4月以降の離職者数はおよそ1500万人になるという。だが新しい調査で分かったのはこれだけではない。
マッキンゼー・アンド・カンパニーによる2つのグローバル調査によると、働く人の約40%が今後3~6カ月以内に離職すると見られており、離職を考えている人の約3分の2が次の仕事を確保していない状態だという。
離職の意向を持つ人が最も多かったのはレジャーやホスピタリティ業界だが、医療関係者やホワイトカラーの知識労働者の多くも離職の意向を示している。
多くの企業が従業員の離職に苦慮するなかで、この調査は雇用主が従業員の定着にどう取り組むかという課題において重要な意味を持っている。
雇用主は、従業員が辞める理由は今より多くのお金を稼ぎたいからだと信じているが、それは正しくない。もちろん報酬も要因の1つではあるが、従業員が離職を考えている理由のほとんどは、管理職や組織から評価されていないと感じているか、自分の居場所が感じられないからだ。
マッキンゼーのシニアパートナーで、この調査の代表執筆者の1人であるアーロン・デ・スメットは、これは彼らの不満の強い表れだと指摘する。
「従業員は隣の芝生が青く見えるから辞めるのではありません。自分が今いる職場に幻滅していて不満だから辞めるのです」とデ・スメットは言う。
評価されているという実感を得たい
6000人近くの従業員を対象にしたアンケート、および大規模・中規模組織の管理職250人を対象にしたアンケートの2つからなるこの調査では、企業と従業員の間に明確な断絶があることが明らかになった。
雇用主は、従業員は報酬を理由に退職しようとしていると考え、昇給や特別ボーナスなどで待遇を改善すれば離職を食い止められると考えている。しかし、従業員が一番求めているのは、自分が評価されていると感じ、会社というコミュニティの一員であると実感できることだ。デ・スメットは言う。
「従業員は自分を大切にしてくれて、自分にしかできない貢献を認めてくれる職場で働きたいと思っています。
報酬は従業員を引き留めるための1つの要素に過ぎません。辞めようとしている従業員をつなぎ留めるのに、それだけでは十分ではありません」
コロナ禍によりアメリカの労働者は疲弊し、燃え尽き症候群に陥っている。コロナ禍、経済的・政治的混乱、ジョージ・フロイド氏殺害に端を発した人種問題(Black Lives Matter運動)や警察のあり方に対する国家の責任問題など、ここ1年半で次々と起こった危機は、人々の精神面に大きな打撃を与えてきた。
それに加えて、ロックダウンと在宅勤務の指示によって人々が孤立し、従来であれば職場で得られていたはずの感情面や人づきあいでの支えがなくなってしまった。
こうした問題は雇用主が認識していないものだとペパーダイン大学グラツィアディオビジネススクールで戦略・リーダーシップを教えるカート・モタメディ教授は指摘する。
「強い組織だと、従業員は自分が組織の一員であると実感できます。人間関係、評判、アイデンティティを感じられ、それらが感情面で支えになっていると感じるのです」とモタメディ教授は言う。ある研究によると、職場への帰属意識を持つことは従業員の仕事への積極的な関わりと生産性に不可欠であるという。
「ただ、こうした環境だけでは従業員をつなぎ留めることにはなりません。多くの人が在宅勤務をしており、社会的な錨はなくなりました。その一方で、雇用主は従来の取引関係の世界観を従業員に押し付けて、仕事で業績を上げるように従業員に求めているのです」と語る。
その結果、従業員は「深い疎外感」を抱くのだと言う。
自分を高めるような刺激を受けたい
雇用主は従業員がチャレンジしたいことや掴みたいと思っているチャンスなどについてこれまで無関心のままだったが、従業員の流出が続くことが一種の警告として機能するだろうとマッキンゼーは指摘する。
「職場で自分を高めるような刺激を受けたいと考える従業員は大勢います。人づきあいや人間関係の向上を手助けするニーズを満たしてくれる組織が強く求められています」とデ・スメットは言う。
なぜ従業員が辞めようとしているのかを時間をかけて知ろうとする組織は、有能な人材を引き留める上で一歩リードすることになるだろうとデ・スメットは付け加えた。脈拍測定装置などを使えば従業員の感情の起伏を測定することはできるが、心の奥深いところで彼らがなぜ会社に落胆する気持ちを抱えているかまで知ることはできない。
雇用主は従業員に対し、より良い職場、従業員を分け隔てなく公平に扱う職場はどのようにして築くことができるか、意見を求めなければならない。どんな人づきあいや対人関係を求めているのか、キャリアパスや昇進の機会は明確であるかどうか、給与や待遇は求めているものに合致しているかどうかを従業員に聞いて確かめなければならない。
例えば、働く人のほとんどすべてにとってワークライフバランスは優先順位が高い。時短勤務の条件を整備したり、週4日勤務を実験的に導入したり、あるいは長期休暇を許可するしくみづくりも有効かもしれない。
また、雇用主は経営幹部の研修と人材開発に投資すべきだ。在宅勤務とオフィス勤務のハイブリッドで、チームで仕事をしていくのは要求されることが多く煩雑だ。経営幹部には、ITスキルとソフトスキルがバランスよく備わっている必要がある。
「良い影響力を持った指導者になれるのは生まれつきの才能ではありません。学ばなければならないのです」とデ・スメットは指摘している。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:McKinsey knows why your employees are quitting — and it's not about the money]