自分たちの夢を実現している夫婦にパートナーシップを10の質問で探る「だから、夫婦やってます」。
8回目の後編は、ポピンズホールディングス社長 轟麻衣子さんの夫であるゴメス・モレノ・フアン・マニュエルさん。コロンビア生まれ、フランス育ちで国籍はイギリスという多文化のバックグラウンドをお持ちです。
ロンドンの金融街でキャリアを歩み、日本に移住してきたフアンさんから見た夫婦の危機や、今後の夢とは?
写真:千倉志野
—— 出会いのきっかけと結婚の経緯は?
私たちはお互いに20代後半の頃、INSEAD(欧州経営大学院)のMBAプログラムに参加した生徒として知り合いました。私が参加したのは、「世界のどこでも働けるスキルと知識を身につけたい」と考えたからです。異文化を学びたいという意欲があり、特にアジアには関心を持っていました。
INSEADは世界の数カ所に拠点があり、私はフランス校に在籍していたのですが、1年間のプログラムの途中で交換留学生としてシンガポール校に行くことに。引越し先の部屋を探していたときに、空き部屋を紹介してくれたのが彼女のルームメイトだったのです。
期間は2カ月ほどでしたが、近くで生活をする学友として、いろいろな話をしながらお互いのことを知っていきました。話題は、ビジネスや家族、音楽、母国の文化のことまで幅広く。それまで人生に起きた出来事をお互いに話し、聞きながら、人となりや生きる姿勢を理解していきました。
彼女はそれまで出会ったどの女性とも違いました。エレガントな振る舞いで誰に対しても優しく、自然で洗練されたコミュニケーションができる。初めて会ったときから特別な感情を抱いていました。
—— なぜ「この人」と結婚しようと思ったのですか?
どちらかというと、「なぜ彼女が自分を選んでくれたのだろう?」と聞きたいですね(笑)。麻衣子と私は生まれ育った文化はまったく違うのに、人生で大切にしている価値観はとても近く、一緒にいることが自然だと感じられました。例えば、家族に対する愛情や、「家族という関係性の価値を社会の中で高めていきたい」というビジョンが一致していました。性格面では私は内向的であるのに対して、彼女は社交的。補完関係もありつつ、足並みが揃っている。人生の伴侶として理想的な相手だと最初から感じていました。
麻衣子と結婚することは、麻衣子の夢を尊重し、支援する人生を選ぶということでもありました。彼女には成し遂げたい思いが強くあって、いずれは家業を継ぎたいという考えは最初から理解していましたし、その生き方が彼女の素晴らしい魅力でもありました。私自身も、家族を軸としたビジネスを推進していくという彼女の目標には強く共感しましたし、私の夢でもあると思えました。夫婦はワンチームです。妻にやりたいことがあれば支えたいし、私の人生も妻が支えてくれています。
長く暮らしたヨーロッパから日本へ移住することは大きなチャレンジでしたが、不安よりも楽しむ気持ちのほうが勝っていたと思います。私は専門がファイナンスで、ロンドンでは金融街でキャリアを積んでいました。日本に渡った後、幸運にも金融業界で仕事が見つかり、今は日系証券会社で新規事業開発の担当をしています。ブロックチェーンなど先進的な技術に関われる仕事はすごく面白いですし、日本で子育てをしている日常も楽しんでいます。
私は母国のコロンビアも大好きですし、まさか自分が日本で子育てをする道を歩むとは想像もしていませんでしたが、人生とはそういうものですね。すべてのきっかけは、15年前の交換留学。しかも、麻衣子のいるシンガポール校を選んだのは私の意思ではなく「くじ引き」の結果だったのです。あの時に違う選択肢を引いていたら……と想像すると、運命を感じますね。
「相手は分かっていない」前提に立つ
写真:千倉志野
—— お互いの自己実現を支援するために、大切にしてきたことは?
日頃のコミュニケーションがすごく大切だと考えています。妻は社長という役割上、誰にも言えない課題を抱えるときも少なからずあるはずです。私からあれこれと聞き出す訳ではありませんが、彼女が誰かに頼りたいときに支えになれるよう心掛けているつもりです。
仕事だけじゃなく、子どもを育てる父・母として、よく話をしていますよ。子どもたちが寝た後に、リラックスしながら会話するのがほぼ日課のようになっています。
一緒に暮らし始めてすぐに分かったことが一つ。「これくらい分かってくれるだろう」と相手に期待するのは禁物。「相手は分かっていない」ことを前提に丁寧に説明すること。そして、説明してもなお相手が分かってくれないときは、相手が分からない理由を理解しようと努力すること。私たちのような異文化カップルの場合は、特に意識しなければいけないと肝に銘じています。
—— パートナーから言われて、一番うれしかった言葉は?
うーん、何がいいかな……。きっと妻は同じ質問を受けて素敵な回答をしてくれたかもしれないですが、私はこれといった言葉を選べません。日常のかけらがたくさんコレクションされていて、特別な言葉を一つだけ選ぶことができないのです。言葉だけでなく、彼女と共有してきたたくさんの経験が宝です。
麻衣子と出会い、共に時を重ねて私は大きく変わったと思います。もちろん、いい意味で。お互いに影響を与え合い、私も少しは洗練されたかなと思っています。
—— 夫婦にとって最もハードだった体験は? それをどう乗り越えましたか?
夫婦の危機? もちろんありましたよ。けれど、深いところの関係性は築けている自信があるから、信頼は揺るがない前提で“建設的なケンカ”をしてきました。
問題を解決するには、まず「なぜその問題が生じたのか」についてお互いに腹を割って話して、なおかつ相手の話も聞く。相手の視点から理解する努力が重要だと思います。
「ハードな体験」や「危機」とは違いますが、結婚を決めてお互いの親を紹介するとき、私たち夫婦には少し不安がありました。
「日本とコロンビアでは、コミュニケーションの文化が違い過ぎるのではないか」という不安です。私は自分の母に、「日本人は控えめだから、出会ってすぐにハグをしてはいけないよ」と事前に説明し、麻衣子も自分の母親に「コロンビアはラテン系の国だから、コミュニケーションのスタイルは違う」と説明していました。結果、当日に何が起きたか。会うなり、麻衣子の母が私の母にハグをしたのです。「聞いていた話と違うね」と一同笑ったのは、いい思い出です。
家庭が安心なら子どもは思い切り冒険できる
写真:千倉志野
—— 日頃の家事や育児の分担ルールは?
特にルールは決めていませんが、お互いに仕事をしているので、忙しいときには家事が負担にならないように協力してやっています。私も家事はひと通りできてまったく苦にならないので、朝食作りも時々。特に子どもと過ごす時間が好きで、妻が出産した直後は育休をとってミルクをあげたりしていました。
今はリモートワークが普及して在宅で働ける時間も増えたのは、いい変化ですね。私はヨーロッパの顧客と連絡を取る仕事が多いので、なるべく早く帰宅して子どもと過ごし、子どもが寝た後の夜間に仕事を再開するパターンもよくあります。仕事と家族、それぞれにかける時間を合理的に計画するよう努めています。
—— 子育てで大切にしているこだわりは?
「子どもたちには親切な人間になってほしい」「国際的な視点を持ってほしい」という方針は夫婦で一致していると思います。細かくルールを定めるというより、人間性を豊かにする体験をできるだけ与えていきたいですね。安心できる場所として家庭が維持されれば、子どもたちは思い切って冒険できるはずですから。
—— これからの夫婦の夢は?
世の中の家族をサポートして、たくさんの方々の人生を応援したい。これが私たち夫婦の共通の夢であり、妻の会社の事業を通じてまさに実行中のプロジェクトです。
麻衣子と出会い、学び、結婚して、子育てをして。いろいろな時間を共に過ごしてきましたが、どのステージもチャレンジングで楽しい経験でした。これからも、新たな展開を恐れることなく挑戦できる二人でありたいですね。フレッシュな精神を持ち続けながら、一緒に歳をとっていきたいです。
周りの意見に惑わされないで
写真:千倉志野
—— あなたにとって「夫婦」とは?
チームです。さまざまな課題に共に向き合って、一緒に乗り越えていく。一人が転んだら、もう一人が助ける。そんなチームとして成長できる関係でありたいと思います。
—— 日本の夫婦関係がよりよくなるための提言を。
日本の方々にというより、自分たちに向けての言葉になりますが、何事も二人にとって最適なスタイルを探すべきだと考えています。二人がどんな関係でありたいのか、将来どんな暮らしをして、人生を歩みたいのか。周りの意見に惑わされないで、二人のやりたい方法をナチュラルに選ぶのがいいと思います。
人は多様な生き物です。妻と義母を見ていても、経営者としてそれぞれに素晴らしい資質を持ちながら、その発揮する強みのタイプは違うのだと感じてきました。ゴールは会社を成功させることであり、そのための方法はいろいろあっていい。その人の強みが生かされることが大切なのだと、いきいきと活躍する妻を見ながら感じる日々です。私も私らしくありたいですし、お互いに尊重できる夫婦でありたいと思います。