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日本郵便と佐川急便が協業「EC物流戦争」は誰得? 少子高齢化大国の「打倒アマゾン」が虚しい理由

ヤマト運輸・クロネコヤマト

物流業界ではコロナ禍での電子商取引(EC)の拡大を背景に、合従連衡を通じたインフラ強化やコスト削減が進む。

Shutterstock.com

アマゾンの日本市場における成長を支えてきた宅配最大手のヤマト運輸が、アマゾンとの距離をおいてヤフー(親会社のZホールディングス)と業務提携。

一方、楽天グループは宅配3位の日本郵便と業務提携し、物流子会社「JP楽天ロジスティクス」を設立するなど、EC(電子商取引)をめぐる物流企業の競合が激化している。

9月10日には日本郵便と宅配2位の佐川急便が、輸送・集配ネットワークを共同で構築するなど協業の強化(資本提携は検討していないとの報道)について基本合意したとの報道もあった。

ただ、巨大企業同士の合従連衡は業界の勢力図を変えるという意味でそれなりにインパクトがあるとはいえ、EC物流の本質を変化させるほどの動きではないように筆者には思える。

EC事業者のビジネスモデル

まずは、EC事業者のバリューチェーン(=付加価値を生み出す企業のさまざまな活動の連なり)を、商品開発やマーケティングを行う「マーチャンダイジング」、集客・販売・代金回収を行う「サイト運営」、仕入れ・在庫管理・出荷を行う「フルフィルメント」、顧客への配送を行う「ラストワンマイル」に分けて整理しておこう。

アマゾンは物流サービスを差別化要素と位置づけ、大規模配送センターの開設や庫内作業の自動化など、フルフィルメントに積極的に投資。ラストワンマイルについては、完成された宅配インフラを持つ佐川急便、ヤマト運輸、日本郵便などの事業者を使い分けてきた。

一方、楽天とヤフーは当初サイト運営のみを行い、マーチャンダイジングとフルフィルメントは出店者、ラストワンマイルは出店者が選定する宅配事業者が担ってきた。

しかし、いまや全国に20カ所以上もの配送センターを構えるアマゾンに対し、出店者まかせの在庫管理や出荷、配送のままでは、スピードもコストも勝負にならない。

楽天はかつて子会社として楽天物流を設立してフルフィルメントを担わせていた時期があるが、ラストワンマイルは従来通り宅配事業者に委託したため、楽天物流と宅配事業者の二重構造によりコストが増え、とん挫する結果となった。

そんな経緯もあって、近年では楽天・ヤフーともフルフィルメントとラストワンマイルをセットにして一事業者に委託している。楽天が日本郵便と提携、ヤフーがヤマト運輸との提携を通じて、効率化とコスト削減を進めていることは冒頭でも触れた通りだ。

「ラストワンマイル」の自社運用に乗り出したアマゾン

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アマゾンはヤマト運輸と訣別し、顧客への配送(ラストワンマイル)の自社運用を始めた。

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2017年、ヤマト運輸の運賃値上げと当日配送サービス縮小を機に同社と訣別したアマゾンは、丸和運輸機関を介して中小物流事業者を組織化(AZ-COMネット)したり、ギグワーカーに直接業務委託(アマゾンフレックス)したり、ラストワンマイルの自社運用に乗り出した。

こうした大胆なアウトソーシングによるコスト削減は、日本市場で重視されてきた品質とのトレードオフになるリスクもある。

しかし、新型コロナ感染拡大を追い風にウーバーイーツなどフードデリバリーが急速に広がり、そこでギグワーカーの活用実績は着実に積み重なりつつある。アマゾンフレックスの定着も時間の問題だろう。

一方、ラストワンマイルの品質を重視してきたヤマト運輸や佐川急便、日本郵便は、おいそれとアマゾンに追随できない。

ヤマト運輸はむしろ夕方以降の配達を担当する契約社員(アンカーキャスト)を増やすなど内製化路線を維持し、2021年3月末時点で売上高に占める人件費の割合は5割を超える。ギグワーカーを活用する方針を示してはいるものの、現場での本格運用には至っていない模様。

佐川急便と日本郵便は中小事業者への配送委託体制の整備を進めてきたものの、ギグワーカーの活用にはやはり着手していないようだ。

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宅配3位の日本郵便と協業を強化すると発表した2位の佐川急便。合従連衡はアマゾン以上の顧客利益を創出できるのか。

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こうやって配送の仕組みや人件費を比較してみると、アマゾンがヤマト運輸と訣別したのは、結局のところラストワンマイルの大幅なコスト削減(イノベーションと言い換えてもいいかもしれない)に限界を見たからではないか。

一般論として、バリューチェーン上で組織の壁(=関わる企業の数)が増えると、意思決定が難しくなったり、諸々のコストが増加したりする。

従来からの強みだったフルフィルメントにとどまらず、ラストワンマイルにまでバリューチェーンを広げつつあるアマゾンに、スピード・コストともに死角は見当たらない。

消費者はこれ以上何を望むのか

EC事業者はこれまで、自宅で商品を受け取りたいという消費者の要望に対しては宅配サービスを提供し、迅速に受け取りたいとの要望には翌日あるいは当日配送サービスを提供してきた。

最近では、受け取り時に顔を合わせたくない(あるいは感染症を回避するため非接触で受け取りたい)という要望には置き配サービスを、出先で受け取りたいという要望にはコンビニ受け取りサービスや宅配便ロッカーなども整備した。

モノの動きは詳細にトラッキングされ、ブラウザやアプリから配送状況の確認や配送時間の指定・変更も可能だ。

個別にはまだまだ改善点もあるのかもしれないが、少なくとも都市部におけるラストワンマイルの物流サービスは十分なレベルに達しているという評価を全面否定する人は、もはやほとんどいないのではないか

消費者がこれ以上望むことがあるとすれば何だろう。

「フィジカルインターネット」の考え方

インターネット通信が革新的だったのは、誰でも情報を発信できるようになったことだ。

この革新性をモノの流れに当てはめてみると、大量生産・大量消費時代に構築された「一対多」の構造から、大小を問わず、さまざまな個人や法人が日本中にモノを送り届ける「多対多」の構造への移行と考えることができる

そうした移行が進めば、物流量が増えて輸送の担い手への負荷が深刻化し、また荷物が小口化して分散することで(物流事業者の)倉庫やトラックの無駄も増え、従来の物流が成立しなくなる。

そこで生まれてきたのが「フィジカルインターネット」の考え方で、インターネット通信のようにネットワーク上の最適なルートを経由して、さまざまな輸送機関がモノをリレーする効率化の手法として語られる。

しかし、それはあくまで物流事業者の視点と発想にもとづくものだ。

消費者にとって重要なのはその手法ではなく根本的な目的、要するに「誰もが安価かつ迅速に」モノを発送し受け取れること。そうでなければ、フィジカルインターネットは、インターネット通信がもたらしたような革新性は持ち得ない。

日本でいま物流に求められているのは

上で指摘したように、都市部ではすでに「安価に」モノを発送して「迅速に」受け取れるサービスが相当な水準で行きわたっている

フルフィルメントセンターなど物流拠点を拡充するとか、物流量の増加に応じてインフラ強化は今後も進むだろうが、いま以上の大幅かつ急激な効率化は望むべくもない。

日本で問題をあげるとすれば、「誰もが」の部分だろう。山村や離島といった非都市部でも安価かつ迅速にモノを送り、受け取れるかと言えば、さすがにそこまでの状況にはない。

そんな非都市部でも自律的に運用可能なラストワンマイルを実現する試みの一例として、商業物流最大手の西濃運輸(親会社のセイノーホールディングス)とドローン開発スタートアップのエアロネクストが、山梨県小菅村でドローンを活用した社会実験を行っている。

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西濃運輸(親会社のセイノーホールディングス)とエアロネクストが実施中のスマートサプライチェーンの実現イメージ実証イメージ。

エアロネクスト

一定のエリアごとにドローンデポ(一時保管倉庫)を設け、さまざまなEC事業者(あるいは配送委託を受けた物流事業者)からの荷物をまとめて共同配送でデポに運び入れる。

そこから先はドローンを使ってラストワンマイルの配送を行う。置き配用のドローンスタンド(着陸・荷降ろしポイント)も設置する

これは実証実験ゆえにドローンを活用する形になっているが、ラストワンマイルは別にドローン空輸でなくてもいい。村内を走るコミュニティバスを貨客混載で活用したり、消費者がドローンデポに足を運んで持ち帰ったり、さまざまな方法が考えられる。

先述のギグワーカーの文脈で言えば、ご近所さんの荷物を運んであげて、手数料を受け取ることもできる。

西濃ホールディングスは、将来的には自動運転車によるラストワンマイルの無人配送も視野に入れている模様だ。荷物の宅配に限らず、食品や医薬品といった生活必需品も配送の対象にしていくという。

このようなデポは、物流革新で想定される「多対多」の出荷拠点、言い換えれば「双方向」ラストワンマイルの拠点となり得る。

宅配ネットワークはすでに全国規模で構築されているが、まだまだ課題がある。

例えば、大手EC事業者が都市部の配送センターから出荷する際の単価と、過疎地の自営業者が自前で出荷する際の単価には数倍の差(ヤマト運輸のアマゾン向けの運賃は400円台とされるが、個人の宅急便運賃は関東から関東でも最低930円)がある。

そうした問題を、上記のような実証実験を通じて得られる次世代ラストワンマイルの創造を通じて解決しなければ、「誰もが」「安価かつ迅速に」モノを送り受け取れる、真に日本にとって必要な物流は実現しないだろう。

また、コロナ禍で働き方が激変し、自宅を中心としたエリア、コミュニティに関与・滞在する時間が増えた生活者にとって、デポを中核としたまちづくりは魅力的だ

デポを中核としたフィジカルインターネットが日本の津々浦々まで実装されれば、暮らし方あるいは住まい方がアップデートされ、それは少子高齢化と経済停滞に苦しむ日本の将来を変革するきっかけにもなるのではないか。

(文・上野善信


上野善信(うえの・よしのぶ):金沢工業大学虎ノ門大学院教授。新日本製鐵で製造系・流通系のシステム導入、SCM導入コンサルティングに従事。アサガミ(倉庫・物流・印刷業)取締役、PwC PRTM(戦略・SCM・R&Dコンサルティング)ディレクター、キャップジェミニジャパン(ITコンサルティング)代表取締役などを歴任。現在はバリューグリッド研究所代表取締役として、上場企業等の戦略立案および実行を支援。東京大学工学部卒、UCバークレー工学部大学院・MIT経営大学院修了、東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻修了(工学博士)。

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