カンボジアのプノンペンに建設されたモロドク・テコ国立競技場は、中国の一帯一路構想の一環だ。
Tang Chhin Sothy/Pool via REUTERS
- 中国はカンボジアに建設費1億5000万ドルのスタジアムを寄贈した。
- カンボジアの文化に敬意を表して設計されたこのスタジアムは5階建てで、6万人が収容できる。
- これは、影響力の行使と引き換えにスポーツ施設を提供するという中国の「スタジアム外交」の最新事例だ。
カンボジアは、中国が1億5000万ドル(約165億4000万円)を投じて建設した新しいスタジアムを受け取った。そしてこれは、北京が影響力を築こうとしてこのような贈り物をする最新の事例になった。
クメール・タイムズ(Khmer Times)によると、中国の王毅外相は2021年9月12日、中国が資金を提供して2013年に建設が始まった「モロドク・テコ国立競技場(Morodok Techno National Stadium)」をカンボジアのフン・セン(Hun Sen)首相に正式に引き渡した。
同スタジアムでの引き渡し式で王外相は、中国がこのプロジェクトに資金を提供したのは、カンボジアと親しい友人だからだと述べたとクメール・タイムズは報じている。カンボジアは首都プノンペンの郊外にあるこのスタジアムを、2023年の第32回東南アジア競技大会(Southeast Asian Games)のメイン会場として使用する予定だ。
競技場の両端には船の舳先と船尾のような構造が見られる。
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スタジアムは船をイメージしてデザインされ、両端には高さ324フィート(約99メートル)の舳先と船尾を模した建造物がある。数百年前に中国人が船でカンボジアに渡っていたことから、このデザインは中国とカンボジアの関係を表しているとカンボジアのトン・コン(Thong Khon)観光大臣は新華網(Xinhua Net)に語った。
また新華網によると「舳先」の形状は、胸の前で手のひらを合わせて行うカンボジアの伝統的な挨拶「サンピア(Sampeah)」を象徴しているという。
5階建てのスタジアムの周囲には、カンボジアの象徴であるアンコールワット(Angkor Wat)に敬意を表し、噴水を備えた広い堀が設けられている。39歳のカンボジア人ジャーナリスト、のチョン・ビースナ(Chhon Veasna)はグランドオープンの前日に、堀とスタジアムの内部を撮影した動画を自身のYouTubeチャンネル「ファミリー・オブ・エクスプローラー(Family of Explorer)」に投稿した。彼は地元メディアの仕事をしているため、スタジアムの内部に入ることができた。
スタジアムの外にある堀はアンコール・ワットに敬意を表している。
Family of Explorer/YouTube screenshot
クメール・タイムズによると、このスタジアムは6万人収容で、国際試合が可能なサッカーのピッチ、オリンピックサイズのプール、陸上トラックを備えている。また、カンボジア東南アジア競技大会組織委員会によると、室内練習場、ジム、アクアティクス・センターも備えており、クリケット、バスケットボール、バドミントンなどのスポーツの試合を開催することもできる。
スタジアムにはサッカー競技場と競走用トラックがあり6万人の収容が可能。
Family of Explorer/YouTube screenshot
スタジアムの建設には340人の中国人エンジニアと240人のカンボジア人労働者が参加したとクメール・タイムズは伝えている。
プノンペン・ポスト(Phnom Penh Post)は、カンボジアのフン・セン首相はスタジアムの引き渡し式で「これらのものは、カンボジアと中国の 『鉄壁』の関係の成長期に収穫された初期の果実にすぎない」と述べたと報じている。
スタジアム外交
中国は、「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」と称して、発展途上国へ影響力を行使する見返りにインフラを提供している。これまで、多くの国に空港や道路、港湾の建設を支援してきたが、特にスタジアムは数十年来、その大型施設の一つになっている。学術誌、ハビタット・インターナショナル(Habitat International)に掲載された2019年のレポートによると、中国はアジア、中南米、アフリカの国々で100以上のスタジアムを建設している。
スタジアムの中を歩く中国とカンボジアの政府関係者。
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一部の研究者はこれを「スタジアム外交」と呼んでいる。
中国はカンボジアに対して何十億ドルもの援助、融資、投資を行っており、両国は長年にわたって緊密な関係を維持してきた。2021年6月には、カンボジアの海軍基地内の、アメリカが資金を提供した2つの施設を取り壊して建て替えたため、軍事的にも中国の影響力が拡大しているのではないかという懸念を引き起こしている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)