9月8日、NASAは、延期していた次世代宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」の打上げを12月18日に実施する方針であることを発表した。
JWSTは、NASAをはじめ、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)やカナダ宇宙庁と連携した国際プロジェクトだ。打ち上げは南米北東にあるフランス領ギアナから、ESAが手配するアリアン5で実施される。
現在、プロジェクトチームは、JWSTを打上げ場へ移動させる準備を進めている。
移送準備をしているJWST。
NASA/Chris Gunn
NASAは、
「JWSTの革新的な技術は、太陽系から最も遠くにある観測可能な宇宙初期段階にある銀河まで、あらゆる段階の宇宙の歴史を探索します。予想外の新発見をもたらし、宇宙の起源やその中における私たちの立ち位置を理解する助けとなるでしょう」
とその価値を語る。
天文学の次の10年を支える、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機
NASA/Chris Gunn
JWSTの公式サイトによると、この宇宙望遠鏡は、1990年に打上げられて以降今も現役で稼働しているNASAのハッブル宇宙望遠鏡の後継機に相当する。
天文学の次の10年を支える重要な観測装置として位置づけられ、当初は2011年に打ち上げが計画されていたものの、途中段階で予算が膨らむなど、何度も計画が延期されてきた。
JWSTは、目に見える光(可視光線)よりも波長の長い「赤外線」を観測することで、宇宙のはるか遠方にある物体を観測しようとしている。
宇宙のはるか彼方から地球に届いた光は、長い年月をかけて地球までたどり着いた光だ。つまり、遠くから来た光を観測することは、宇宙の過去の姿を知ることと同義となる。
しかし、宇宙は加速的に膨張しており、さらに遠くにある天体ほど膨張速度が速い(2011年には、このテーマにノーベル物理学賞あたえられた)。
そのため、遠くにある天体から放たれた光ほど「ドップラー効果(※)」によって、地球に届くまでに光の波長が引き伸ばされてしまう(これを「赤方偏移」という)。
遠くにある宇宙のようすを知るためには、どうしても赤外線などの比較的長い波長の光を観測する必要があるとされているのだ。
JWSTでは、0.6マイクロメートル〜28マイクロメートルの赤外線を観測することが可能だ。
ハッブル宇宙望遠鏡でも赤外線を観測することはできるが、その対応波長は0.8マイクロメートル〜2.5マイクロメートルとJWSTにくらべると短かった(なお、ハッブルは可視光線や紫外線の一部も観測できる)。
ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された、宇宙で恒星が誕生している領域(星形成領域)のようす。
出典: ESA/Hubble & NASA, J. C. Tan (Chalmers University & University of Virginia), R. Fedriani (Chalmers University); Acknowledgment: Judy Schmidt
なお、JWSTは、打上げから約1カ月かけて地球から月までの距離(約38万キロメート)の約4倍にあたる約150万キロメートル離れた場所に送り届けられる予定だ。この場所は「L2-ラグランジュ点」と呼ばれ、JWSTはこの付近に留まりながら観測を実施する。
L2-ラグランジュ点は、太陽と地球を結ぶ直線の延長線上に位置しており、太陽からみるとJWSTは地球の背後に隠れることになる。
通常、太陽から離れれば離れるほど公転周期は長くなるが、L2-ラグランジュ点では、地球の重力に引っ張られることで地球と同じ周期で公転することが可能だ。
その結果、JWSTは太陽から見て、つねに地球の背後に隠れたまま移動することになる。
これで、赤外線望遠鏡の観測を阻害する要因である、太陽の光などによる熱を防ぐことができるとされている。
ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ時には、打ち上げ直後に機体の不調がみられ、スペースシャトルで人が修繕に向かうという驚異的なオペレーションを実現した。しかし、JWSTは、現実的に人が向かって修理することができない場所に設置されるため、打上げは1発勝負となる。
(文・三ツ村崇志)