2030年の日本はきっと今よりも、自然と人に優しいサステナブルな社会になっているだろう。いや、そうしなければならない。
必ず実現すると決めたら、次にやるべきことは、最終ゴールから逆算して“今取り組むこと”、“今あるべき姿”を実践することだ。
2021年3月18日・19日に開催されたMASHING UP SUMMIT 2021 では、「未来年表:分岐点は今。2030年の日本社会を考える」のテーマで、小田急電鉄株式会社経営戦略部DX推進マネジャー米山麗さんと15歳で株式会社ユーグレナ2代目CFO(Chief Future Officer 最高未来責任者)に就任した川﨑レナさんをゲストに迎え、日本をサステナブルな社会にするための方法や課題を探った。モデレーターは、MASHING UP遠藤祐子編集長。
小田急電鉄が手掛ける、サステナブルなまちづくり
小田急電鉄株式会社経営戦略部DX推進マネジャー 米山麗さん
提供:MASHING UP
小田急電鉄経営戦略部DX推進マネジャーの米山麗さんは、小田急線沿線でサーキュラーエコノミー実現に向けて沿線まちづくりを進めている。都心・新宿から箱根・藤沢の緑豊かな観光地までを走る小田急線沿線は、都市・住宅地・観光地・自然など多彩な顔を持つ。それゆえ、多種多様な地域課題を抱えているのが特徴だ。
「現在は、若者の都心回帰、少子高齢化などの影響から、郊外地域の活性化が課題となっています。また、まちづくりの概念も変化しています。従来は主にハード整備までを指していたが、今は事業者や住民自らが自律的な取り組みを行う。生活にかかわる分野の総合的対応も含めてのまちづくりに変わりつつあります」(米山さん)
このような背景から2015年に誕生したのが、座間市のホシノタニ団地だ。小田急線の座間駅前に立地していた築約50年の社宅を、環境面への影響も考慮したリノベーション手法により再生。シンプルでナチュラルなライフスタイルを実現する洗練されたデザインも、非常に好評を得ている。
「ライフスタイルに感度の高い方に人気のある、ブルースタジオさんにデザインをしていただきました。内装も、天然の無垢材を使っており、自然に近い世界観を表現。さらに居住空間だけでなく、地域にも解放しているスペースがあります。地域交流を育む仕掛けとして、喫茶ランドリー、子育て支援センター、マーケット開催など。貸し農園も、敷地内に設置しています」(米山さん)
中古・リノベーション物件は新築に比べると人気が低い傾向があるが、ホシノタニ団地の稼働率は2021年3月時点で100%。賃料も、周辺賃料相場より1~2割高い水準だという。
都心からの流入が非常に多いのも特徴で、米山さんによると「周辺の賃貸住宅の中でも異例の流れ」。入居者は女性が6割、20~30代の若年層が6割を占める。最近ではコロナ禍の影響で在宅勤務が増えた人が、都心から転居したケースが目立つ。“貸し農園があること”を理由にホシノタニ団地を選択する人も多いという。
遠藤編集長は「私の同僚にも郊外に引っ越した人が何人かいて、まさにそういう流れが起こっている」とコロナ禍に実感した社会の変化について語った。
DX活用で生じた余力を地域社会に還元
提供:MASHING UP
ホシノタニ団地以外にも、小田急電鉄ではサーキュラーエコノミー実現に向けて画期的な取り組みを行っている。ゴミ収集業務の効率化事業もその一つだ。
小田急電鉄と座間市は、2019年6月に『サーキュラーエコノミー推進に係る連携と協力に関する協定』を締結。2020年8月より、家庭系の廃棄物・資源収集業務のスマート化の実証実験を開始した。
「色々なゴミが再び資源になりプロダクトになるまでの一連の流れの中で、どこが一番ボトルネックなのかを突き詰めていったときに、やはりゴミ収集だと。常に人手不足であり、厳しい仕事です。しかし私たちが生活している中で、ゴミを回収してもらわないと非常に困りますよね。沿線にお住まいの住民の方がきれいな街に暮らし続けてほしいという思いから、まずは家庭系の廃棄物収集業務を効率化し、まちづくりへの余力を創出しようということになりました」(米山さん)
また、米国で既に廃棄物収集のテクノロジー化の実績を持つ、米ルビコン・グローバル社のテクノロジーを日本版にローカライズ。自治体向け廃棄物収集サポートシステムとして活用した。実証実験で効率化を定量評価した結果、約2~3割程度の負担削減効果が認められた。また処分場への1日平均搬入回数が4回程度減少し、走行距離・時間・消費燃料が削減された結果、CO2の排出量の減少にも寄与している。
「生まれた余力を、再び生活やまちづくりへ還元していくことにも注力しています。環境教育では、小学校の体育館で収集職員の方とゴミの分別ゲームを一緒にしたり。ホシノタニ団地敷地内で開かれる地域のイベントでの啓発活動も行っています。収集を効率化し生まれた余力で、燃やすごみに出されていた剪定枝を資源回収に切り替え、バイオマス発電の原材料等にリサイクルするなど、新たな資源循環も創出できました」 (米山さん)
小田急電鉄と座間市の取組みは、環境先進国であるフィンランドの公的ファンド『Sitra』が選ぶ『世界を変えるサーキュラーエコノミー・ソリューション』に日本で初めて選出された。ただ環境に良く効率的なだけでなく、有機的につながり、地域に還元されていることが高く評価された。
米山さんは、今後も地域社会・地域住民との連携・協創をさらに促進し、自律的で持続可能な循環型まちづくり実現に向けて取り組んでいくと語った。
ユーグレナCFO川崎さん「社会へのインパクトを重視」
株式会社ユーグレナ2代目CFO(最高未来責任者) 川﨑レナさん
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株式会社ユーグレナCFO(Chief Future Officer 最高未来責任者)に就任した川﨑さんは、大阪府のインターナショナルスクールに通う2005年生まれの現役学生。
川﨑さんはこれまでにもWWFユースメンバー、特定非営利活動法人JUMPのワークショップ選抜メンバーなど多方面で活動。アース・ガーディアンズ・ジャパンを創設し、ディレクターも務めている。
ミドリムシを原材料とする健康食品事業や、バイオ燃料事業を手掛けてきた同社が掲げるフィロソフィーは、『Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)』。自社事業が成長すれば社会課題が縮小されることを追求している。
その取り組みの一環として18歳以下に限定して募集したのが、CFO=Chief Future Officer 最高未来責任者。未来を担う当事者である若い世代と一緒に、環境や健康などの社会課題に向き合っていくのが目的だ。
川﨑さんは、多くの企業が掲げるサステナビリティの看板に懐疑的だったと話す。ユーグレナには、どのような違いを感じたのだろうか。
「ユーグレナがすごいと思ったのは、お金とか利益をあまり重視していないこと。最近は色々な企業も(サステナビリティを)やっているが、実際に会社の中に入ったことによりすごく身近に感じられた。最初に、“お金とか気にしなくていいよ。自分がやりたいことをやればいい”と言ってくれました。本当に必要なものだったら、私たち(ユーグレナ)がサポートすると。“会社があなたたちの代わりにアクションを起こして見せる”ということを社長と副社長から言ってくださった。何をするにしても、自分の会社の利益のためじゃなくて、会社が起こせる社会へのインパクトを重視しているのだなと思いました」(川﨑さん)
消費者からのイメージアップを狙っての表面的なサステナビリティ戦略ではなく、本気で若い世代の意見を取り入れて社会課題を解決しようとする姿勢が、15歳の川﨑さんの心を動かしたようだ。
気になるCFOの仕事内容についても伺った。
「会社の未来を決める、すべてのことです。まず初めにオフィスに行って、“このような会社で、このような事業をしているんだよ”と教えていただき、実際に会社の仲間の方と話したり、社内の保育園で子どもさんと触れ合ったり。会社の中に実際に入ってみてシステムを体験した中で、どういう課題があるか、課題が見つからなかったとしても、どうやったらユーグレナという会社をもっとサステナブルにできるのかと考える。最終的に3月の取締役会で施策を提案して、それを実現させるのが仕事です。
第1期のCFOたち は、商品に使われる石油由来プラスチックを50%削減させるというすごいことを提言しました。そのような感じで、大きなインパクトを残すのが私たちの役割です」(川﨑さん)
実はユーグレナには、CFO以外にも『Futureサミットメンバー』と呼ばれる10代たちが事業に携わっている。『Futureサミットメンバー』は、CFOとともに同社のサステナビリティに関するアクションや達成目標の策定に携わるのが役割。哲学、健康、ビジネス、環境など様々な方面で実績を持つ10代たちが選出された。『Futureサミットメンバー』も多様性に富んでいるそうだ。
「得意分野が違うからこそ、難しいこともたくさんある。色々意見を重ねていく中で、全員が目指すところはいい社会なので、ディスカッションするのがすごく楽しいです。年齢は違いますが、色々なところから来ていますし、東京に住んでいるメンバーは一人もいないです。
私はこれまで人権や教育の場で活動してきたのですが、ビジネスや環境など違う分野で活動してきたメンバーと出会ったことで、色々な社会問題が繋がっているのだなと感じました」(川﨑さん)
若い世代の発言力を高めることが急務
セッション後半では、“あるべき日本社会像”をテーマにフリーディスカッションが行われ、若い世代への教育と発言力強化が欠かせないという結論で一致した。
ユーグレナCFOに就任する以前から教育問題に力を入れてきた川﨑さんは、さらに次の世代への教育にも既に着手しているという。
「個人的には、教育の問題を重視しています。システムの中に入れていかないと、最終的にサステナブルとは言えないからです。私自身が代表する組織の中でも、私よりも若い世代の育成の段階に入っています。メンバーは7~17歳。大人ではなく、私たち自身で育成やカリキュラムを作っていこうじゃないかと。色々な学校のカリキュラムの中でSDGsのインプットが行われていて、素晴らしいことですが、それ以上にいかないと意味がない」(川﨑さん)
学校での受け身なインプットを超えて、自分たち自身による自発的なアウトプットを目指す川﨑さん。誰もが自分事としてサステナビリティを気軽に実践できる社会を作るべきだと強調した。
川﨑さんの力強い発言を受けて、米山さんも若い世代の発言権を保証することの重要性を指摘した。
「大人になってからSDGsに取り組むと、川﨑さんが仰るように、少し商業的になってしまう。ゴミを分別するにしても、大人になってしまうと意識を変えられない部分がある。若い世代がSDGsを考えたり発表できる場を用意したり、若い世代のアイデアを大人たちがプロダクトにしていくという風に、世代の循環も作れるといい。もっと色々な企業が若い世代の意見を取り入れていかなければならない」(米山さん)
未来を担う当事者である若い世代に発言権がない社会に、明るい未来が訪れるはずがない。10代ならではの柔軟かつ新しい視点を交えた今回のセッションは、大人世代にとっても大きな気づきと学びの場となった。
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MASHING UP SUMMIT 2021
「未来年表:分岐点は今。2030年の日本社会を考える」
米山麗(小田急電鉄株式会社経営戦略部DX推進マネジャー)、川﨑レナ(株式会社ユーグレナ2代目CFO[Chief Future Officer 最高未来責任者])、遠藤祐子(MASHING UP編集長)
MASHING UPより転載(2021年7月26日公開)
(文・吉野潤子)
吉野潤子:ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。