独ブランデンブルグ州グリュンハイデで建設が進むテスラのギガファクトリー。約1年前の2020年8月31日撮影。
Sean Gallup/Getty Images
電気自動車(EV)世界最大手テスラ(Tesla)がドイツの首都ベルリン近郊で進める「ギガファクトリー」建設プロジェクト。
ベルリンの南東30キロほどにある森と湖の町、ブランデンブルグ州グリュンハイデがその舞台だが、2019年末の建設計画発表から2年が経とうといういまなお、操業開始の具体的なスケジュールは見えてこない。
当初計画では今年7月にも最初の生産ラインが動き出すはずだったが、環境保護を訴える地元住民や関係団体の反対、さらには煩雑な行政手続きに悩まされ、同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が「10月にも完成車を出荷したい」(ロイター、8月13日付)と発言するのがやっとの状況だ。
65億円を地元が全額負担し、駅を2キロ西に
テスラの現地事業責任者を務めるアレクサンダー・リーデラーは1年ほど前、ブランデンブルク州議会でギガファクトリーの建設計画についてプレゼンしている。
普段と変わらず、自信満々の態度で議員たちの前に姿をあらわした彼は、一切の質問を許さず、いくつもの要求を一方的にまくし立てた。
それらの要求のなかに特に重要なものが混じっていた。近傍のファングシュロイゼ駅を2キロ西に、つまりギガファクトリーの敷地まで線路を延伸し、駅を移設してほしいというのだ。
内情に詳しい関係者によると、テスラは鉄道駅の移設費用をブランデンブルグ州政府が負担すべきとも主張。結果として、5000万ユーロ(約65億円)の費用はすべて州政府が負担することに決まった。
ところが、ここに来て州政府がこの負担を免れる可能性が出てきた。
州議会左派グループに専門的見地からの意見を求められた独法律事務所シュトライトベルガー(Streitboerger)が、移設費用の負担について欧州連合(EU)の中心機関である欧州委員会に報告すべきと結論したのだ。
シュトライトベルガーによる指摘は、要するに、駅移設はテスラだけに利益をもたらすインフラ支援であって、地域コミュニティを広く利する手段ではなく、その費用負担は「補助金」の一種とみなすべき(ゆえに企業の公正な競争を監視する欧州委員会に報告すべき)ということだ。
シュトライトベルガーが州議会に提出した報告書には以下のように書かれている(一部略)。
「ブランデンブルク州によるファングシュロイゼ駅の移設は、テスラ工場敷地への貨物輸送あるいは工場従業員の通勤に便宜を図るもので、それ以上の数の一般乗客の鉄道利用を促進する目的とみなすことはできない。
この(移設後の鉄道駅という)専用インフラのもたらす利益を享受するテスラが、財務面で得られる優遇に相当する費用を負担するのでない限り、(移設費用の州政府による負担は)基本的には補助金とみなされる」
報告書ではさらに、同法律事務所のアドバイザリーメンバーで独ミュンスター大学教授のクリストフ・ゲリシュが、ブランデンブルク州政府による費用負担は企業への補助金として欧州委員会に登録されるべきだったが、実際には登録されなかったと指摘している。
Business Insider Germanyの取材に対し、ブランデンブルク州の運輸当局もこの事実を認めている。
ゲリシュはこう続ける。
「したがって、特定の企業や製品に対する国家補助金の支給を禁止するEU競争法に照らし、優遇措置に関する欧州委員会への通報や特定の補助金申請(今回のケースでは明らかにそれを欠くが)に基づき、補助金支給が例外的に許可される可能性があるかどうかにかかわらず、ブランデンブルク州政府による便宜供与はきわめて問題である」
端的に言えば、州政府の費用負担による駅移設は違法である可能性が高いということだ。
州議会左派グループの法律顧問は、この問題の帰結について、3つの可能性があると考えている。
第一に、欧州委員会が補助金を違法と結論し、テスラがすべての費用を負担しなければならなくなる可能性。
第二に、ブランデンブルク州政府に罰金が科される可能性。州政府は厄介な手続きを背負い込むことになる。
第三は、BMWやダイムラー、フォルクスワーゲンなどテスラと競合するドイツの自動車メーカーが補償の支払いを受ける可能性。この場合、テスラが公共部門を通じて競争上の優位性を付与されたとみるわけだ。
州議会左派グループの最有力議員でブランデンブルク州元財務大臣のクリスチャン・ゲルケは、州政府に問題を早急に解決するよう求めている。
「州政府は5000万ユーロ(約65億円)の駅移設費用をテスラにも負担させるよう求める必要がある。州政府がこの『補助金』について黙秘していることは何より大きな問題だ。テスラに"贈り物"をしたり、見て見ぬふりをしたり、問題はいまに始まったことではない」(ゲルケ議員)
Business Insider Germanyはブランデンブルク州の運輸省に取材を申し込んだが、費用負担に至る詳細については一切語らず、一方で法律事務所の専門的意見には反論している。
「テスラとの合意とは無関係に、RE1(=広域・幹線輸送を担う急行などの系統)の編成両数の多い列車の乗り入れを実現するため、ファングシュロイゼ駅の拡大は以前から必須とされてきた。(それを前提とすれば)テスラ工場の建設計画に伴う新たな鉄道需要を考慮するのは理にかなっている」
(翻訳・編集:川村力)