マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。
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人気のブログサービスWordPressの運営会社Automatticは最近、初めてWordPressをWindows 10上のMicrosoft Storeに公開した。
それはマイクロソフトにとって、数百万人のユーザーを持つアプリをアプリストアであるMicrosoft Storeに取り込めたという意味で、ひとつの勝利だった。同時に、Automatticにとっても勝利だった。Automatticのアプリ開発者は、リリースに至るプロセスは非常にスムーズだった述べるとともに、Microsoft Storeの「寛大な収益構造」にも賞賛を表した。
「(アプリをリリースする)プロセスはとてもスムーズでした。Windows上のストアでの我々のプレゼンスを通じ、アプリを広く露出することができました。中でも、アプリを公開する過程は極めてシームレスで、当社のプロセスを変更する必要は全くありませんでした」とAutomatticのソフトウェアエンジニア、ニコラス・サカインボー(Nicholas Sakaimbo)は、InsiderのEメール取材に答えた。
Automatticの見解はあくまで一開発者のものだが、それは、大小さまざまな開発者のアプリを公開させるようにマイクロソフトがアプリストア戦略を強化し、それが正しい方向に進んでいることを明らかに表している。
Insiderの取材に答えた4人のアプリ開発者は、6月に発表された新OSのWindows 11に搭載される新アプリストアについて、慎重ながらも前向きな見方をしている。Windows 11は、10月にリリース予定だ。
理論的には、優れたアプリストアは、マイクロソフトと開発者の双方にとってメリットをもたらす。RBCキャピタル・マーケッツのアナリスト、リッシ・ジャルリア( Rishi Jaluria)によれば、優れたアプリストアがあれば、ユーザーをよりWindowsに惹きつけることができるし、開発者は自分たちのアプリを数百万人のWindowsパソコンのユーザーに、手軽に一つの場所から提供する方法を手に入れることができる。
しかし、同時にこれらの開発者によると、これまでマイクロソフトはアプリ戦略で苦労しており、アップルのApp StoreやGoogle Playといった巨大アプリストアと肩を並べるためには、まだやるべきことが多くあるという。
「Microsoft Storeは過去数年間、ある程度見捨てられたような存在でしたが、Windows 11のリリースに合わせ、大きく改良されたのは素晴らしいことです」と、スケッチングアプリConceptsのデビッド・ブリタイン(David Brittain)共同創業者は言う。
Windows 11 は開発者を惹きつけるために大きな変化を遂げた
マイクロソフトは、新しくリリースするアプリストアについて、抜本的かつ広範な変更を加えている。それにより、Windows 10向けのアプリストアが、今まで大きく低迷していたことで失われた時間を埋めようとしている。
おそらくWindows 11での最大の変更点は、アプリ内購入について、必ずしもマイクロソフトの決済機能を使用する必要がなく、開発者が自社の決済機能を使えることだろう。開発者が自社の決済機能を使う場合、マイクロソフトに中間マージンを支払うことなく、アプリ経由の売上の100%を開発者が得られる。特に、ゲームアプリFortniteを開発したエピック・ゲームズがアップルとグーグルに対して起こした訴訟によって、大手アプリストアによる「課税」が話題を集めたことを考えると、この点は注目に値する。
マイクロソフトがより多くの開発者に門戸を開くためにとっている方法は、他にもある。Microsoft Store上のアプリは、ファイルフォーマットとして必ずしもユニバーサル・ウィンドウズ・プラットフォームを使用する必要はなくなる。
また、マイクロソフトはAmazonと協力し、リリースが遅れていたAndroidアプリストアを2021年後半にWindows上に搭載する予定だ。Insiderの取材に対し、マイクロソフトは、近々Windows Insiderというプレビュー・プログラムの登録者に、Androidアプリのプレビュー版を展開する予定だと述べた。
「Windows Insiderのプレビュー期間中、既に多くの『伝統的な』 Win32のアプリがMicrosoft Storeに並べられています。これはエンドユーザーにとって良いことです。Microsoft Storeが、Windows上でアプリをダウンロードするための中心的なアプリストアになるわけですから」とソフトウェア開発会社SerifのWindows用開発者、マーク・イングラム(Mark Ingram)は語る。
マイクロソフトにとっては、またとないやり直しの機会
Conceptsのブリタイン共同創業者は、こうした変更がより多くの開発者をMicrosoft Storeに惹きつけ、結果として強力な有料顧客エコシステムを構築することで、より多くのユーザーの獲得に寄与すると期待している。アップルがApp Storeを通じてそうしたように。
ヤッチング・パートナーズ・インターナショナルの開発者コーリン・キアマ(Colin Kiama)は、仕事の傍らMicrosoft Store向けアプリを自ら開発している。キアマは、ようやくMicrosoft Storeが「忘れ去られた状態」から脱出したと言う。
キアマがアプリ開発を始めたきっかけは、当時Windows Phoneを持っていたからだ。しかし、マイクロソフトが携帯電話事業を中止したとき、同社によるアプリ開発へのサポートも弱まったと感じたという。
「ようやく最終目的地、つまりマイクロソフトの計画が何かが見えてきた。とても嬉しく思っています」とキアマは言う。
とはいえ、アップルがApp Storeで実現しているものをマイクロソフトが本気で追求するには、努力が必要だ。
前出のキアマによると、アプリのダウンロード数やその他のデータを追跡するためのマイクロソフトのツールには、バグが多く、一貫性を欠く場合があり、そのためストア上における各アプリの業績把握が困難になり得るという。
一方、iPhoneやiPad向けのPastel や BroadcastsといったApple用アプリを長年開発してきたスティーブン・トラウトン=スミス(Steven Troughton-Smith)は、Windows 11の発表を知り、最新のマイクロソフトの開発ツールをダウンロードし、自分が開発したアプリをWindows向けに作り直そうとしていると言う。
トラウトン=スミスは、Insiderの取材に対し次のように記している。「私は以前からずっと、強力で、ネイティブで、見た目も美しいアプリのエコシステムがWindows上に構築されることを願ってきました。Windows 11が提供してくれるものに、心からワクワクしています。きっかけはそれだけでしたが、マイクロソフトの最新の開発ツールとソフトウェア開発キット(SDK)を試したいと思い、MacやiPad向けに私が開発した人気アプリの素晴らしいプロトタイプを素早く作ることができました」
しかし、そのプロトタイプを実際にリリースするための投資については、トラウトン=スミスは躊躇しているという。
「プロトタイプ制作に成功したこともあり、これらのWindows用の作業を続けたいと強く思います。しかし、MacとiOSというユニバーサルなプラットフォーム上でさまざまなことが起こっている中、それらに時間を見つけることはますます非現実的になっています」
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)