カミソリから生理用品まで、スタートアップはあらゆる消費財分野で大手ブランドに挑戦してきた。
最近3000万ドルを投資家から調達したのは、なんとトイレットペーパーのスタートアップ企業だ。
オーストラリア発のフー・ギブス・ア・クラップ(Who Gives a Crap、直訳すると「誰が気にするものか」)は、2021年9月13日にシリーズAラウンドで3070万ドルを調達したと発表した。参加したのは、ベルリンベスト、グロック・ベンチャーズ、クラフトーリー、ジャムジャー・インベストメンツ、エアツリーベンチャーズ、ジャイアント・リープ、アスレティック・ベンチャーズなどの投資家だ。
従来のトイレットペーパーの製造工程を大きく変えること、また、競合他社と差別化できる自社ブランドの確立がフー・ギブス・ア・クラップの戦略だ、と共同創業者兼CEOのサイモン・グリフィスは言う。
同社はトイレットペーパーのほかにティッシュやペーパータオルも手がけており、竹やサトウキビなどの代替パルプを使用している。これらの素材は、トイレットペーパーの製造に従来使われてきた材料よりも環境に優しいのだという。
また、スコット(Scott)やチャーミン(Charmin)といった大手ブランドとはビジネスモデルも異なるという。世界中の人々がトイレや衛生用品を使えるようにするための慈善事業に、フー・ギブス・ア・クラップは利益の半分を寄付している。
また、商品の外見も少し変わっている。競合他社のトイレットペーパーはたいていパッケージにプラスチック素材を使用しているが、フー・ギブス・ア・クラップの商品はシンプルなデザインの紙で包まれている。同社ホームページによれば、24ロール入りで約30ドル(約3300円)で販売されている。
フー・ギブス・ア・クラップの紙のパッケージに入った6ロール入りのトイレットペーパー
提供:Who Gives a Crap
グリフィスは言う。「店頭に並んでいる既存のブランドを見に行くと、商品のパッケージに使われているイメージは子犬や枕、羽根、クマなど、トイレットペーパーとは無関係なものばかりでした」
起業の発端は2012年のクラウドファンディングだった。それ以降、消費者向けの事業として成長し、アメリカやカナダなど他国にも事業を拡大した。また、本拠を置くオーストラリアでは店舗販売も始めており、アメリカの独立系日用品店でも販売する計画だ。
競合他社と同じく、フー・ギブス・ア・クラップもコロナ禍の初期には需要が劇的に高まった。定期購入の在庫を確保するために、通常購入の注文を停止したこともあったという。
「誰でもいいわけじゃなかった」
同社のミッションは万人受けするものではない。
衛生用品を寄付することについて、「ディナー・パーティーの場で会社について説明しても、好意的な反応をもらえないこともありました」とグリフィスは振り返る。
グリフィスによれば、社会的インパクトのために利益の一部を使う、という考えを良しとしなかった投資家候補もいたという。しかし、自社の社会的な目標を達成するための計画については率直に話してきた。基本的な水と衛生的な環境をすべての人が手に入れるためには、30年ほどかかるだろうとグリフィスは予想している。
(写真左から)共同創業者のジェハン・ラトナタンガ、サイモン・グリフィス、ダニー・アレクサンダー。
提供:Who Gives a Crap
「私たちの目指すところに共感してもらえるかがとても重要で、誰でもいいとか、みんなに応援してもらおうとは思っていませんでした。それまでの数年間で関係を築けていた投資家たちをリストアップしました。彼らは私たちの哲学に共感してくれていて、私たちの考えを心から応援してくれると分かっていました」
調達した3000万ドルで、英語圏以外の国にも事業拡大するつもりだとグリフィスは話す。また、バスルームやキッチンで使える新商品の販売も考えている。
さらに、会社のサプライチェーンももっと環境に優しいものにできる余地がある。繊維からパルプをつくる工場は多くのエネルギーを消費するが、今回調達した資金の一部を使って再生可能エネルギーを使うようにしたい、という。
「サプライチェーンにいる取引先すべての建物の屋根に太陽光パネルを設置するなんて、かかるコストの大きさを考えれば以前は想像もできませんでした」
利益や商品を寄付するビジネスモデルで投資家の興味を引く、というのはそれまでにもあった。靴ブランドのトムス(Toms)や眼鏡ブランドのワービーパーカー(Warby Parker)も、必要とする人たちに自社製品を届けている。
グリフィスは言う。
「10年前は、利益の半分を寄付する会社に投資をするなんて考えられなかったでしょうね。でも投資の世界は変化しています。顧客は実際にそういう企業を求めているんだ、と考えられるようになったのでしょう」
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)