9月7日、国際モーターショー「IAAモビリティ」で基調講演したインテル(Intel)のパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)。
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ドイツ・ミュンヘンで開催中の「IAAモビリティ」(前身は「フランクフルトモーターショー」)基調講演に、2021年2月にインテル最高経営責任者(CEO)に就任したパット・ゲルシンガーが登壇した。
あまりに重要で注目すべき内容ばかりなので、ここで端的にポイントをまとめて紹介したい。
【ポイント1】2030年までに高級車を構成する部品の20%以上が「半導体」に
世界中で半導体の供給不足が発生し、この状況は2022年まで続くとか、2021年下半期中に回復するとか、さまざまな見方が交錯している。
トヨタ自動車は9月の世界生産を4割減らすと発表。米ゼネラル・モーターズ(GM)も9月に北米8工場で減産する計画を公表した。
ブルームバーグの報道(9月6日付)によれば、独フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディースCEOが「今後数カ月、場合によっては数年間続く」、独ダイムラーのオーラ・ケレニウスCEOも「2023年まで不足が続く可能性」と見通しを語っている。
そうした現状のなかで、インテルのゲルシンガーCEOの発言は、少なくとも半導体不足が急激に解消される展開はあり得ないことを示唆したと理解できる。
2019年段階で高級車部品の4%を占めるに過ぎない半導体が、2030年までの10年足らずで5倍の20%を占めるようになるというのがゲルシンガー発言の主旨だ。
ゲルシンガーCEOは同じ基調講演で、車載用半導体の(獲得可能な最大の)市場規模が今後10年間で1150億ドル(約12兆6500億円)へと倍増し、半導体市場全体の11%を占めるようになるとも発言している。
だとすれば、3月に発生したルネサスエレクトロニクスの工場火災や、新型コロナ感染拡大によるマレーシアの(半導体加工)工場閉鎖という短期的な要因が解消されても、需給の目覚ましい改善は期待できないと考えるのが自然だ。
【ポイント2】需要増に対応するため、欧州に新工場建設。受託生産機能も強化
足もとの半導体不足がいつまで続くかはともかく、上記のように長期的な需要の伸びを予測するインテルは、生産能力の強化に一段と注力する模様だ。
2021年3月、就任後わずか1カ月のゲルシンガーCEOは、米アリゾナ州に最大200億ドル(約2兆1000億円)を投じて2工場を新設する計画を発表している。
今回の基調講演では、新たに欧州にも2工場を建設する計画を発表した。投資額は10年間で最大800億ユーロ(約10兆円)。
さらに、自動車産業における半導体需要、とりわけ先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システムなど高度な処理能力を求められる車載用半導体のニーズに対応するため、専用のファウンドリー(受託生産)機能をアイルランドの既存工場敷地内に整備するという。
ただし、半導体分野に詳しいアナリストら専門家からは、台湾セミコンダクターマニュファクチャリング(TSMC)や韓国サムスン電子など、ファウンドリー事業で先行するアジア企業との競合に勝てる見込みはないとの厳しい指摘も出ている。
【ポイント3】傘下のモービルアイが完全自動運転システム搭載ロボットタクシーを2022年に市場投入へ
インテルが2017年に153億ドル(約1兆7000億円)で買収したイスラエルの車載用画像処理半導体大手モービルアイが、ついに自動運転車を市場投入する。
6人乗りの電気自動車(EV)で、センシング(=周辺環境の感知)には光学カメラ、レーダー、ライダー(LiDAR)を使う。
2020年5月に9億ドル(約1000億円)で買収した都市交通ナビアプリのムービット(Moovit)が展開する、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)プラットフォームの配車サービス向けに、いわゆる「ロボットタクシー」として利用される。
インテル傘下のモービルアイが2022年に「ムービット(Moovit)」ブランドのもと配車サービスに投入する自動運転車。
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ムービットアプリはすでに102カ国3100都市で8億人超に利用されている(2020年5月時点)が、自動運転を使った配車サービスは2022年に、ミュンヘンおよびイスラエル第2の都市テルアビブで先行して始まる。
インテルは、ドイツのレンタカー会社シクスト(Sixt)と連携してサービスを提供するとしている。シクストは配車サービスを含むムービットと同様のMaaSアプリ「ワン(ONE)」を展開しており、いずれのアプリからも自動運転車を呼び出すことができるという。
※パット・ゲルシンガーCEOの基調講演アーカイブ動画(英語)はこちら。
(文:川村力)