ。
現時点では、クラスB株の発行割合には言及されていないが、今後交付される改訂版で明らかにされるだろう。
2020年度売上の過半数はリピート顧客が占める
スタートアップ企業の多くはリピート顧客を増やそうと必死だが、目論見書ではオールバーズがすでに高いリピート率を保っていることがうかがえる。
同社の売上に占めるリピーターの割合は2020年で53%と、2018年の41%から大きく伸長した。
2016年から2019年の間、アメリカで同社の商品を購入した人のうち、43%が2020年12月末までに2度目の購入をしている。うち50%は同時期に3度目の購入をしており、さらにそのうちの55%が4度目の購入をしたという。
企業にとってリピーターの獲得は不可欠だ。オールバーズのリピーターの平均購入金額は毎年上昇しており、リピーターは確実に定着していると目論見書は述べている。
シューズ以外にも活路を模索
オールバーズはウール素材のスニーカーを大ヒットさせた後、スニーカー以外の商品開発にも着手している。今ではレギンス、女性用フラットシューズ、ランニング用ショートパンツなど、さまざまな商品を手掛けている。
目論見書によると、同社はさらなる新製品を投入予定だという。「現在、数種類の新商品を開発中です。人が自然への感謝の気持ちを持ちながら、自然を探求し、自然とのつながりを深められるような商品を提供していきたいと考えています」と記されている。
また、天然素材を中心に、今後もさまざまなサステナブル商品を企画している。これらの商品を通して「顧客とのつながりを強固なものにし、顧客生涯価値(LTV:顧客が生涯において企業にもたらす利益)を高めていきます」と意気込みを示している。
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)