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こんなに理念が違う河野氏と石破氏はうまくいくのか?総裁選候補を「価値とリスク」で分類

総裁選

左から自民党総裁選に立候補した河野太郎行政改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相。

REUTERS/Issei Kato/Kim Kyung-Hoon

9月17日に告示される自民党総裁選。岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎行政改革相の3氏が立候補を表明し、石破茂元幹事長、野田聖子幹事長代行が立候補への意欲を示している。各氏がどういう政治姿勢や価値観を持っているか、その政治理念の関係はどうなっているのか。

政治学者で東京工業大学教授の中島岳志さんは、ぞれぞれの著作やインタビュー記事を読み込み、政治家を「価値とリスクのマトリクス」を使って分類している。今回の総裁選に関係する議員について、そのマトリクスで分析してもらった。

なぜ「価値とリスク」で分類するのか

政治家の仕事を内政面に絞って考えると、基本的にはお金の配分と価値観に分かれます。お金の問題とは税金の配分。さまざまなリスクにどう対応するかということで、私は「リスクの個人化」と「リスクの社会化」という対立軸で分類しています。

「リスクの個人化」とは税金は安くなるかもしれないけれど、行政サービスは縮小し、その分を民間やマーケットに委ね、自己責任の部分が大きくなる、いわゆる市場重視型。「リスクの社会化」とはいろいろなリスクには社会全体で対応しようという考え方。徴収する税金は総額としては大きくなるが行政サービスを充実させるセーフティーネット強化型です。

一方、政治ではお金の配分問題だけでなく、価値観も絡んできます。代表的なのが選択的夫婦別姓のような問題です。価値観の対立軸を私は「リベラル」と「パターナル」としています。

近代リベラルの起源は1600年代に起きたヨーロッパの30年戦争です。カトリックとプロテスタントの争いに端を発した戦争が30年経っても決着しなかったことで、価値観の違う相手を暴力によってねじ伏せるのはやめよう、価値観が違っても認め合い寛容であるリベラルという考え方が生まれたのです。

そう考えたときリベラルの反対は保守でなく、父権的と言われるパターナルです。家父長制の家長のように強い力を持っている人間が個人の価値の問題にまで介入する。選択的夫婦別姓で言えば、リベラルでは同姓にするか別姓にするかは各夫婦に委ねられるべきだと考え、パターナルでは日本人なら夫婦は同姓であるべきだと考えます。

価値を横軸にし、リスクに対する考えを縦軸にとると、政治家は4分類できます。こういう形で整理して、自分の考えに合う政治家は誰かと考えてみると分かりやすいと思います。

マトリクス1

価値(横軸)とリスク(縦軸)に分け政治家を4分類したマトリクス。

取材を元にBusiness Insider Japan編集部作成

河野氏と石破氏は連携できるのか?

政治家によって縦軸(リスク)と横軸(価値)、どちらを重視するかは違います。安倍さん(安倍晋三前首相)は縦軸(リスク)にあまり興味がなく、右派的な思想や戦争認識に重きを置く、横軸(価値)重視の政治家です。菅さん(義偉首相)は同じ4の領域ですが、横軸(価値)にはほとんど関心がありません。同じ領域の政治家でも、どちらの軸を重視するかで政治家のタイプは変わってきます。

河野さんも横軸にはほとんど関心がない。夫婦別姓については過去に「是とする」とは言ってますが、強くは主張していません。今回の出馬会見でもかつて認めていた女系天皇論は封印し、右派の考えに寄り添う主張をしています。

一方で規制改革、市場重視の政策には非常に熱心です。脱原発に関しても多くの人は価値観、つまり横軸の問題として主張しますが、河野さんにとって脱原発は規制改革の象徴で、目指しているのは電力会社の解体、電力自由化です。

石破氏の写真。

新自由主義から再配分に舵を切った石破茂元地方創生担当相。

REUTERS/Charly Triballeau

石破さんはかつて小泉内閣を高く評価するなど、明確に「小さな政府」を志向する3の政治家でした。しかし、安倍さんに外された2015年ごろから、アベノミクスを「このままでは格差が広がる」と批判し、セーフティネット強化、特に地方に対する再配分を強く主張するなど変わってきました。その延長で2018年の総裁選で安倍さんと戦い、完全に安倍路線とは決別。本人も新自由主義から再配分に舵を切ったことを認めていて、今は2の政治家だと言えます。

つまり河野さんと石破さんはお金の配分に対する考え方が全く違う。価値観は2人ともリベラルですが、日米安保に関するスタンスもかなり違います。河野さんは日米同盟重視でアメリカにとってはもっとも都合のいい人、石破さんはアジア版NATOを提唱するなど、日米安保一辺倒には懐疑的です。理念を重視すれば一緒にやるのは難しい。ただコロナ対策に関しては、河野さんも再配分を重視する政策をとる可能性もあるし、「反安倍」という点では一致できるかもしれません。

安倍的なものへの評価と距離感

安倍前首相の写真。

安倍前首相は自身と思想・価値観が近い高市氏支持を表明した。

REUTERS/Franck Robichon

岸田さんは基本的には2の政治家のはずなんですが、価値観が今ひとつはっきりしないんです。夫婦別姓についても踏み込んだ発言はしていません。

2020年に出版した著書『岸田ビジョン』では、「トリクルダウンは嘘だ」とアベノミクスを批判し、金融資産課税などを提唱しています。ただ岸田さんが唯一ブレないのは、広島出身だけに核廃絶に向けた思いだけで、他の政策では誰につくのかで言うことが変わってしまう緩さがある。2の政治家であろうとしているのに、安倍・麻生の支持を得ようとして4の方向に引きづられてしまう。4の“数”を当てにして総裁になると、岸田内閣ができても安倍さんの影響力が残ることになります。

今回安倍さんは高市支持を打ち出しています。これは岸田さんを切ったというより、1回目の投票で河野さんに決まってしまうことを避け、決選投票で「河野vs岸田」に持ち込むことを狙っているんだと思います。安倍さんは自分に反旗を翻す人を総裁・総理にしたくない。政治家というものはLess Worse、つまり自分に悪くない選択をするもので、安倍さんは最終的に岸田さんにどう「落とし込む」のかを考えていると思います。

河野さんはアベノミクス支持で、むしろもっと強い構造改革が必要という考え。安倍時代には幼児教育の無償化など多少再配分に舵を切った部分がありますが、河野さんにはその考えはありません。もともと弱者と敗者を混同してはならないというのが河野さんの主張。障がい者などの「弱者」は社会保障制度などで支援する必要があるけれど、資本主義社会で負けた「敗者」はセーフティネットより再チャレンジできる制度でカバーすべきだと言ってきています。

私は石破さんは総裁選に出馬した方がいいと思います。国民は格差解消やセーフティネットの充実を求めているのに、石破さんも野田さんも出馬しなければ、縦軸の選択肢がなくなり、安倍・菅内閣の延長のような選択肢しかなくなってしまう。それはネオリベ(新自由主義)対ネオコン(新保守主義)になるということです。

女性初の総理誕生の可能性は

高市早苗氏と野田聖子氏の写真。

夫婦別姓などの考えが対極にある高市氏と野田氏。

REUTERS/Issei Kato

高市さんと野田さんは同じ女性でも対極の考えです。

高市さんは歴史修正主義的な考えもあり、安倍さんに非常に近い。ニューアベノミクスとして「サナエノミクス」も提唱し、夫婦別姓には反対する極めてパターナルな4の政治家です。しかし、高市さんはかつて1990年代は規制改革、構造改革を掲げているけれど、価値観はリベラルという3の政治家でした。小泉政権から安倍政権というのは3から4への移行でしたが、高市さんは安倍政権の誕生によって4の領域に強固な票があることがわかり、4に変わってきています。

日本人の多くは2の穏健でリベラルな保守を志向しています。革新的なこともやって欲しくない代わりに極端な右傾化も嫌う人たちです。国民全体で見ると4の支持層は決して多数派ではなく1割ぐらいですが、この層は団結が強い。そこにすり寄っていったのが高市さんで、限界に気づいたのが稲田(朋美)さん。稲田さんは総理を目指すなら、(支持層が厚い)2の政治家にならないと厳しいと思ったのでしょう。

野田さんは典型的な2の政治家です。夫婦別姓や女性の権利など価値観を重視していて、野田さんが総理になるとジェンダー平等などの政策が進む可能性が高い。縦軸の経済政策に強いとは言えませんが、障がいを抱えているお子さんがいることもあって、再配分には強い思い入れがあるので、総裁選に出るとなったらそこを強く打ち出して欲しいと思います。

穏健な保守政治家はなぜいなくなったのか

マトリクス

取材を元にBusiness Insider Japan編集部作成

国民全体は2のリベラルな保守を志向しているのに、なぜそのゾーンの政治家は少なくなったのでしょうか。

石破さんは1986年当選。野田、岸田、安倍の3氏は1993年当選です。1990年代までに当選した政治家は自民党でも比較的リベラルな人が多かった。安倍総裁時代の3回の総選挙で当選した衆院議員は4のタイプが多く、今やその3回生までの衆院議員は自民党の約4割を占めます。自民党に多様性があるように見えるのは1990年代までの遺産で、石破さん、野田さんは最後の世代なのです。

ではこの2の領域にはどんな政治家がいるかと言えば、立憲民主や共産、社民、れいわ新選組など野党なんです。私がマトリクスを提示したのも、これだけ野党は理念が一致しているのだからまとまれるはず、まとまらないと永遠に自民党には勝てないということを言いたかったんです。

立憲民主党はいまだに二大政党制が成立すると思っている節があります。日本は小選挙区制ではなく小選挙区比例代表並立制で、必ず少数政党が当選する仕組みです。

つまり中核政党と小政党の連立にならざるを得ない。自民党はいち早くそれを理解し、理念的には対極の公明党を取り込んだのに対し、旧民主党や立憲民主党は選挙制度を理解できずずっと二大政党制にこだわってきた。立憲民主党には共産党と一緒にやるという選択肢しかないんです。

説明しない政治は解消されるのか

安倍・菅時代に続いた「説明しない」政治は河野さんが総裁・総理になればむしろもっとエグい形で出てくるのではないでしょうか。Twitterのブロック問題にも表れているように、自分と違う声には耳を塞ぐ、聞かない、答えないという悪癖が続いていく。河野さんは言ってることはリベラルだけど、態度はパターナルです。

それでも河野さんが人気があるのは、単純接触効果だと思います。かつての橋下氏(元大阪市長)や吉村大阪府知事と同様、ワクチン担当大臣としてメディアに出まくっている。この1年で人気が伸びたのはメディア効果に加え、ネットの使い方でもキャラを確立したからだと思います。

私の石破さんに対する評価が高いのは、彼がクリスチャンだということにも関係があります。(保守政治の父と言われる)エドマンド・バーグは、保守政治のベースには神の視点から人間の不完全性を認識するという姿勢があると言っています。不完全だからこそ多くの意見に耳を傾け合意形成をしていく。石破さんは案外いろんな人の意見に耳を傾けて考えているんです。

人々は案外、政治家の人柄を見ているものです。この1年、それほどメディアには出ていない石破さんに相変わらず根強い支持があるのは、人柄に対する信頼があるということなのだと思います。

(聞き手・構成、浜田敬子


中島岳志:東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。大阪外国語大学卒業後、京都大学大学院博士課程修了。主な著書に『中村屋のボース』『保守のヒント』『「リベラル保守」宣言』『自民党 価値とリスクのマトリクス』など。

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