8月16日、首都カブールのハミド・カルザイ国際空港 に入ろうとする人々。
Stringer/REUTERS
国を制圧しつつある反政府軍から自分の命を守るため、今夜この家を離れなくてはならない、そしておそらく二度と戻ってくることはできない——という状況を想像してみてほしい。
これが、アフガニスタンにおけるタリバンの進攻に伴い、毎週3万ものアフガニスタン人が直面している現状だ。このペースから考えると、カンザス州のトピカ、テキサス州のウェーコ、またはミシガン州のフリントの住民と同じ人数のアフガニスタン人が8月に家を追われたとみられる。
首都カブールをタリバンが掌握したことで、さらに多くの人々が逃げようとしている。1月以降50万以上の人々が家を失い、さらに50万人が今年中にアフガニスタンから逃げる可能性がある。ここ数カ月の戦闘での死亡者は数千人にのぼる。
現在逃げようとしているアフガニスタン人がいること、また2001年以降に600万近くのアフガニスタン人が家を追われたことは、アメリカがこの20年間の戦争でアフガニスタン人にもたらした結果の一部だ。アメリカ軍の公式撤退後、数千人の命が危険と隣り合わせになっている今、アメリカはアフガニスタン人に何をすべきなのか?
撤退が正しかったのかを議論したい人もいるだろう。しかし、アメリカの起こした戦争によって命を傷つけられ、危険にさらされている人たちを助けることに全力を尽くすことに、今は注力すべきだ。
タリバンが権力を握ってから11万4000人のアフガニスタン人を退避させてはいるが、これは始まりに過ぎない。バイデン政権は少なくとも100万人のアフガン難民をアメリカに受け入れるべきだ。
戦争のコストとは?
解決策を考える前に、もし他の国が自分たちの国に侵攻し、数百万の死者、負傷者、難民を出す戦争を起こしたら、と考えてほしい。ブラウン大学の戦争コストプロジェクト(Costs of War Project)の一環として、この戦争がアフガニスタンに対しどれだけのダメージを与えたのかを私はずっと記録してきた。このプロジェクトでは、2001年以降にアメリカが行った戦争の人的・金銭的コストを10年以上記録している。
2020年、アメリカン大学のチームと共同で、アフガニスタン、イラン、その他6カ国のアメリカによる戦争により、移動を余儀なくされた人たちの数を計算した。アフガニスタンでの戦争では少なくとも210万のアフガニスタン人が国を出て難民となり、また390万人が国内で家を失った。これは現在の全人口の約15%、戦争前の人口の3割にのぼる。
アメリカ人の15%が家を追われることを想像してみてほしい。5000万人、つまりフロリダ州とテキサス州の人口の合計だ。
またこの戦争では、戦闘だけで15万人のアフガニスタンの民間人と戦闘員も殺されている。病気や飢餓による死亡、医療などのインフラが機能していないことを考慮すれば、死者の数は少なくとも60万人になると考えられる。さらに数百万の人々が負傷し、トラウマを負っている。
もし、他の国がアメリカに侵攻して戦争を始め、それが理由で5000万人が移動を余儀なくされ、さらに数百万人が殺されたり負傷したりした場合、どんな裁きが下るべきだろうか?
アフガニスタンでの破壊の責任は、アメリカだけが負っているわけではない。アメリカの同盟国、タリバン、アルカイダ、その他の武装組織や外国勢力にも責任はある。しかし、ブッシュ政権は、アルカイダによる同時多発テロに全く加担していなかった人たちの国に対し、戦争を起こした。よってアメリカが多大な責任を負っていると言える。
アメリカによる20年間のアフガニスタン再建の取り組みで達成できたことは比較的限定的で、汚職・搾取・不正がはびこっていた。タリバンが勢力を広げており、命の危険にさらされている人たちがいる今、私たちがアフガニスタン人にすべきことは何だろうか?
100万人の難民の受け入れを
ワシントン・ダレス国際空港に到着したアフガン難民たち。
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まず、バイデン政権と議会はもっと多くのアフガン難民をアメリカに受け入れるべきだ。590万人が家を追われていることを考えると、通訳者、アメリカ政府で働いていた人とその家族のたった7万1000人に特別移民ビザを発給するのでは、あまりにも少なすぎる。
今後10年間で、少なくとも100万人のアフガン難民をアメリカに定住させるべきだ。ベトナム戦争後、100万人を超えるベトナム難民、さらに数千人のラオス人とカンボジア人をアメリカは受け入れた。同じレベルのことをアフガン難民にも行うべきだ。
それは不可能ではない。1980年の1年間で、アメリカは12万5000人のキューバ人を含む、35万人以上の難民を受け入れた。人口と経済成長を考慮すると、もっと多くの人数を今は吸収することができるだろう。2015年と2016年、ドイツは100万人以上の難民を受け入れたが、ドイツの人口はアメリカの4分の1だ。
残念ながら、バイデン大統領は難民の受け入れに上限を設けており、2021年は6万2500人まで、2022年は12万5000人までとしている。2022年の数字は多く聞こえるかもしれないが、実はバイデン大統領はどちらの年も目標を達成しないだろうとすでに認めているのだ。
トランプ政権の最初の年度で8万人を超える難民や避難民がアメリカに入国した。私たち戦争コストの調査チームでは、2001年以降のアメリカによる戦争によって、少なくとも3800万人が移動を余儀なくされていることが分かっている。少なくとも年間で、世界から30万人の難民受け入れを目標とすべきだ。
アメリカ政府はまた、状況が許したあかつきには、アフガニスタン人が帰国するのをサポートしなければならない。つまり、それまでのアメリカの援助を無駄にしないためにも、バイデン政権のアフガニスタンにおける和平プロセスや国際的な開発協力に対しての責務は続くということだ。
裕福なアメリカの同盟諸国も、難民受け入れと国の再建について、同様の取り組みを行うべきだ。しかし、英国のように、最も助けを必要とする人たちを軽視した「スキルのある」難民を受け入れる、という方針を取るべきではない。
他の国におけるアフガニスタン人の移民を支援し、即時に人道的支援を提供するためにも、バイデン大統領および議会は、難民関連の国連機関である国連難民高等弁務官への年間資金拠出を3倍にし、少なくとも60億ドル(約6600億円)にすべきだ。また、インフレ率に合わせてその額を毎年増やしていくべきだ。
こうした取り組みのコストは膨大に思えるかもしれないが、20年にわたるアフガニスタンでの戦争で使った2兆3000億ドル(約253兆円)と比較すれば少額だと言える。
また、膨れ上がったアメリカの軍事予算は年間で7000億ドル(約77兆円)を超えており、これは2位以下の11カ国の軍事予算の合計額を上回る。議会は、アフガニスタンからの基地や軍隊の撤退により浮いたお金をアフガニスタン人の受け入れや支援に使えるようにすべきだ。
住む場所を失ったアフガニスタン人に対し、アメリカにはそのような道徳的責任はないと思うのであれば、経済的なメリットを考えてみてはどうか。長期的に見れば難民や移民は、アメリカ経済にとってマイナスではなく、プラス効果になっていると調査結果にも表れている。
アメリカの引き起こしたアフガニスタンに対する被害を修復する責務を負っているのは、誰よりもアメリカ政府と私たちアメリカ国民だ。私たちの国のリーダーが20年間の戦争をすることを選択し、私たちの税金でその戦費をまかなった。これだけの人たちが亡くなり、負傷し、590万もの人々が家を追われ、そして今、1週間に3万人が住む場所を失っている。
100万人をアメリカに受け入れることは、私たちの責務を果たすことの始まりに過ぎない。もし、戦争で私たちが逃げなければならなくなったなら、私たちは、同じように受け入れてもらうことを期待するのではないだろうか?
[原文:As America finally ends our disastrous war, the US needs to let in 1 million Afghan refugees]
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)