今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。今後のキャリアの進路に迷っている40代後半の方です。
私がAさんへ送るメッセージは、「迷う必要はありません。ぜひ実行してください!」です。
日頃から私は「非連続キャリア」をお勧めしています。
同じ仕事を繰り返しやっているだけでは、人の成長は停滞してしまいます。
先が読めないVUCAの時代(※)の中で、成長し続けるために変化を求めることは、キャリア理論的にも常識とされています。Aさんはまだ40代後半。あと20年くらいは仕事を続ける将来を想定されているのではないでしょうか。
同じ場所にとどまっていると筋肉が硬直してしまいますので、ぜひ別の筋肉を鍛えてみてください。
※VUCA(ブーカ)の時代とは?
「VUCA」とはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉。テクノロジーの進化によって複雑さが増し、予測が困難な時代を言います。
40代後半、新しいことをするのは「手遅れ」じゃない
Aさんは先々のキャリアへ目を向け、ある程度のビジョンを描いていらっしゃるとお見受けします。しかし実際には、40代にもなると「変化」に対して抵抗感を抱く方が多いのも事実です。「新しいことをするには手遅れなんじゃないか」と。
しかし、どの時点からでも遅すぎるということはありません。気づいた時点でチャレンジしていただきたいと思います。
どんな分野に身を置いているかにもよりますが、今やっていることは、このまま続けていっても陳腐化をたどるだけかもしれません。あふれる情報社会の中で、新たなインプットがなければ5年先も使える情報はたったの15%とも言われています。
これだけ変化のスピードが激しい時代です。今はよくても、何年か先、あなたの仕事は価値を失ってしまう可能性もあります。その時になって新しい分野へ踏み出そうとしても、硬直した筋肉では対応できません。だから、いろいろな種類の筋肉を鍛えて、バランスの良い筋肉質なカラダづくりをしながら柔軟性を高めておくことが大切です。
とはいえ、40代となると、20~30代に比べてキャリアチェンジの選択肢は狭くなっています。
しかも家庭を守る立場になっていることも多く、お子さんがいれば教育費もかさんでくる時期。収入減の可能性も考えると、「転職」というリスクをとれない事情もあるでしょう。経験がない分野への転職は、多くの場合、いったん収入を下げる覚悟が必要ですから。
そこで40代の方には、リスクを抑えながら、新たな方向へキャリアを広げていくチャレンジの仕方をお勧めします。
リスクを抑えてキャリアを広げる…どうやって?
リスクを抑えながら新たな方向へとキャリアを広げていく……どうすればそんなことができるんだろうと思った方もいると思います。4つの方法をご紹介しますね。
1. 今の強みを活かしつつ周辺へ「染み出す」
これまで築いてきたキャリアを捨てたり崩したりする必要はもちろんありません。まったく新しいことをやらなくてはならないわけでもありません。
今の自分の強みを整理し、周辺の分野へ「染み出す」ことを意識してみてください。
今までの経験にプラスして、相乗効果を生み出せるような関連領域へ、徐々にでも広げていくのです。
分かりやすい例を挙げるなら、「これまで採用業務に強みを持っていた人事職が、人事制度企画へ染み出す」「マスメディアを使ったプロモーションを手がけていたマーケティング職が、SNSマーケティングへ染み出す」などです。
Aさんは「将来性がより明るい方向へキャリアの軸足を移す」と考えていて、「その分野で多少の経験がある」とのこと。まさに正解だと思います。
2. 自社内で「異動」「新たなプロジェクト」のチャンスを探る
「周辺領域への染み出し」であれば、転職しなくても、自社でチャンスをつくれるのではないでしょうか。
他部門へ異動する、子会社へ出向する、あるいは社内横断型のプロジェクトに手を挙げて参加する、など。
40代ともなれば、ある程度の権限は持っていて、社内人脈も築けているのでは? 自ら声を上げ、新たなプロジェクトを立ち上げる道もあると思います。
例えば、今はどの会社もDX(デジタルトランスフォーメーション)に注目している時期。ご自身の業務にデジタルを取り入れることで生産性アップや新たな価値の創出を図るチャレンジは、キャリアにとって大きなプラスとなるでしょう。
3. 「市場のニーズ」を意識する
「自身のキャリアに関連する領域」「自分が興味を持てる領域」に加え、「市場で求められている領域」という観点も見落とさないでください。
先ほど触れたように、DXは世の中のトレンドであり、この先しばらく続くでしょう。
ほか、IPOが活発化しているので、IPOに向けての組織整備に関わる人材も重宝されます。
その時々で「世の中に求められている仕事」がありますので、アンテナを張ってキャッチアップしてください。
4. 「副業」で未知の領域を経験する
会社で許可されているなら、副業をするのも手段の一つです。
今の会社に在籍しながら、自分の強みを活かして他の会社を支援。その会社で、自社では経験できないようなプロジェクトにも携わるのです。
実際、近年、副業をする20~30代は、単なる「副収入」を得るためという「副業1.0」の目的以上に、「スキルアップ」「経験の幅を広げる」ことを目的としている人が多数。「副業2.0」の時代が到来したと感じます。
また、将来のキャリアデザインを描くうえでその道に通じるチャレンジをするための「副業3.0」に取り組む人も増えてきました。
40代での転職。会社選びで注目したいポイントは?
このように、転職しなくても新たな領域を経験する方法はありますが、現状を変えるのが難しければ、転職も一つの選択肢です。
20年以上、同じ環境で仕事をしてきたなら、そろそろ「変化」を経験しておきたいところです。
変化を避けてきた人が、50代になってリストラに遭い、メンタルを崩してしまうケースは少なくありません。その点、変化を経験してきた人は強いのです。少しでも柔軟性があるうちに、異なる環境に飛び込んでみるといいでしょう。
なお、40代の転職は、この先何度も転職のチャンスがある20代とは異なります。事業や会社の成長性や仕事内容だけで選ぶと失敗するケースもあります。
注目したいのは「評価の仕組み」「組織構造」です。
実績を挙げれば正当に評価され、より裁量権が大きなポジションへ昇っていけることが、今後のキャリアを発展させるためには重要です。
また、人材の層が厚く、自分より上に何層もの傘がある状態の組織では、高く評価されても上のポジションへステップアップが難しいとも言えます。実績次第で、どんどん上のポジションを獲得していける会社のほうが、将来の可能性が広がります。
その2点も意識しつつ、新たなチャレンジができる場所を探してみてください。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。