アサヒビールなどを傘下に置く飲料大手アサヒグループホールディングス(上画像中央は本社ビル)が、気候変動対策として大きなポテンシャルを持つ技術の実証実験に着手する。
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飲料大手のアサヒグループホールディングス(アサヒGHD)が、2050年までの二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロに向けた取り組みを活発化させている。
2021年2月、CO2排出量の削減に関する目標を引き上げることを発表。4月には、関東・関西地区の19工場で購入する電力を、太陽光発電など再生可能エネルギー(再エネ)に切り替えた。
現時点で(上記の工場を含む)国内全拠点の購入電力の約40%が再エネとなり、2025年までには100%再エネ化する計画。海外でも25年までに9割の工場を再エネ化するという。
そして今回、アサヒGHDはCO2排出量削減に向けたさらなる取り組みとして、「メタネーション装置」の実証試験に着手することを発表した。
脚光浴びる「メタネーション」とは?
「メタネーション」なる用語が何を意味するか、知っている人は相当に環境意識の高い人だ。
簡単に言ってしまうと、CO2と水素(H2)からメタン(CH4)を合成する手法を指す。メタンは、東京ガスなどが各家庭に供給している都市ガス(天然ガス)の主成分。
「メタネーション装置」を使ったメタン合成の大まかな流れ。
出所:アサヒグループホールディングス
メタネーションによって製造される「合成メタン」の最大の利点は、都市ガスの導管やガスコンロといった既存のインフラをそのまま活用して家庭や企業に供給できることだ。
さらに、火力発電所や工場などで排出されるCO2をメタン合成の原料として使うため、CO2削減効果を見込める。
仮に都市ガスを使っている家庭など(全国で合計約2761万件、2021年6月現在)のすべてが合成メタンに切り替わるとしたら、そのCO2削減効果の大きさは容易に想像がつく。
実は、メタネーションの技術自体はおよそ100年前には開発されていた。それがいま、可能な限りインフラ投資を抑えて「2050年カーボンニュートラル宣言」の目標を達成する必要に迫られ、にわかに脚光を浴びているわけだ。
メタネーション技術の活用は、2021年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」に盛り込まれ、同月下旬には経済産業省・資源エネルギー庁の旗振りで、関係省庁や民間企業などから成る「メタネーション推進官民協議会」が発足し、第1回会合が開かれた。
2021年6月下旬に開かれた第1回「メタネーション推進官民協議会」の様子(オンライン中継のスクリーンショット)。
撮影:湯田陽子
驚かされるのは、官民協議会に参加する民間企業の顔ぶれだ。
東京ガス、大阪ガス、東京電力ホールディングス、関西電力などのエネルギー企業はもちろんのこと、日本製鉄、JFEスチール、IHI、デンソー、日本郵船、日立造船、商船三井、三菱商事、住友商事など、日本を代表する大手企業が委員に名を連ねる。
メタネーションに対する産業界の関心の高さが伺われる。
国内食品業界では初めての実証試験
そうした関心の高さを反映し、(一般的にはあまり知られていないが)すでにさまざまな企業がメタネーションの実証試験に着手している。それでも、アサヒGHDが始める実証実験は、国内の食品業界としては初めての取り組みとなる。
グループ企業のアサヒクオリティーアンドイノベーションズが、アサヒGHDの研究開発センター(茨城県守谷市)にメタネーション装置を設置。9月から2022年2月にかけて、連続1万時間の試験を行う計画だ。
アサヒGHDの実証試験に使用されるIHI製のメタネーション装置。
出所:アサヒグループホールディングス
今回の実証試験では、2020年1月から(同研究開発センター内で)別途の実証試験を行っている「CO2分離回収試験装置」を使い、ボイラーの排気ガスからCO2を回収。メタネーション装置に投入する。
CO2分離回収試験装置とメタネーション装置の連結やシステムとしての運転性能、合成メタンの品質、コスト採算性などを確認したうえで、最終的にはアサヒGHDの工場で発生したCO2を回収して合成メタンとし、現地で(ボイラーの燃料などに)再利用する「工場内カーボンリサイクル」を実現できるよう、検討を進める。
アサヒGHDの広報部門によると、今回の実証実験でCO2分離回収試験装置から回収できるCO2は1日あたり10kg、それをメタネーション装置に投入して製造できる合成メタンは1日あたり3.5kgになる見込みだ。
(取材・文:湯田陽子)