提供:MASHING UP
課題多き日本のSDGs。なかなか浸透しない背景には、変化や多様性と相性の悪い島国文化、そして年功序列の人事制度があるようだ。
若い世代にとってはSDGs的価値観がもはや“当たり前”であっても、多くの企業で発言権・決定権を握っているのは40代以降の男性。日本社会においてマイノリティである若い世代の意見が通る社会にすることも、SDGs推進のカギとなるだろう。
2021年3月18日・19日に開催されたMASHING UP SUMMIT 2021 では、「企業とSDGsの現在地。課題とビジネスのこれから」をテーマに、日本総合研究所 創発戦略センターシニアマネジャー村上 芽さんとNO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條 桃子さんがトークセッションを行った。今回村上さんはリモートで登壇、会場の能條さんがモデレーターを務めた。
SDGsバッジを付けていても、日々の仕事との結びつけ方が分からない?
リモートで登壇した、日本総合研究所 創発戦略センターシニアマネジャー 村上芽さん。
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2015年の国連サミットで採択されたSDGs。6年が経過した今、日本企業におけるSDGsの重要度はどこまで高まっているのだろうか?
村上さんによると、2017年に経団連が企業行動憲章を改定し、持続可能な社会に貢献するというトーンが強くなったあたりから国内でも広まっていった。コロナ禍で一度流れがストップすることも懸念されていたが、むしろコロナ禍以降さらに加速しているという。
一方、慶應義塾大学経済学部の現役大学生である能條さんの視点から見ると、SDGsへの取組みが不十分な企業がほとんどだという。
「ここ数年、SDGsバッジを付けている企業の方を見ることが多くなりました。しかし企業のホームページを見ていると……。気候変動への取り組みが不十分で、解決するためには事業転換しなければならないような状態の企業も多くがSDGsを掲げている。
皆SDGsバッジを付けてはいるが、本当に中身を理解しているのか疑問。企業側の視点に立つと、今まで全く言われてこなかったことが、この数年で急に大事だと言われ始めているのかな、と思いました」(能條さん)
「バッジは、本当によく見かけるようになりましたよね。経営層が、将来の経営のためにSDGsを大事だと考えたとき、SDGsの考え方を従業員に広く知ってもらわなければなりません。専門用語で“社内浸透”と言います。このような取り組みをする際に、わかりやすいバッジを付けるというのは、一つの見える活動になります。そのため、“ちょっとやってみようかな”と考える企業が多かったのでしょう」(村上さん)
SDGsバッジの利点を認める一方、村上さんは長期的な目標を日々の業務に落とし込むことの難しさも指摘。SDGsが掲げる環境・社会についての壮大な目標を理解したものの、今日明日の段階で具体的に何をどう取り組めば良いのかが分からない、という質問が村上さんに寄せられている。
当たり前を疑う。SDGsウォッシュを防ぐために必要な視点
NO YOUTH NO JAPAN代表理事をつとめる、現役大学生の能條桃子さん。
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SDGsへの取り組みを派手に宣伝するものの実態が伴っていない、“SDGsウォッシュ”と呼ばれる問題も深刻化している。つまり、“言っていることとやっていることが全く違う”企業がこのSDGsに関しては非常に多く、現役大学生の能條さんにも不信感を抱かせた。
「私も“これSDGsウォッシュじゃん!”と言ってしまうことがよくあります。たとえば、石炭をビジネスにしている企業が『自分たちは本業でSDGsに貢献します』と掲げているけれども、石炭はまさに気候変動の原因になっている。ほかにもSDGsを掲げているが、実際には女性役員比率が低い企業もある。
もちろん立派な目標を掲げることは大事なのだけれども、取り組む気があるのか疑問に思います。とはいえ、第三者が指摘するのは簡単だが、実行するのは難しいのかもしれません。企業が予防したいと思ったら、どうすればいいでしょうか?」(能條さん)
「どんなに良いことでも、必ずSDGsに何らかの影響があるに違いないと考えることが大事です。たとえば、どんなに素晴らしい製品でも、急激に売れすぎたりすると、製造に関わる従業員の残業時間が増えたりする。そうなると、長い目で見て続かないですよね」(村上さん)
従来は企業が利益を得るために見過ごされてきた部分にも、SDGs的視点からメスを入れる必要性を村上さんは指摘。企業によっては、抜本的な構造改革などの荒療治も避けられないだろう。村上さんの回答を受けて能條さんは、友人のエピソードを振り返りながら、“今までの常識”を疑うことの重要性を強調した。
「これからの社会を作っていく上で、もう合わないと思うものはかなりあります。SDGsの中でジェンダーに関して言えば、私の友人が就職活動について語っていた面白い話があります。その友人はメディア系の企業を中心に面接を受けていたのですが、最終面接に進んだ際に、企業によって面接官のジェンダーバランスが違ったそうです。女性が一人もいない企業があると、“ここに行くのはやめた”と。いくつか内定をもらった後、そのようにして就職先を決めていると語っていました。友人には共感すると同時に、先に企業の方が学生の視点に気づいていれば、予防できたことだとも思います。本気でやろうと思えばすぐに実現できるはずなのに、とモヤモヤします」(能條さん)
「思い込みは本当に沢山あって、ありとあらゆるところに転がっています。最近強く思うのが、気付いた人から言わなければダメなのだということ。私が社会人になった頃から考えると、最近は女性が自分ひとりだけというシーンはとても減りましたが、まだまだ『アレ?』と思うことは多いです。気付いた時にすぐに声を上げなければいけないし、声を上げられる環境作りも非常に大切。ジェンダーだけでなく、年齢の違いもそう。若いからといって意見を言えない環境もおかしい」(村上さん)
ジェンダーだけでなく世代間の不平等も日本の大きな課題
SDGsについてモヤモヤすることは多い、と能條さんは思いの丈を専門家である村上さんにぶつけた。
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ここで能條さんが指摘したのは、日本に根強く残る年功序列制度が持続可能な発展を妨げているという問題。未来を担う当事者である若い世代の発言権が弱い社会で、持続可能な発展を目指すのは難しい。
村上さんも、さまざまな企業の実例を見る中で、とりわけ人権について世代間に価値観のズレを感じることが多かったという。しかしこれでは、若くて優秀な人材を獲得できないと語る。
「私の同級生では、女性の方が男性よりも劣っているとか、男性が女性より優れていると本気で思っている人はほぼいません。それぐらい教育も平等になっているので、SDGsも私たちの世代にとっては特別なことではなく、当たり前の価値観でした。しかし、上の世代は“そうではない”と習ってきた。たとえば、家庭科は女子だけ・技術は男子だけ、名簿は男性が先、という学校生活を送っていたら、そりゃ(SDGsの理解は)難しいだろうなと思います」(能條さん)
SDGsに掲げられている目標は壮大に思えるが、村上さんのアドバイスにもある通り、日々の仕事や暮らしと結びつけて簡単に実行できるものも少なくない。
一人ひとりがゲーム感覚で楽しみながら地道に取り組んでいれば、地球規模では大きなインパクトをもたらすことができるはずだ。
また、日本でSDGsの浸透をさらに加速させるためには、若い世代を社内の主役に据えることが大切。意見を聞くことすらできていないのが日本社会の現状だが、本当に必要なのは一刻も早い権限委譲ではないだろうか。
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MASHING UP SUMMIT 2021
「企業とSDGsの現在地。課題とビジネスのこれから」
村上芽(日本総合研究所 創発戦略センターシニアマネジャー)、能條桃子(NO YOUTH NO JAPAN代表理事)
MASHING UPより転載(2021年7月21日公開)
(文・吉野潤子)
吉野潤子:ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。