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- 国際決済銀行イノベーション・ハブの責任者であるブノワ・クーレは、中央銀行に対し、デジタル通貨に関する取り組みを加速させるよう求めた。
- 同氏はスロベニアで開催された金融フォーラムで、デジタル通貨は価格と金融の安定性を確保すべきだとスピーチした。
- また「ステーブルコインや暗号資産はすでに存在している」ため、各国は開発のペースを上げなければならないとも述べている。
国際決済銀行(BIS)は各国の中央銀行に対して、ステーブルコインと暗号資産がすでに現実のものとなっている今、既存の金融システムが機能しているうちにデジタル通貨の開発を迅速に進める必要があると訴えている。
国際決済銀行の幹部で同行イノベーションハブ(BISIH)の責任者であるブノワ・クーレ(Benoit Coeure)によると、中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、使いやすく、低コストで、兌換性があり、即時決済が可能で、継続的に利用できるべきで、高度なセキュリティとレジリエンス(回復力)、柔軟性、安全性を提供するべきだという。
とはいえCBDCは、ビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨や、ドルや金などに連動するステーブルコインと競合するため、中央銀行が目的に合ったCBDCを開発するには何年もかかるだろうとも述べている。
「中央銀行が動き出すにはもう遅いぐらいだ。我々はCBDCの細かい部分の設計を迅速に進めなくてはならない。これを普及段階に持っていくまでにはあと何年もかかるだろうが、ステーブルコインや暗号資産はすでに存在している。だからこそ早く進めなくてはならない」と、スロベニアのリュブリャナで開催されたユーロフィ金融フォーラム(Eurofi Financial Forum)でクーレは述べた。
ビットコインなどの暗号資産やテザーなどのステーブルコインは人気が高まっているが、中央銀行の間ではこれらが金融システムの安定性を脅かすという懸念が大きくなっている。そのため、多くの中央銀行が積極的にCBDCについて検討し、さらには開発を始めている。
「市中銀行はCBDCが顧客の預金に与える影響に懸念を抱いており、中央銀行はその懸念を理解し、どのように対処すればいいのか検討している。中央銀行は市中銀行を将来のCBDCシステムに組み込もうとしている」とクーレは述べている。
「しかし、グローバルなステーブルコイン、DeFi(分散型金融)プラットフォーム、大手ハイテク企業は、銀行のビジネスモデルに挑んでくるだろう」
中国はすでにデジタル版の人民元を試験的に導入し、バハマの中央銀行は「サンドドル」を発行、ナイジェリアの中央銀行は2021年10月に「e-naira」を試験的に導入すると8月30日に発表した。一方、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)、イングランド銀行、欧州中央銀行などの主要な中央銀行は、CBDCについてまだ検討している段階でしかない。
「中央銀行に影響を与えるテクノロジーの重要な動向」にフォーカスするBISIHと、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、南アフリカの中央銀行は、CBDCで国境を超えた決済のテストを行う「プロジェクト・ダンバー」に取り組んでいると発表した。
「CBDCの目標は、現在のシステムにおける最も優れた要素を維持しつつ、未来のイノベーションのための安全な空間を確保することだ。それには、中央銀行は現在のシステムが機能している間に行動しなければならない。それはまさに今だ」と欧州中央銀行の執行委員を務めた経験のあるクーレは述べている。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)