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中国IT大手が突如「1兆円超」寄付に走る理由。習近平政権「共同富裕」政策と「デジタル人民元」の深い関係

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中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」のネット部門「人民網」に掲載された、習近平政権提唱の「共同富裕」政策。

人民網(2021年8月17日)記事スクリーンショット

戦略的対立の続くアメリカと中国が、格差拡大を生んできた新自由主義からともに脱却し、国家主導色の強い経済政策を共有しようとしている。

アメリカはグーグルやアマゾンに対して、中国もアリババグループなどに対して、規制強化を進めている。両国に共通するキーワードは「国家の復権」だ。

中国の習近平政権が最近発表した「共同富裕」(=ともに豊かになる)政策を、毛沢東が発動してその絶対的権威の確立につながった「文化大革命」の再来とする向きもあるが、筆者はその見方に反対する。

コロナ禍が促した「国家の復権」

「コロナパンデミック後に世界はどう変わるか。感染拡大が止まらないなか、透けて見えてきたものがある。第一はグローバル化によって弱体化された国家と政府が復権し、強権政府に期待する人たちの姿だ」

2020年4月の寄稿で筆者はそう書いた。

バイデン米政権はこの春、コロナ危機の経済対策「アメリカ救済計画」と、インフラ・研究開発投資を柱とする成長戦略「アメリカ雇用計画」などに、国内総生産(GDP)の約3割にあたる総額6兆ドル(約660兆円)規模の歳出を議会に要求した。

同政権は並行して、国家をしのぐ影響力を持つ存在となったグーグルやアマゾン、フェイスブック、アップルなど巨大IT企業への規制を強化し、経済政策の実権を奪い返す動きを強めている。

市場メカニズムを重視する新自由主義経済の旗手だったアメリカが、国主導の国家資本主義に「宗旨替え」したと見ることもできる

先進資本主義国は1980年代初めから新たな需要を引き出す成長を求め、「小さな政府」「福祉・公共サービスの縮小」「規制緩和」「雇用自由化」などを柱とする新自由主義政策を推進してきた。

その政策のもとで、金融・通貨政策から雇用、賃金政策まで、一国の経済・社会政策の実権は事実上、国家から多国籍グローバル企業へと移っていった。

ところが、新型コロナの世界的大流行を受けて世界は自国優先の防疫態勢を整え、思わぬ形で国境が復活した。また、主要国は競うように巨額予算を組んだ。

多国籍グローバル企業には経済成長と需要喚起をリードする力はあるが、疫病や貧困、失業に苦しむ人々に救いの手を差し伸べる能力は国家に比べて希薄だ。

企業倒産と失業者を支援できるのは国家だけ——。コロナ禍は新自由主義的なグローバリズムが生み出した格差拡大に疲れきった世界に、国家の復権を促した。

「共同富裕」政策とは何か

社会主義の看板を掲げながら、実際には新自由主義経済の強い影響のもとで成長を果たした中国でも、経済格差が深刻化した。

その対策として習近平国家主席が8月17日に発表したのが、経済格差の是正を目指す「共同富裕」政策だ。

具体的な内容をあらためて挙げておくと、以下のような網羅的な内容だ。

  1. 国民の最低限度の生活(ナショナルミニマム)保障
  2. 格差是正のため「所得・税制・寄付」の三分野を通じ、再分配を促す
  3. バランスある地域開発と中小企業育成
  4. 不合理な所得を清算し、所得分配の秩序を是正。違法所得を断固として取り締まるが、 財産権と知的財産、合法的な富は保護
  5. 年金・医療など公共サービスの平等化
  6. 農村の生活環境の改善

金融大手クレディ・スイスによると、中国富裕層の上位1%による富の占有率は、2000年の20.9%から2015年に31.5%まで上昇した。

格差は日本やアメリカより大きい。アンバランスな発展と歪みが目立つ社会構造にメスを入れなければ、共産党指導体制への不満が爆発しかねない。

そうした強い危機感から、国民の最低限度の保障や大企業による寄付、公共サービスの平等化など、社会主義の基本原則に回帰する方針を打ち出した。

格差是正については、所得と税制による一般的な再分配に加え、巨大企業による寄付を「第三の分配方式」にしたのが特徴だ。

なお、「共同富裕」は中華人民共和国建国直後の1953年に毛沢東が提唱したモットーで、先に豊かになれる地域と人々から豊かになることを推奨する「先富論」を提唱した鄧小平も、最終目標として掲げた。

巨大IT企業の敏感な反応

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中国浙江省・杭州市にあるアリババグループ本社。独占禁止法違反など中国当局からの厳しい規制を受け、2021年第2四半期は営業利益が大幅減、苦しい経営が続く。

REUTERS/Aly Song

「共同富裕」政策が発表されると、富裕層側である巨大IT企業がまず敏感に反応した。

IT大手のテンセント(騰訊控股)は「1000億元(約1兆7000億円)を投じる」と宣言。動画投稿アプリ「TikTok」を運営するバイトダンス(北京字節跳動科技)創業者で前最高経営責任者(CEO)の張一鳴は、教育基金として個人で5億元(約85億円)を寄付すると発表した。

中国EC最大手のアリババグループもギグワーカーや中小企業の支援、雇用促進のために5年間で計1000億元を投資すると発表している。

さらに、セレブの象徴ともいえる芸能人が「摘発」のターゲットとされた。

中国を代表するスター、趙薇(ビッキー・チャオ)の名前が動画配信サイトの出演作品のキャスト一覧から次々に削除され、人気俳優の鄭爽(ジェン・シュアン)はテレビドラマの出演料を巡って脱税したとして、追徴課税など含め2億9900万元(約51億円)の罰金支払いを命じられた。

冒頭で触れた「文化大革命を想起させる」との皮肉がメディアから出てくるのは、こうした動きを見てのことだろう。

しかし、文化大革命(1966〜1976年)は当時国家主席として実権を握っていた劉少奇を打倒するため、毛沢東が主導して若者を動員した大衆運動だったが、習近平が現在有する権力基盤は盤石に近く、あえて権力闘争を発動する動機は見当たらない。

アメリカと並ぶ世界のテクノロジー大国に成長を遂げた中国で、「革命が来た」と銅鑼(ドラ)を鳴らして大衆を動員する毛沢東時代の政治スタイルが、いつまでも続くはずはない。

建国100年の節目に向けた「戦略的ステップ」

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2021年6月28日、中国共産党創立100周年を記念し、北京国家体育場(愛称:鳥の巣スタジアム)で行われた祝賀行事。2049年には「建国100年」の節目がやって来る。

Kevin Frayer/Getty Images

「共同富裕」政策を社会主義理論からみると別の風景があらわれる。

習近平氏は2020年秋、「社会主義初級段階」から人民生活の向上を目指す「新発展段階」に移行したと語り、単なる経済成長の追求ではなく「より良い生活の向上」を満たす質的転換を提起している。

より詳しく言えば、共産党一党支配の正当性は「不断の経済成長」によって「人民の物質的需要」を満たすことにあった。ところが、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を受けて、「不断の経済成長」はもはや期待できなくなり、量的拡大から質的向上への転換が必要になった。

こうして見ると、「共同富裕」は2049年に迎える建国100年の節目に「世界一流の社会主義強国」を実現するための、戦略的なステップと見るべきだろう。

「デジタル人民元」と大手IT規制の関係

習近平政権は先に触れたように、アリババグループやテンセントなど大手IT企業を独占禁止法違反容疑などで締め上げようとしている。

ある専門家が「国家の公共性をまるで肩代わりしているかのように、個人からあらゆる情報を集めている」と評するように、IT企業が持つ力は確かに強大だ。

ただ、中国当局によるアリババグループの「アリペイ(支付宝)」とテンセントの「ウィーチャットペイ(微信支付)」規制の背景に、2022年に開催が予定される北京冬季五輪までに中国政府が正式導入を計画している「デジタル人民元」の存在があることは無視できない

中国ではスマホの普及に伴い民間の電子マネーが急成長。アリペイは利用履歴をビックデータとして利用し、個人の経済能力指標である「信用スコア」を使って急成長を果たした。

中国人民銀行(中央銀行)が発行するデジタル人民元が普及して主要な決済手段になれば、アリペイの成長プロセスと同様、共産党が取引情報を完全に掌握してビッグデータとして活用できるようになる。

野口悠紀雄・一橋大学名誉教授は「マネーの取引情報が民間IT企業から国に移る。それによって、史上最強の『デジタル・レーニン主義』が可能になる」と指摘する

大手IT企業の独占規制を強化する、という視点だけから中国当局の動きを理解しようとすると、経済と統治の関係の大変化を見逃すことになる。

終息の見通しが立たないコロナ禍は、新自由主義経済の矛盾を一気にさらけ出した。

アメリカなど先進資本主義国は国家資本主義に出口を求め、一方の中国は社会主義的政策に回帰するという違いはあるものの、格差是正を通じて経済社会の安定を目指すという方向性はまったく同じだ。

「文革再来」などと面白おかしく伝えるだけでは、中国の真意ひいては世界のダイナミズムを見誤る。

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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