アメリカでは1月6日、暴徒化したトランプ大統領の支持者らが議事堂に侵入した。
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- 2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件から20年、アメリカは新たな複雑な脅威に直面している。
- 白人至上主義者や極右集団がアメリカにとって今、最大の脅威となっていると、複数の政府関係者は話している。
- 専門家らは、同時多発テロ事件後の"テロとの戦い"が、極右過激主義の復活を直接的に煽ったとも指摘している。
2001年9月11日の同時多発テロ事件以来、アメリカの国家安全保障をめぐる会話は何年もの間、"テロとの戦い"がその大半を占めていた。しかし、事件発生から20年が経つ今、現職またはかつての政府関係者らは、戦いがアメリカに戻ってきたと話している。アメリカが直面する最大の脅威は、海外ではなく、国内に存在している。
"過激派"に関して言えば、アメリカの法執行機関や情報機関の焦点は白人至上主義者や極右集団にシフトしている。こうした懸念は、2017年にバージニア州シャーロッツビルで死傷者を出したネオナチの集会や2021年1月6日にワシントンD.C.で起きた議事堂侵入事件といった出来事によって増幅された。
国土安全保障省(DHS)の元首席補佐官代理マット・チャンドラー(Matt Chandler)氏は、9.11後の脅威環境は「引き続き、動きが活発で、外国からのテロの脅威と国内のテロの脅威はそれぞれに広がっている」とInsiderに語った。
「国内テロの脅威をこれほど油断のならないものにしているのが、ヘイトに基づくイデオロギーやオンライン上の誤った情報によってわたしたちの民主主義を弱体化させようとする根本動機だ」とチャンドラー氏は指摘した。
「(新型コロナウイルスの)パンデミック関連の社会の全体的な混乱、政治情勢、その他の要因が残念ながらこうした誤った物語を根付かせる格好の材料を与えている」と同氏は言う。
連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ(Christopher Wray)長官は3月、国内の過激派が「各地に広がっている」と上院議員らに警告した。
「例えば、人々が白人至上主義者と分類するであろう人種を動機とした暴力的な過激主義者の2020年の逮捕件数は、わたしが長官を務めた最初の年の数の約3倍だった」とレイ長官は話した。
6月には、メリック・ガーランド(Merrick B. Garland)司法長官とアレハンドロ・マヨルカス(Alejandro Mayorkas)国土安全保障長官が「人種または民族を動機とした暴力的な過激主義者」がアメリカにとって最大の国内テロの脅威だと上院議員らに語った。
「特に白色人種の優位を主張する者たちだ」とガーランド長官は上院歳出委員会で話した。
4月に公表されたインテリジェンスに関する年次報告も、ISISやアルカイダといった集団が海外におけるアメリカの利益に危険をもたらし続けているとした一方で、アメリカ人に対するより大きな国内の脅威は、白人至上主義者などを含む「アメリカを拠点とする、さまざまなイデオロギーに基づいた動機を持つ個人または小集団」からもたらされていると認めている。
シンクタンクのNew Americaが公表した調査によると、9.11同時多発テロ事件以降、ジハーディスト("聖戦"を行う人)はアメリカで107人を殺害したが、極右過激主義者は114人を殺害しているという。
自国育ちの過激主義の脅威は、イデオロギーの違いによっても異なる。戦略国際問題研究所(CSIS)のデータを分析したワシントン・ポストによると、2015年以降、極右主義者は少なくとも267件の企てもしくは攻撃、91人の死亡者に関係しているという。一方、極左主義者は66件の企てもしくは攻撃、19人の死亡者に関係しているという。
チャンドラー氏は「情報、法執行機関コミュニティーにとっての課題は、9月11日や1月6日のようなことが再び起こるのを防ぐために、海外と国内、両方のテロの脅威を同時に軽減することだ」と話している。
しかし、法執行機関の関係者が自国育ちの過激主義の脅威について警鐘を鳴らし始めてから数カ月が経った今でも、アメリカ政府はそれらとどう戦うべきか、政府組織内ですら頭を悩ませ続けている。
例えば、Insiderが5月に報じたように、バイデン大統領は白人至上主義と戦うと約束している一方で、政権は連邦政府の法執行機関から過激主義者を一掃するのに苦労している。
その際、Insiderでは制服を着た法執行官や職員を雇用している63の連邦政府機関を調査し、就職希望者の身元調査のプロセスが組織ごとに大きく異なり、場合によっては矛盾することすらあることが分かった。さらに身元調査を定期的に実施したり、職員らがソーシャルメディア上で危険な兆候を見せていないか積極的に監視していると答えた連邦政府機関は、このうち10機関だけだった。
"テロとの戦い"はいかにして極右過激主義を煽ったのか
ミシガン州の州都ランシングにある議事堂で、議場のドア近くに立つ武装組織のメンバーたち(2020年4月30日)。
Seth Herald/Reuters
過激主義は今や、主に"自国育ち"の問題となっているものの、アメリカは海外の過激主義組織に対する厳重な監視と作戦の実行を続けている。そして、外交政策のタカ派はここ数週間、タリバンによるアフガニスタン掌握で再びこの国がテロリスト組織にとって安全な避難場所になってしまうのではないかと懸念を示している。
専門家らは、タリバンの支配下で過激主義がアフガニスタンでまん延する恐れがあると警鐘を鳴らしているものの、それがアメリカに及ぼし得る脅威のレベルは疑わしいと話している。
ニューヨーク州ウェストポイントにある陸軍士官学校の助教アミラ・ジャドゥーン(Amira Jadoon)氏は、タリバンによるアフガニスタン掌握は「自らの基盤と兵力を再び固めるために、過激派組織がアフガニスタンを使うリスクを大幅に上昇させた」と8月にInsiderに語っている。
バイデン政権はアメリカにとって脅威となるアフガニスタンのテロ組織を引き続き攻撃の対象とする考えを示しているが、政府高官は同時多発テロ事件以降、ジハーディスト集団の能力は大幅に低下していると話している。
「アルカイダが同時多発テロ事件で行ったような、わたしたちを攻撃したり、わたしたちのアフガニスタンでのパートナーや味方を攻撃する能力は大幅に低下した」とブリンケン国務長官は8月に語った。
いろいろな意味で、"テロとの戦い"の最も持続的な効果はアメリカ国内における極右過激主義をいかに煽ったかだと、専門家らは指摘する。極右過激派組織はイラクやアフガニスタンの戦争に携わった幻滅した兵役経験者を組織に取り込もうとしたり、軍隊式の武器や訓練にまつわるサブカルチャーに近付こうとしてきた。1月の議事堂侵入事件以来、国防総省も現役の兵士の中に過激主義者がいるのではないかとの懸念に対応すべく措置を講じている。
3月の下院・上院軍事委員会への報告書の中で、国防総省は同省が「国内の過激主義者… 特に白人至上主義または白人ナショナリズムのイデオロギーの信奉者からの脅威」に直面していることを認めた。
アメリカン大学にあるPolarization and Extremism Research and Innovation Labのシンシア・ミラー・イドリス(Cynthia Miller-Idriss)氏は、極右過激主義の復活について最近の『Foreign Affairs』の論説で書いている。
「9.11の攻撃に続いて、暴力的なジハーディズムの台頭が右派過激主義に格好の材料を与えるという形でアメリカ政治を作り変えた」とミラー・イドリス氏は指摘した。
その上で「(9.11の)攻撃は排外主義、白人至上主義、キリスト教ナショナリズムを切り売りする人間にとって恵みだった。アメリカ人の殺害に燃える浅黒い肌の外国人イスラム教徒やアルカイダのテロリストとその仲間は、極右主義者の熱に浮かされた夢から抜け出してきたように見えた」と同氏は書いている。
[原文:War at home: 20 years after 9/11, jihadists are no longer the biggest threat facing the US]
(翻訳、編集:山口佳美)