買い物で“推し”を応援できるクレカ「ナッジ」。J2リーグ、アイドル、大学ヨット部などコアなファン狙う

フィンテック企業・ナッジ(東京・千代田)が、買い物でアーティストやアスリートを応援できるクレジットカードを発行する。ターゲットはニッチな“沼”にハマったZ世代、ミレニアル世代だ。

コロナ時代のエンタメ・スポーツ支援、特典に予定しているNFTコンテンツなど、同社社長の沖田貴史氏が、サービスの全体像を語った。

クレカでファンマーケティング

ナッジ

記者会見で話すナッジ社長の沖田さん。

出典:記者会見配信より

ナッジは2020年設立、これまでクレジットカード会社のCVCであるセゾン・ベンチャーズなどから10億円を資金調達をしている。9月2日に会見を開いた社長の沖田貴史氏によると、クレジットカード「Nudge」の特徴は以下の5つだ。

・Visaのタッチ決済機能搭載カード(プリベイド式ではない)

・利用限度額は10万円

・非正規雇用など不安定な職業でも通りやすい独自の与信審査。性別、人種なども問わない

・返済は全国のセブン銀行ATMで、利用日の翌日から好きな金額で可能

・利用額に応じて好きなアーティストやアスリートから特典がもらえる

最大の特徴は、決済がそのまま同社が提携するアーティストやアスリート、スポーツクラブの応援につながる、ファンマーケティング連動型のクレジットカードということだ。

「ユーザーに新たな支出は必要ありません。これまで現金で買い物していたものをクレジットカードに変えるだけ。ある種『ふるさと納税』と同じ形で、自分の懐を傷めずに『推し』を応援できます。

私たちとしても、このカードでコロナ禍で打撃を受け続けているエンタメ、スポーツ界の新たな活動資金、収益の多様化に貢献できればいいなと」(沖田さん)

利用者は応援したい人やチームをカード申し込み時に選択。「推し」は月に1度までなら変更できる、ファンの心変わりにも優しい仕組みだ。

コアなファン25万人を獲得して黒字化

ナッジ

提携先には東北のスポーツクラブが並ぶ。「東日本大震災から10年、新たな支援になれば」と沖田氏。

出典:記者会見配信より

同社が初回の提携先として発表したのは、歌手の加藤ミリヤさんのほか、サッカーJ2リーグの「ブラウブリッツ秋田」、福島県を本拠地とするプロ野球独立リーグのチーム「福島レッドホープス」、プロバスケットボールB3リーグの「岩手ビッグブルズ」や、男性アイドルグループ「WIWI」、アニメグッズなどのオンライン販売サイト「D.D.マーケット」、そして中央大学ボート部まで幅広い。

狙うはニッチでも、コアなファン層への普及だとする。

「航空会社や百貨店など、既存の提携カードは最低でも数万人の顧客が見込めないと発行できません。

つまり1万人ファンがいても話になりませんが、私たちは1000名でもすごく嬉しいんです」(沖田さん)

一体なぜか。沖田氏は2年後、2023年の黒字化を目指していると言い切る。そのためには利用者25万人を獲得することが、損益分岐点(ブレークイーブン)だという。

同社はチャレンジャーバンク(実店舗を持たないアプリ型の銀行)を目指しており、今回のサービスもアプリで完結することがポイントになっている。

特典にはNFTも想定

ナッジ

男性アイドルWIWIの場合、利用金額5万円でオリジナル待ち受け画像、30万円で目覚ましボイスがもらえる。

出典:ナッジHP

「25万人は一般のクレカより相当低い数字ですが、Nudgeは申し込みや利用状況、問い合わせを全てアプリから行えるなど、設備投資や運用コストが低いので実現可能です。

1000名ファンがいるうちの250名がユーザーになってくれれば、ブレークイーブン。

今後もマスではなく、ニッチでもコアなファンがいる方々と提携して、そのファンの方々にリーチしたいと考えています」(沖田さん)

沖田氏は明言していないが、1000名のファンがいるアーティストやアスリート1000グループと提携すれば、25万ユーザーを獲得できる、ことになる。

さらに、「ユーザーには経済的なインセンティブではなく、体験型のものをスマホ連動で還元していく」(沖田さん)という。

ユーザーが利用金額に応じて提携先からもらえる特典としては、限定のグッズなどに加え、​​「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」も予定している。提携先の動画や音声などのデジタルコンテンツをナッジがNFT化してサポートするという。

たとえば、好きなスポーツ選手が自分の名前を呼んでくれる音声をNFTとしてもらえるイメージだ。

申し込みに収入も性別も勤務先も不要

ナッジ

出典:記者会見配信より

Nudgeがユーザー層として想定しているのは、Z世代、ミレニアル世代と呼ばれる20〜30代の若者だ。

「20代はクレジットカードの利用率が低い」(沖田さん)が、ナッジの調査によるとその理由として、非正規など不安定な雇用が多く審査に通らないこと、また申し込みが面倒という声が多かったという。

そこで同社ではセゾンカードを発行するクレディセゾンと共同し、AIによる新しい与信審査を導入した。

過去の延滞や不正利用などは確認する一方、勤務先や収入、家賃、家族構成に加え、性別や人種も問わない。差別につながらないよう配慮した審査になっている、とする。

気になる利息、手数料は

ナッジ

ナッジはセゾン・ベンチャーズ、セブン銀行、凸版印刷、ベンチャーキャピタルのSpiral Capitalなどから、累計10億円超の資金調達を行っている。

出典:記者会見配信より

気になるのがナッジの収益化の方法だ。沖田氏は「既存のクレジットカードと同じです」と話す。

通常の提携クレジットカードでは、ユーザーがナッジに支払う手数料、支払いを受け取った側(加盟店)の企業がナッジに支払う手数料、提携先がナッジに支払う手数料などの決済手数料が収益源になっている。

今回の場合はどうか。

利用者が支払う利息は利用の翌月末まではかからないが、それをこえると1日ごとに2000円につき1円が発生する。

利用の最短翌日から好きな金額をセブン銀行ATMで返済できることがウリだが、少額ずつ返済すれば利息がかさむ懸念もある。沖田氏によると、アプリでいつ利息が発生するか事前に通知するため、「『うっかり手数料』で儲けるつもりはない」という。

またユーザーにとって気になるのは、ナッジと提携先アーティストやチームなどの関係だ。これに関しても「提携先から決済手数料は取らない。また特典としてデジタルコンテンツをNFT化することでビジネスをするつもりもない」(沖田氏)そうだ。

前出のように、アプリで低コスト化を実現したからこそ可能なビジネスモデルなのか。

ただしクレジットカード利用に慣れていない若者向けを意識していることもあり、浪費を促さない仕組みも求められるだろう。

(文・竹下郁子

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