米電気自動車(EV)スタートアップ、ファラデー・フューチャー(Faraday Future)の勢いが止まらない。自動運転開発にも深い知見を持つエキスパート4人が一挙に幹部人材として加わる。
Faraday Future
電気自動車(EV)スタートアップのファラデー・フューチャー(Faraday Future)は、開発中の超高級EV『FF91』の2022年内の市場投入に向け、カギを握る専門家人材4人が新たに戦列に加わると発表した。
FF91は1050馬力、電池容量130kWh、時速60マイルまでの加速時間2.4秒など、業界屈指の性能を誇る。
同社は今後12カ月間、FF91の発売開始に向け、引き続き人材採用を続けることを強調。とくに車両組み立てや塗装などを担当する幹部クラスは現在も募集中という。
一時は破たん寸前まで追い込まれたファラデーだが、独BMWのバイスプレジデントを経て中国のEVスタートアップ・バイトン(Byton)を共同創業したカーステン・ブライトフェルドが最高経営責任者(CEO)に就任してからは経営が安定。
今回の幹部人材採用によりFF91市場投入モデルの完成が現実味を帯びてきたことは間違いない。
以下では、ビジネス特化型SNSリンクトイン(LinkedIn)の公開プロフィールとファラデーのプレスリリースなどから、4人のエキスパートの経歴に詳しく触れておきたい。
ハルジート・ギル(Harjeet Gill)は車両安全部門の責任者に就任する。
独ダイムラー・クライスラー(当時)で約11年、乗員安全部門などのエンジニアとして勤務し、2009年に米電気自動車大手テスラ(Tesla)に移籍。前職に引き続き、乗員安全部門でマネージャーを6年超務めた。
2015年には米ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転部門に移り、EVスタートアップのローズタウン・モーターズ(Lordstown Motors)を経て、ファラデーにジョインする。
乗員安全部門を中心に、20年以上におよぶグローバル自動車メーカーでの実績を活かすのが、ファラデーでの役割ということになるだろう。
なお、ローズタウンはGMから出資を受けたあと、2020年8月に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて株式公開に至ったが、その後、開示情報の真実性をめぐり米証券取引委員会(SEC)や司法省の調査を受けている。
シンバオ・ガオ(Xinbao Gao、博士)は蓄電・充電部門の責任者に就任する。
車載用リチウムイオン電池の米エネルデル(EnerDel)から中国の自動車部品大手・万向グループに移籍。電池メーカー子会社の浙江万向エネルワン・パワーシステムを経て、同じく子会社の万向A123システムズ・アジアや万向クリーン・インテリジェント・ビークルでエンジニアリング部門の責任者を務めた。
万向グループは、2013年に経営破たんした米フィスカー・オートモーティブ(現在のフィスカーは同経営者が再建した別会社)から高級プラグインハイブリッド(PHV)「カルマ(Karma)」ブランドを買収。
ガオは2018年から万向グループで同ブランドの新車開発・販売を手がけるカルマ・オートモーティブに移り、車載電池部門の責任者を務めた。
一貫して車載電池畑を歩んできたエキスパートと言っていいだろう。
ファラデーが開発を進める超高級EV『FF91』の内装イメージ。
Faraday Future
ファン・ワン(Fan Wang、博士)は先進運転支援システム(ADAS)および自動運転システム向けソフトウェアエンジニアリング部門の責任者に就任する。
米半導体大手クアルコムと韓国サムスン・セミコンダクターで合計約10年、移動体通信および人工知能(AI)関連ソフトウェアの開発を担当。その後、サムスングループの戦略イノベーションセンターでも、自動運転ソフトウェアの研究開発に参加した。
2018年に中国の重慶小康工業のEV子会社セレス(旧SFモーターズ)自動運転部門の責任者となり、2020年からはベトナム最大のコングロマリット・ビングループ(Vingroup)自動運転センターの責任者に就任していた。
一目瞭然、ソフトウェアのエキスパート。ワンの幹部登用は、ファラデーが先進運転支援システムのみならず自動運転システムの導入も見据えていることの証しでもあるはずだ。
チャック・ラッセル(Chuck Russell)は車両品質部門の責任者に就任する。
ゼネラル・モーターズ(GM)で1996年から2013年まで約17年間、自動車産業の最前線を見てきた。
GMでは新規事業開発マネージャーを経て、中国の自動車部品大手・瀋陽金杯汽車との合弁会社、韓国の大宇との合弁会社で生産部門の責任者を務めた。
北米部門に戻ってからもコンパクトカー生産部門の責任者に就任、2012年には(現在のように本腰を入れる前の)EV部門のチーフエンジニアに就任している。
その後、自動車部品大手クーパー・スタンダード(Cooper Standard)で各種プロダクトの戦略・安全部門責任者を歴任し、前出(シンバオ・ガオ博士も在籍)のPHVブランド、カルマ・オートモーティブを経て、自動車産業向けソリューションのコーナーストーン・テクニカル・ソリューション(Cornerstone Technical Solution)のプレジデントを約8年間務めた。
グローバル自動車産業に知悉した業界のベテラン人材、といった位置づけだろう。
(文:川村力)