電動スクーター(キックボード)シェアの米ライム(Lime)が特定買収目的会社(SPAC)を通じた上場を断念したことが明らかになった。
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電動スクーター(キックボード)シェアのライム(Lime)が新たな資金調達に向けて既存の出資企業を含む複数の投資家と交渉を進めていることが明らかになった。
新型コロナ感染拡大を受けた行動制限の影響で、売上高の急減と大規模なレイオフを余儀なくされるなど「破たん寸前」まで追い込まれたライムにとって、新たな資金調達は次の緊急事態に備えたライフラインとなる。
Insiderは2021年2月、ライムが特定買収目的会社(SPAC)との合併を通じた資金調達を目指し、米投資銀行エバコア(Evercore)と協議していることを報じたが、SPACブームの減速と軌を一にして頓挫した模様だ。
「難しいのは(上場以前の)プライベートラウンドの資金調達です。それに比べれば、SPACとの合併による株式公開は大した問題ではありません」(取材に応じた匿名の関係者)
内情に詳しい関係者によると、SPACとの合併を断念したライムは、少なくとも2022年まで上場を先延ばしし、その間に別途の資金調達先を探す方針に転換したという。
本件に関して直接情報を得られる立場の関係者は、Insiderの取材に対し、ライムが最大2億ドル(約220億円)規模のコンバーティブル・ノート(転換社債)発行を検討していることを明らかにした。
同関係者によれば、2018年に初出資、2020年には電動自転車部門をライムに売却した米配車サービス大手ウーバー(Uber)が今回も関与する可能性が高い。
首尾よく資金調達が実現すれば、ライムの評価額はおよそ20億ドル(約2200億円)になる。
投資家とはまだ協議のさなかで、資金調達額や実施時期は変更される可能性がある。ライムとウーバーにそれぞれコメントを求めたが、返答は得られなかった。
(ライムのような)レイターステージのスタートアップがコンバーティブル・ノートを発行する場合、何らかのトラブルに見舞われているしるしであることが多い。
例えば、ウォール・ストリート・ジャーナルは2020年2月、米電子タバコ大手ジュール・ラブズ(Juul Labs)が一部投資家による評価額の引き下げを受け、7億ドル(約770億円)超のコンバーティブル・ノートを発行して運転資金を手当てしたと報じている。
そのときも、未成年の電子タバコ使用問題で訴訟を抱えるなどジュール・ラブズのトラブルが背景にあった。
ピーク時の2019年4月、ライムの評価額は24億ドル(約2600億円)まで増加。ところが、2020年春のパンデミック発生を受け、ウェイン・ティン最高経営責任者(CEO)によれば、売上高は一気に95%減少した。
結果として、2020年5月のウーバーをリードインベスターとする1億7000万ドル(約190億円)の資金調達ラウンドで、評価額は80%引き下げられた。
テック専門メディア・インフォメーション(The Information)によれば、上記の資金調達もコンバーティブル・ローンによるもので、ライムの評価額はわずか5億1000万ドル(約560億円)とされた。
同時に、ウーバーは2022〜24年にあらかじめ設定された価格でライムを買収できる権利を獲得している。
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ライムはこれまでに現在の書類上の評価額を上回る資金をベンチャーキャピタル(VC)から調達してきた。
2017年1月の創業以来、VCからの調達額はおよそ9億3500万ドル(約1030億円)にのぼり、アルファベット傘下のGV(旧グーグルベンチャーズ)、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)、ベイン・キャピタル・ベンチャーズ(Bain Capital Ventures)が主な出資者となっている。
ライバルのバード(Bird)はどうなった?
ライムにとって最大最強の競合である米バード・ライズ(Bird Rides)も、パンデミックによる売上高の急減に苦しめられている。
同社の発表によれば、2019年の純損失は2億2600万ドル(約250億円)、2020年には同1億8300万ドル(約200億円)で、2017年以降に調達した11億ドル(約1200億円)はあっという間に底をつきつつある。
ただし、バードはライムと違ってSPACとの合併合意までたどり着いた。今後数カ月のうちに株式を公開し、評価額は23億ドル(約2500億円)となる見込みだ。
とはいえ、この数字はピーク時の2020年初頭に記録した28億5000万ドル(約3100億円)という評価額を大きく下回るものだ。
電動スクーター(キックボード)スタートアップは、ウーバーなど先行する交通系スタートアップが成功をおさめたこともあり、2017〜2018年にかけて相次いで登場した直後は評価額もうなぎのぼりだった。
しかし、ウーバーのような巨大企業も含めて、新型コロナ感染拡大による観光・通勤需要の落ち込みによって成長に急ブレーキがかかり、回復がいまだに見込めない状況にある。
(翻訳・編集:川村力)