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コロナ対応やればやるほど赤字に。コロナ治療「最後のセーフティーネット」の叫び

「私たちは、自治体が支援しきれなくなった最後のセーフティーネットです」

こう語るのは、首都圏で新型コロナウイルスの自宅療養者への治療にあたる、医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長だ。

9月3日、その悠翔会がクラウドファンディングプラットフォーム、READYFORを使って1200万円を目標としたクラウドファンディングを開始した。

なぜ、クラウドファンディングで資金を募らなければならないのか。

そして今、東京の在宅医療の現場で何が起きているのか、悠翔会の佐々木理事長に聞いた。

※READYFORによる支援ページはこちら

東京都の85%をカバーするセーフティネット

佐々木さん

オンライン記者会見に参加する、医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長。

記者会見の画面をキャプチャ

悠翔会は、2006年に創設された首都圏最大級の「在宅医療専門」クリニック。(首都圏に17拠点、沖縄に1拠点)

もともと、がん患者の終末期における緩和ケアなど、「人生の最終段階」を生きている方々に、最後までできる限り自宅で過ごすためのサポートをしてきた団体だという。

しかし、デルタ株の流行によって感染者が急増した2021年8月、東京都からの要請で新型コロナウイルスに感染した自宅療養者に対する在宅医療に対応することになった。

現在は、東京都医師会と業務委託契約を結ぶ形で、23区の85%(居住人口約1000万人)をカバー。医師、看護師、ドライバーが3人一組となったコロナ対応の専従チームを3つ編成し、自宅療養者への往診にあたっている。

多くの患者がホテル療養や、自宅療養を余儀なくされている現状では、仮に自宅療養中に重症化しても、すぐに医療機関へ搬送されるわけではない。

感染者が増えすぎて保健所の業務もひっ迫しており、自宅療養者の健康管理にも手が回らなくなりつつある。実際、自宅療養中に体調が悪化し、亡くなる事例なども報告されている。

医療体制

コロナ禍での医療体制。在宅医療での対応は、最後の砦だ。

提供:医療法人社団悠翔会

佐々木理事長は在宅コロナ患者の基本的な診療体制について、まずは診断をした医療機関、そこで対応できなければかかりつけ医が対応する事になっていると説明する。

さらにそこでもカバーできないようなら、自治体ごとに整備している医療支援体制によって患者の受け入れ先を探すことになっている。

「ただし、この仕組みでも十分に対応できない方が出てくることがあります。そういった自治体ごとの医療支援体制でもカバーできない患者さんがいたときに、私たちがサポートしています」(佐々木理事長)

佐々木理事長は、コロナ禍での在宅医療には、次の2つの役割があると指摘する。

  • 自力で回復できる人たちの回復をサポートすること
  • 入院する必要があるけれども、今すぐにはできない人の命を入院までつなぐこと

自力での軽快が可能な人の回復をサポートすることで、重症化する人を減らす。仮に重症化しても適切な医療につなげることで、死亡を防ぐ。

言葉どおり、東京都におけるセーフティーネットとしての役割を担っているわけだ。

「往診して終わり」ではない現状

対応本部

在宅コロナ対応本部。1日に4〜5人で対応にあたっている。

提供:医療法人社団悠翔会

悠翔会のコロナ専従チームは、基本的に保健所の要請に従って診療にあたっている。

都の各自治体からやってくる依頼に対して、悠翔会では在宅コロナ対応本部を設けて一元的に管理。そこで緊急性などを判断し、優先順位をつけて対応している。

また、往診後は1日1〜3回、電話による健康観察を続け、回復まで支援(必要に応じた往診)を続けている。この健康観察は、1日あたり100人にも及ぶこともある。

これに加えて、重症化しそうな患者に手配する酸素濃縮器の使用後の回収や簡易的なメンテナンスなどの作業も、悠翔会が自身で担っている。

メーカーが回収してメンテナンスする通常のスキームを続けていては、すぐに酸素濃縮器が足りなくなってしまうためだ(この対応は非常時対応として、環境感染症学会からも声明が発表されている)。

このように、「自宅療養者に対する往診」とひと口に言っても、単に医療従事者を派遣する以上にコストや手間がかかっているのが現状だ。

相関図

往診以外にも対応しなければならないことが多い。

提供:医療法人社団悠翔会

厚生労働省や東京都などからは、在宅医療における診療報酬の一時的な増額などの支援もある。しかし、基本的に訪問先への「往診」に対してしか報酬が支払われないため、日々の健康観察をはじめ、コロナ専従チームを持続可能な形で運営するには不足している。

つまり、コロナ対応をやればやるほど、医療法人としては赤字が膨らんでいってしまう構造になってしまっているのだ。

「日頃の往診の中で、たまにコロナの患者を診るのであれば、既存のサポートでも十分だと思います。ですが、専従のチームを作って進めるのであれば、そういうわけにもいきません」(佐々木理事長)

経済的な側面以外にも、コロナ特有の苦悩や負担も多い。

「酸素投与もステロイド投与も全部やった状態で、それ以上となると人工呼吸器しかない。そのためには入院しなければならないが、救急車を呼んでも運んでもらえない。そのときは、諦めるしかありません。


若い家族や患者本人に、これを説明しなければならないというのは、医療従事者としてものすごいストレスを感じることです。入院すればできることがあるはずなのに、それができないという辛さは、(コロナ以外の疾患をみる)通常の医療ではありません」(佐々木理事長)

「自宅放置」を「自宅療養」にするために

防護服

往診時の感染対策。在宅におけるコロナ診療では、出来ることの制約も多い。

提供:医療法人社団悠翔会

今回、悠翔会がクラウドファンディングで目標とする1200万円という金額は、診療報酬などの増額分を踏まえても、コロナ専従チームを10月末まで維持するために不足している金額(主に人件費)を試算したものだ(ただし、コロナの感染が拡大すれば負担はさらに増えることが想定される)。

悠翔会では、従来の訪問医療の枠組みの中で、約6400人の患者の人生を預かっている。

佐々木理事長は、

「この方々を放り出すわけにはいきません。経済的な状況で新型コロナの自宅療養者への往診が難しくなった時は、申し訳ないのですが(コロナの在宅医療から)撤退しなければならないと思います。やはり持続可能な仕組みがないと、当然、続けられないんです」

と、既存の仕組みでは自宅療養者が急増した現状を支え続けることは難しいと話す。

ただしその裏には、医療従事者として果たしたい思いもにじませる。

「新型コロナの自宅療養は、もともと原則入院だったものを原則自宅療養にしています。ただ、患者さんたちの多くは、『自宅療養』ではなく、『自宅放置』ではないかと言っています」

対応できないと言ってしまうのは簡単だが、その結果患者は医療の順番を待つだけになってしまう。

「私たちは、すべての人に医療が届くようにすることが責務だと思っています」(佐々木理事長)

東京都では、8月末から徐々にではあるが日々報告される新型コロナウイルスの新規陽性者の数が減少傾向にある。また、ワクチン接種も進んでおり、状況は少なくとも好転はしている。

しかし、ワクチンの接種率がある程度高い水準に至っても、感染者数が増えている国はある。デルタ株に代わる新しい変異ウイルスが登場する可能性もある。

今後しばらく、新型コロナウイルスとの共存が続く中で、いざという時のセーフティーネットを持続可能な形で維持できるような仕組みづくりは急務だ。

療養になっていない現場で、きちんとした医療の現場にするために出来ることは何か。

「日々の患者さんの管理をちゃんとやっていく。そのために、きちんと予算や仕組みをつくることが必要だと思います」(佐々木理事長)

佐々木理事長は、在宅医療でのコロナ対応に対する行政からの支援体制を整備する必要性についても指摘する。


なお、9月6日朝の段階で、クラウドファンディングにはすでに2000万円以上の支援が集まっている。クラウドファンディングの受付期間は10月29日(金)午後11時まで。

(文・三ツ村崇志

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