コロナ禍で通勤や会食が減り、以前よりも自分で好きなことに使える可処分時間が増えているのではないでしょうか?
今回はこの「可処分時間」をキーワードに、可処分時間を新たな成長機会につなげる方法について考えていきます。
月30時間をどう使う?
ではまず、実際にどれくらいの可処分時間が生まれているのかを把握していきましょう。
総務省統計局が5年ごとに実施している社会生活基本調査によると、日本の平均通勤時間は「片道39分」。往復で1時間19分(2016年調査、全国平均)。
これを完全にリモートワークに切り替えたとすると、月20日通勤するとして、およそ26時間の節約。週1度は出社するハイブリッド・ワークでも21時間の節約になります。
私たちはこれだけの可処分時間を獲得しました。加えて、クライアント先を訪問する移動時間もなくなったわけですから、少なく見積もったとしても月に30時間は自由に使える時間を新たに手に入れたことになります。これだけの時間を、あなたはどんなことに使ってきましたか?
例えば大学の講義で考えてみると、1科目90分×15回=18時間で専門知識を習得する構成です。つまり、月30時間は1科目分を優に学べる時間に相当するわけですね。
可処分時間というのは不思議なもので、意識的に行動に移し、継続していかない限り、ただ時間を空費して終わってしまうのです。
私も反省があります。この1年半、意識的に新しい分野のインプットに取り組めていないのです。ですから今日から、皆さんと一緒に私自身の行動も変えていこうと思います。
2つのアプローチで可処分時間を成長機会に
ポイントは、可処分時間を浪費するのではなく、自己投資に充てること。気の知れた友人や同僚と過ごす時間は居心地がいいものですが、その「コンフォートゾーン」を抜け出していかないと新たな成長はありません。
すでにあなたが知っている分野や知識については、情報として認知する「カラーバス効果」が働くため、自然とインプットをしていくはずです。しかし、知らないことについてはどうでしょうか?
SNSのアルゴリズムは、私たちがすでに関心がある事柄や検索した情報を優先的に表示する仕組みになっています。つまり、私たちが相当意識的に取り組まない限り、あなたが目にする情報は「世界のほんの一部」を切り取ったものでしかありません。ここに自覚的でなければなりません。
ではどうしたらいいのか。やり方は2つあります。
「社会起点アプローチ」で社会問題を集中インプット
私たちを取り巻く社会は、常に問題や矛盾をはらんでいます。この問題や矛盾の解決に向けてインプットを続け、自分なりの解決策を考え抜くトレーニングを続けていくのです。
気候変動、超少子高齢化、社会福祉、貧困と格差、人種問題、難民、食糧危機……など、目の前の業務には直接関係しないような事柄も、私たちのこれからの「働く」を考える上では避けて通れない問題です。
特に今回のコロナ・パンデミックで私たちは、これまでのノーマルが通用しなくなり、社会が変化していくさまを経験しました。その変化に適応していくことも学んだのです。
例えば、1カ月で1つの社会テーマを取り上げて、集中的にインプットしていくようにするのもオススメです。理想を言えば、アウトプットにつなげるインプットを心がけるようにしましょう。自ら社会テーマを設定し、文章化したり、音声や動画にまとめていくとより身につきます。
この社会起点アプローチに関して意識すべきことがもう1つ。もしあなたが意思決定をする立場であれば、何から取り組むかを考え抜くことです。当事者意識を持って、「社会問題は私たちで解決していく。そのためには何をしたらいいか」という視点でシミュレーションを積み重ねていくのです。
「自己起点アプローチ」で自己の未来をデザイン
2つめの方法は私が「自己起点アプローチ」と呼んでいるもので、自分がこれからどうありたいのか、どう生きていきたいのかに向き合っていきます。
日ごろ仕事をしていると、自分自身のこれからのキャリア形成について考える時間はなかなか取れないのが現状ですよね。ですが、定期的に時間を割いて自分の内面と対話することは、その後の成長には不可欠です。週に一度でいいので、自己の未来をデザインしていくようにしましょう。
自己起点アプローチでは、「やらないことリストの作成」「やりたいことリストの作成」「これまでのキャリアの棚卸し」「これからのキャリア戦略」など、本連載でもすでにいくつか紹介してきたワークに取り組むことで自分と向き合います。ぜひあなたも実際に取り組んでみてください。
カリキュラムを設計して行動計画の見える化を
社会起点と自己起点、2つのアプローチの仕方が分かったところで、これらを可処分時間に埋め込んでいきましょう。仕事のタスクの割り振りと同じような要領で、可処分時間の使い方を設計していくのです。
注意したいのは、つい張り切りすぎて可処分時間の使い方がオーバーワークになってしまうこと。本業務に支障が出るのは避けたいので、バッファー(調整時間)も組み込んでおくようにしましょう。
それでも実践するのが難しいと感じたら、下図のように「セルフラーニング・カリキュラム」を作成するのもオススメです。
筆者作成
筆者作成
「中長期でのセルフラーニング・カリキュラム」の自己起点アプローチに関しては、最初の月で集中的に「これまでのキャリアの棚卸し=過去分析」に向き合ったら、それ以降は「現状分析」と「未来構想」を繰り返していきます。
過去は変動しないので、基本的には定期的に見直す必要はありません。しかし万が一、現状分析と未来構想を繰り返す中で過去に再度向き合う必要を感じたら、そのつどカリキュラムを調整するようにしましょう。
本連載ではこれまで、「組織内キャリアから自律的なキャリア形成へのトランスフォーメーションが不可欠です」と繰り返しお伝えしてきました。実は今回お話しした、可処分時間の使い方を自ら主体的に設計していくことこそが、キャリア・トランスフォーメーションを持続的にドライブさせていく活力源となるのです。
上記の図はあくまで一例です。曜日選択やテーマ設定はあなた自身が自由にデザインしてOK。仕事であれば自分の好きにやることは難しいものですが、可処分所得時間でのセルフラーニング・カリキュラムは、あなた自身がやりやすいスタイルに設計してかまいません。
将来の変化を生むのは、小さな行動の積み重ねです。そのためにも、可処分時間を有効に使う習慣を身につけたいものですね。
※この記事は2021年9月20日初出です。
田中研之輔(たなか・けんのすけ):法政大学教授。専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を23社歴任。一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事、UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員(SPD東京大学)。著書は『プロティアン』『ビジトレ』等25冊。「日経ビジネス」「日経STYLE」他メディア連載多数。〈経営と社会〉に関する組織エスノグラフィーに取り組む。