撮影/柳原久子
小田急電鉄でキャリアを重ねてきた米山麗さんは、一貫してまちづくりや不動産関連の業務に携わっている。5~6年目に外部への派遣を経験し、枠組みにとらわれない考え方ができるようになったという。その後、不動産戦略の策定や新規投資といった仕事に携わるようになり、現在は社会課題解決のプロジェクトを担当している。
きらびやかな仕事に見える米山さんだが、社内の士気を高めるためには、地道な草の根運動もしてきた。これまでのキャリアを振り返り、転機となったエピソードや、仕事やプライベートで大切にしていることを伺った。
小田急電鉄株式会社 経営戦略部 DX推進マネジャー。早稲田大学理工学部社会環境工学科卒業後、小田急電鉄株式会社に入社。主にまちづくり・不動産関連業務を幅広く経験。直近では、目まぐるしく変化する事業環境や人口減少・自然災害などの社会課題を捉えながらの沿線まちづくり戦略立案・推進を経て、現在、サーキュラーエコノミーPJおよびスマートシティPJを担当。DX推進により社会課題を解決しながら既存事業の抜本的改革を進め、未来に向けたまちづくりに取り組んでいる。
東京都へ派遣。ダイナミックな発想に触れる
撮影/柳原久子
小田急電鉄に入社した当時から、まちづくりや不動産関連の業務に携わっています。仕事に慣れ、ようやく自分の裁量で判断できるようになったと思った5年目、東京都に派遣されることになったのです。
私以外にも民間企業から参画している人が多く、新たな視点からの意見を求められていると感じました。風土や文化が異なり、知っている人がほぼいない中で、行政の仕事の進め方や慣習に対して厳しい意見を言ったこともあります。2年間という期限で結果を出せるのか、自分で納得感のある経験ができるのかと焦りを感じることもありました。
「ただ、やはり振り返ってみると、とても貴重な体験でした。ひとつは、計画のスケールが大きいこと。鉄道会社の中では、主に自社の土地を活用して計画を立てます。ところが、東京都の場合は道路を動かしたり、地下にあるものを地上に移動したり、線路の上に地盤を築いて広場を作ったり……。一企業ではめったに体験できないことで、ダイナミックに都市を変えていくのです。それはとても刺激的で、魅力的でした」
また、普段ご一緒する機会がないような人とも関係性を築けて、人とのつながりが広がっていきました。
会社に戻り、経営方針に新しい風を入れていく
撮影/柳原久子
東京都での経験は、社内に戻ってからの仕事に大きな影響を与えました。例えば、内部だけでなく、外部のパートナーと協業して周囲を巻き込んでいくことで、選択肢が増えて視野も広がっていきます。
私たちが抱えていたのは、関東の鉄道会社の宿命として、人口減少で乗客が減っていくという課題でした。10年以上前から、鉄道以外の事業に柱を作らなければならないと言われており、頭ではわかっているのです。でも、社内の危機感は低いと言わざるを得ない。そのため、外への広がりや新しい価値観を経営方針として取り入れるべきだと訴えていきました。
各部署で「新しいことをやってみたい」というキーマンを見つけて、少しずつ話をしていきます。飲み会や知り合いのつてなどをたどり、「ちょっと雑談しよう」と誘う地道な活動です。そうやって見つけた人たちに社内向けのセミナーに登壇してもらうなど、周辺の人から徐々に認知を広げ、社内の意識を変えようとしてきました。
外部の土地に投資して、リノベーションホテルにチャレンジ
入社10年目に事業企画部へ異動となり、収益不動産の新規取得にチャレンジすることに。保有する土地ではなく外部の土地を買って投資する、その意味を社内で理解してもらうのは簡単ではありません。ところが、最初に取得できた不動産の事業がとてもうまくいき、結果をもってして社内の理解を得られたのはラッキーでした。
「一緒に事業を進めていた上司にも恵まれ、気持ちよくコミュニケーションを取りながら進めていけました。京都にある中古のビルを購入し、リノベーションをしてホテルを開発。リノベーションブームの始まりと重なって話題性もありました。ホテルに滞在した方に日本の良さを伝えながら、スクラップアンドビルドではなく、使えるものを長く使うという環境への配慮もメッセージとして表現できたのです」
「ホテル カンラ 京都」の成功は、パートナーさんの力が大きかった。少し前から関係性があり、他の設計会社にはない発想で企画提案をしてくれる方々です。私たちは、既存事業の延長ではなく、新しい挑戦を通して成長に寄与するものを求めていました。そんな思いを汲み取り、既存事業と相性のいい領域で、シナジーが生み出せる企画を提案してくださったのです。
日本の社会問題が、小田急沿線に凝縮されているのではないか
撮影/柳原久子
今の部署では、サーキュラーエコノミーの実現と、スマートシティの推進を担当しています。背景には、小田急沿線が、関東私鉄会社の中でも多様な課題を持っていることがあげられます。都市や住宅地、海や山などの観光地、田畑のあるのどかな田舎など、沿線それぞれの地域特有の社会課題を抱えています。裏を返せば、日本中の社会課題が小田急沿線に凝縮されているのです。つまり、私たちがそれらを解決していけば、日本全体のモデル地域になるのではないでしょうか。
組織にいると、自分の与えられた役割でしか動けないと思ってしまいがちです。でも、会社や社会にとっていい影響があるなら、誰がやったっていい。与えられた領域以外に、さまざまな場所に首を突っ込んでいくようにしています。
「仕事や生活で大切にしているのは、自分の役割にこだわらないこと。自分の枠を取り払って発想の幅を広げられるよう、日ごろから意識しています。例えば、まったく違う部署からどう見えるか? 社外から見たらどう考えるか? と想像してみると、視野が広がっていくのではないでしょうか」
プライベートでは、コロナ禍の前から2拠点生活をしており、違う視点から物事を見るのに役立っています。東京のマンションに住んでいると、外で雨が降ってきても気が付きません。小学生の子どもに、季節や野菜には旬があることなどに触れながら育ってほしいと、週末は千葉に拠点を移したのがきっかけ。田舎で暮らしていると、その場所ならではの社会課題もリアルに見えてきます。
多様な人との関わりも大切にしながら、役割を超越して泥臭く進んでいく。そんなスタイルが、私に合っていると思っています。
MASHING UPより転載(2021年7月19日公開)
(文・栃尾江美)
栃尾江美:外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。雑誌や書籍、Webサイトを問わず、ビジネス、デジタル、子育て、コラムなどを執筆。現在は「女性と仕事」「働き方」などのジャンルに力を入れている。個人サイトはhttp://emitochio.net