Business Insider Japanの取材に応じたタイミー社長の小川嶺さん。
撮影:横山耕太郎
立教大学の現役学生の学生ベンチャーとしても知られる、スキマ時間バイトのマッチングサービス「タイミー」が年9月15日、シリーズDラウンドで、53億円の資金調達を発表した。今回の資金調達により、創業4年目で累計の調達額は約90億円になる。
今回の資金調達の狙いは何なのか?タイミー社長・小川嶺さん(24)に聞いた。
香港拠点の3社からも資金調達
「これまでは学生ベンチャーとして、“勢い”で成長してきた部分もある。今回の資金調達を機に、効率化とテクノロジー化を進め、成長のギアを上げるフェーズに入る。その意味で第2創業と捉えている」
小川さんはそう説明する。
2018年にアプリをリリースしたタイミー。8月現在では200万人が登録するサービスに成長している。
コロナによる影響が直撃したものの、V時回復を果たした。
提供:タイミー
コロナの影響を受け、飲食業のアルバイト求人が激減したものの、物流業などの求人掲載が増加。2021年10月期第3四半期(5~7月)の掲載求人数は、前年比3.6倍というV時回復の状況にあるという。
資金の調達先は、日本企業では、伊藤忠商事とKDDIグループのKDDI Open Inovation Fund、国内投資家ではTHE FUND(シニフィアン・みずほキャピタルが共同運営)の3社だ。
「伊藤忠とKDDIは幅広い顧客基盤を持っている。今後は顧客開拓の面でも協力してもらいたい」
今回の53億円の資金調達で特徴的なのは、Keyrock Capital Managementなど香港を拠点とする計3つの投資顧問会社からも出資を受けている点だ。
提供:タイミー
香港を拠点とする3つの投資顧問会社は、日本の未上場企業への出資は、今回のタイミーが初の案件になる。
タイミーの八木智昭CFOは「タイミーが解決しようとしている社会課題の大きさや、業界での競争優位性、成長のポテンシャルなどが海外の機関投資家にも高く評価された結果」と説明する。
コロナ終息見据え、広告費に投資
調達した資金は何に使うのか?
小川さんが真っ先に挙げたのは、今後、飲食店がアルバイト募集を再開することを見据えた「マーケティング投資」で主に広告・宣伝費だ。
コロナ前までタイミーが主力としていたのは、飲食業の求人だった。例えば2019年10月の業種別の募集人員は、最も多かったのが「飲食」で65.4%、続いて「イベント・キャンペーン」が12.1%だった。
しかし、マッチング市場をコロナが直撃し、状況が一変した。
職種別の募集人員の割合。コロナを経て最も募集が多い業界は「飲食」から「物流」に変化した。
提供:タイミー
2020年10月の業種別の募集人員をみてみると、1位が「軽作業(物流)」で62.8%、2位が「配達・運転」で13.5%だった。
「飲食」はたった5.2%に激減したが、小川さんは「来年の夏頃には飲食の募集が一気に増える」と予想する。
「コロナが落ち着けば、どの業界でも人材の取り合いになる。飲食業やイベント業で求人が再開すれば、コロナ中に物流などで働いていた人材が移動してくる。すると今度は物流も人手が足りなくなる。飲食店にしてみても、コロナ前に100人採用できていた店でも、半分の50人程度しか採用できない状況になるのではないか」
小川さんはコロナが落ち着くタイミングで、人材を募集する企業と、登録ユーザーの獲得に向け攻勢をかけるという。
「スキマ時間を使うタイミーであれば、人材を確保できると打ち出していく。飲食などで本格的に求人募集が再開されれば、現在のタイミーのユーザー200万人では足りない数の仕事が出てくる。なので、新規のユーザーの獲得も進めていく」
「データサイエンティスト」と「営業」を採用
小川さんは「蓄積してきたデータを活用できる人材を採用したい」という。
撮影:横山耕太郎
資金のもう一つの使い道が、「新サービスの開発と人材採用の費用」だという。
「従来の人材派遣サービスのように、仕事の案件がただメールで送られて来るのではなく、『働く時間のシェアリング』プラットフォームを目指している。テクノロジーを駆使して、一人ひとりに合った仕事をマッチングするための開発研究を加速させる」
具体的には、ユーザーの希望に近いマッチングを実現できる推薦アルゴリズムの強化や、将来的にはユーザーの経験などに応じて時給が変化するダイナミックプライシングの導入なども検討する。
「サービス開始から3年が経過し、マッチングデータが蓄積してきている。このデータを使って、サービス開発を進められる人材を確保したい。
もちろんデータアナリストやデータサイエンティストはどこの企業も欲しがっているのが現状。ゼロからの開発を面白いと思ってくれる人材の獲得を目指していく」
また、タイミー上で求人掲載の企業を増やすため、営業体制の強化の資金にもあてるという。
「現在は東京本社のほか、全国6支社で企業向けの営業を行っている。現在の営業部は90人規模だが、大幅な増員を計画している」
「学生」から「会社員」に裾野広げる
コロナ以降はユーザーの属性も変化し、会社員や専業主婦の利用が増加した。
提供:タイミー
「第2創業」を掲げるタイミーにとって、さらなる成長のカギとなるのがユーザー層の拡大だ。
これまで「学生アルバイト」が利用の中心だったタイミーだが、コロナ禍で新しいユーザーを獲得している。
2019年11月のユーザーを見てみると、「学生」が30.9%、「パートアルバイト」が24.3%、で、「会社員」は16.7%だけだった。
それが2021年3月には、最も多い利用者が「会社員」の40.6%になり、「学生」は16.1%に減っている。
「コロナによる収入不安から、副業としてタイミーを利用する会社員や、主婦層の利用が増えている」
タイミーでは今後さらに、「会社員の副業プラットフォーム」としての存在感を強めることを目指している。
とは言え、副業向けプラットフォームは、すでにサービスが乱立している。
小川さんが強調するのが、「タイミーはスキマ時間をシェアする副業プラットフォームである」ということだ。
「副業と言うと、コンサルやプログラミングなどのスキルシェアが注目されるが、スキルがなくてもちょっとやってみたいという副業があっていい。その意味では副業のイメージを変えたいと思っている。
例えば、物流倉庫で1日働くことで、ECサービスの仕組みを体感したり、物流のDXに触れたりもできる。そんな『大人版のキッザニア』としての副業もあっていいのではないか」
コロナ禍では40代以上の利用者の割合も増えたが、さらに30代以上の利用者を増加を狙い、マーケティングを強化していくという。
コロナによる逆風の中でも、さら成長のギアを上げるというタイミー。そのサービスが目指しているのは、「日本における人手不足解消の一翼を担うこと」だ。
「今はコロナばかり言われているが、少子高齢化がどんどん進み、慢性的に人手不足の日本のピンチは何ら変わっていない。人が足りない、店が開けない、という状況では日本は衰退していくしかない。眠っていたスキマ時間を生かすことで、この課題に向かっていきたい」
(文・横山耕太郎)