Insiderはマイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)が社内向けに送信したメールを独自入手した。
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マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、9月14日の従業員向け社内メールで、アマゾンのクラウド事業の立ち上げに大きな貢献を果たし、8月に突如退社したチャーリー・ベルを同社に迎え入れることを明らかにした。
ベルは、新たに設置される全社横断のサイバーセキュリティ・エンジニアリング部門の責任者に就任する。
より正確に言うと、クラウド・人工知能(AI)担当のスコット・ガスリー、エクスペリエンス&デバイス担当のラジェシュ・ジャーという2人のエグゼクティブバイスプレジデントが率いてきたチームを、新たに「セキュリティ・コンプライアンス・アイデンティティ・マネジメント」部門として統合、ベルはその担当エグゼクティブバイスプレジデントとなる。
直属の上司はナデラCEO。
ベルは7月15日にリンクトイン(LinkedIn)に投稿し、マイクロソフトへの移籍と新たな組織を所管することを明らかにした。
「安全性が常に確保され、真実はいつもひとつで、あるモノが自分の所有物であることをいつでも証明できる、誰もがそんな世界を望んでいます。だからこそ、私たちはデジタルが浸透した社会を必要としているのです。そして、そんな社会を実現できる唯一の企業がマイクロソフトだと私は考えています」
冒頭のナデラCEOからの社内メールによれば、ベルは「前職(アマゾン)との調整が終わり次第、着任する」とされている。
本件に詳しい関係者によると、マイクロソフトとアマゾンは目下、ベルが競業避止義務に違反せずに新たな職務に就けるよう法的取り決めの調整手続きを行っている。
アマゾンは競合他社に移籍する経営幹部に競業避止義務への誓約を求めることで知られるが、専門家からは(幅広い事業を手がけるアマゾンは競業の対象も広範囲にわたるため)そうした義務を退職者に課することは公正さを欠くとの批判があがっている。
ナデラCEOが従業員向けに送った社内メールについてマイクロソフトにコメントを求めたが得られなかった。ただし、広報担当のフランク・ショー名義で用意された声明には以下のような記載があった。
「チャーリー・ベルの当社における新たな職務が、国家あるいはテクノロジー業界全体のサイバーセキュリティ向上に貢献することは疑いなく、その実現のためにアマゾンとの建設的な話し合いに全力で取り組んでいるところです。
近年、当社の経営幹部5人がアマゾンに移籍した際も同様の話し合いを行っており、こうした問題をともに解決していくことの重要性を深く認識しております」
ベルはアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の立ち上げに大きな役割を果たした人物。ジェフ・ベゾスの後継者としてアマゾン本体のCEOに就任したアンディ・ジャシーに代わって、AWSのトップに就任するとの見方もあった。
しかし、結果としてジャシーが後任に選んだのは、2016年にデータ可視化ツールのタブロー(Tableau、現在はセールスフォース傘下)に移籍するまでAWSの事実上の最高執行責任者(COO)を務めたアダム・セリプスキーだった。
複数の関係者の証言によると、ベルの退社はあまりに突然で、公式な社内報告がなされたのは最終出社日だったという。取材に応じた関係者は「まったくの寝耳に水でした」と率直な感想を口にしている。
なお、セリプスキーがベルの退社を社内に共有したのは、わずか1カ月前の8月9日のバイスプレジデント向けメールだった。
ナデラCEOが9月15日(冒頭の従業員向けメールとは別)に送信した社内メールによると、ベルが統括する新たな組織には、以下の4人のコーポレートバイスプレジデントが名を連ねる。
- ジョイ・チック(アイデンティティ担当)
- ハービンダー・ベーラ(Microsoft 365セキュリティ&コンプライアンス担当)
- バーラット・シャー(クラウドセキュリティ担当)
- ブレット・アルセノー(最高情報セキュリティ責任者[CISO])
ナデラCEOは社内メールでこう強調している。
「当社ひいてはテクノロジー業界が向き合うべき次なる課題は、デジタルプラットフォーム、デバイス、クラウド、それぞれのセキュリティです。私たちはいまこの課題に大きな意欲をもって取り組んでおり、チャーリー(・ベル)もそのことを認識しているからこそ、マイクロソフトへの移籍を望んだのだと思っています」
(翻訳・編集:川村力)