インフルエンザの予防接種をする医療従事者。ワシントン州シアトルで。
Ted S. Warren/AP Photo
- アメリカでは、2020-2021年にインフルエンザで入院した人はピーク時でもわずか155人だった。
- ある医療専門家チームは、2021-2022年はインフルエンザがリバウンドし、アメリカ国内で60万人の入院する可能性があると述べている。
- しかし、全米の病院は、すでに新型コロナウイルスの重症患者であふれかえっている。
NBCニュースによると、ある公衆衛生の専門家チームは、2021年のインフルエンザは平年の3倍の入院患者が発生する可能性があり、新型コロナウイルスのパンデミックに加えて医療システムにさらに負担をかけると予測しているという。
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、2010年以降、毎年アメリカ国内で930万から4500万人がインフルエンザに罹患していると推定しており、最新の推定では年間平均で20万人以上がインフルエンザによって入院しているとしている。
2020-2021年の冬は、多くの公衆衛生関係者はインフルエンザによる入院に加え、重度の新型コロナウイルス感染症が発生するという「ツインデミック(twindemic)」を予想していたが、インフルエンザシーズンのピークである2020年10月1日から2021年1月30日までにインフルエンザで入院したアメリカ人はわずか155人にとどまった。これに対し、前年の同時期にインフルエンザで入院したのは8633人だった。
その後、マスク着用やソーシャルディスタンスなどの新型コロナウイルス対策によって、インフルエンザの患者も減少したことが明らかになった。しかし一方で、2021年には患者数がリバウンドするのではないかと心配する声も出ている。
レーゲンストリーフ研究所(Regenstrief Institute)の公衆衛生情報学部長、ブライアン・ディクソン(Brian Dixon)はニュースサイトのWTHRに「今年は『ツインデミック』になる可能性がかなり高い」と語った。
また、ピッツバーグ大学公衆衛生大学院(University of Pittsburgh Graduate School of Public Health)の研究者たちは、2つの査読前論文で、今季のインフルエンザ患者数は平年に比べて少なくとも20%以上増え、最悪の場合は2倍になる可能性があると推測している。
入院患者数は、例年の3倍にあたる60万人に上る可能性があるという。
ピッツバーグ大学公衆衛生大学院の公衆衛生ダイナミクス研究所(Public Health Dynamics Laboratory)所長のマーク・ロバーツ(Mark Roberts)博士はプレスリリースで、新型コロナウイルスの対策が緩和されると、インフルエンザなどの呼吸器系疾患が再び増えるだろうと述べている。
しかし、ロバーツ博士はインフルエンザワクチンの接種率が高まれば、入院を減らすことができると付け加えている。
「感染力の強いインフルエンザが流行し、インフルエンザワクチンの接種率が低いという最悪の状況下では、通常のシーズンと比較し、この冬インフルエンザ患者の入院数が最大で50万件近く増加する可能性があることを、我々の予測モデルは示している」と述べ、「このシナリオを回避するには、できるだけ多くの人がインフルエンザワクチンを接種することが重要だ」としている。
ピッツバーグ大学では、この最悪のシナリオを回避するためには、75%のアメリカ人がインフルエンザの予防接種を受ける必要があると分析している。2019-2020年のシーズンは、51.8%のアメリカ人が同ワクチンを接種したとCDCは報告している。
アラバマ大学バーミンガム校(University of Alabama at Birmingham)の小児感染症部門の共同責任者であるデヴィッド・キンバリン(David Kimberlin)は、2021年の夏、RSウイルス、クループなど通常冬に見られるような呼吸器系の病気、または手足口病などで入院する子どもを見てきたとNBCニュースのインタビューで話している。
コロラド小児病院(Children's Hospital Colorado)の感染症内科医であるショーン・オリアリー(Sean O'Leary)博士は、2021年7月のNBCニュースの取材に対し、これらの呼吸器系疾患が夏に流行する明確な説明はないが、ソーシャルディスタンスやマスク着用の緩和が原因の一つではないかと話している。
「以前と比較すると、人々の間に多くのものが混じり合っている 」とオリアリー博士は言う。
キンバリンは、自分の病院は新型コロナウイルスのデルタ株の患者であふれかえっていると語り、さらにインフルエンザの感染者が増えれば「壊滅的な事態になる可能性がある」と警告した。
CDCの発表によると、アメリカでは9月初旬の1週間に8万7000人以上が新型コロナウイルスで入院した。一部の州、特にワクチン接種率の低い州の病院では満床か、ほぼそれに近い状態になっている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)