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日本のiPhone 13価格はなぜ「平均月収の6割」にもなるのか。金融専門家が示す“弱い円”の現実

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アップルが新型iPhoneを発表。その価格の高さ(平均月収に占める割合)が話題になっているが、金融専門家はこれから深刻化する日本経済の「あくまで末端」事象にすぎないと指摘する。

Apple

最近、「安い日本」を特集したメディア記事をよく見かける。

Business Insider Japanの読者にも、日本の財やサービス、賃金などあらゆるものが諸外国に比べて安くなっている、といった議論を見聞きしたという方々は多いのではないか。

そうした議論は、マクドナルドのビッグマックやスターバックスのラテ、アップルのiPhoneなど、特定のグローバル商品の価格を尺度にして行われることが多い。

9月14日(現地時間)に発表されて話題を呼んでいる「iPhone 13」について言えば、日本での販売価格が「10年で3倍の19万円」となり、「日本人平均月収の6割」に達したとの報道(日本経済新聞、9月16日付)もあった。

iPhoneを含めて「輸入品が高い」と実感される状況は、当然のことながら裏を返せば「日本の商品が安い」状況とイコールだ。

「円だけ売られる」状況が続いている

商品の価格は「物価」として広く認知されている。

ある国の居住者にとって、物価は財やサービスの「対内価値」と言い換えられる。その居住者が取り引きなどで海外に目を向ける必要がある場合、財やサービスの「対外価値」まで考えねばならず、その際は為替相場、要するに「通貨の価値」が重要になってくる。

ここでその為替相場を見てみると、年初来、円だけが売られる状態が続いている。

テレビニュースでも毎日のように報じられる対ドル相場に限らず、貿易量や物価水準を加味して算出される「実質実効為替レート」で見ても顕著だ。実質実効レートは「通貨の総合力」を示す指標と考えていい。

円の実質実効レートは、2021年7月時点で73.15まで下落している。6月は72.44だった。

近年では、金融緩和とそれに伴う円安・株高に最も勢いがあった2015年6月に記録した70.66が、変動相場制導入後の1970年代半ばに匹敵する安いレートとして話題になった。いまはその水準に近いことになる【図表1】。

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【図表1】円の実効相場(名目・実質)と長期平均の推移。薄い色の線が実質実効為替レート、単位は縦軸が円、横軸が年。

出所:国際決済銀行(BIS)資料より筆者作成

当時をふり返ると、黒田日銀総裁が「ここからさらに(実質実効レートが)円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」(2015年6月10日)と発言したため、為替市場で円買いが殺到。円の対ドル相場は125.86円まで下がり、今日に至るまでそれを超える円安は一度も記録していない。

日本の物価は諸外国に比べ「突出して下がっている」

最近は対ドル相場が110円前後で安定しているので、円の総合力を示す実質実効レートが下落していることに気づいていない人が多い。

日本に暮らすほとんどの人々にとって、為替とは対ドル相場とほぼ同じ意味なので、当然と言えば当然だ。

しかし現実問題として、実質実効レートは記録的な水準まで下がっている。なぜなのか。

それは、実質実効レートが主要貿易相手国に対する「名目実効為替レート」と「物価の相対的変化」の両方に応じて動く計数だからだ。

名目実効レートは(実質実効レートと異なり)貿易額を加味しつつも物価水準の差は考慮せず名目の金額で比べるもので、例えば、円の対ドル相場がそれに相当する。こちらはすでに述べたように年初からほとんど動きがない。

それでも、日本の物価が諸外国に対して相対的に下落すれば、実質実効レートは下がる。

上の【図表1】に戻ると、実質実効レートの下落幅は、2017年前後から名目実効レート(濃い色の線)より大きくなっていることがわかる。その傾向はコロナ禍で一段と強まっているように見える。

これは言い換えれば、名目実効レートがあまり動かなくても、日本の物価が相対的に落ち込む流れが強まっているということだ。

前回寄稿(9月6日)でも指摘したように、欧米の物価はインフレ警戒の必要性が取り沙汰されるほど上昇する一方、日本の物価は低迷し、大きな差が開いている【図表2】。

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【図表2】日米欧の消費者物価指数(CPI)の推移。

出所:Bloomberg資料より筆者作成

このような物価の格差が調整されずに残るのは、(専門的な議論はここでは割愛するとして)日本企業による買収や出資など対外直接投資の増加や、輸出拠点としての日本経済の地盤沈下が背景にあると思われる。

為替相場の話が長くなったが、ともかく結論として言えるのは、対ドル相場はさほど動いていないように見えても、日本円の総合力の低下は著しく、それは取りも直さず日本の物価が諸外国に比べて突出して下がっているということだ。

コロナ禍で海外に出る機会が激減し、いますぐ実感するのは難しいが、ここまで述べてきたような状況のために、日本人が海外で消費・投資するハードルはかなり上がっている。円はいま圧倒的に弱く、安い。

もちろん、逆に外国人が日本で消費・投資するハードルは下がる一方で、日本人以外にとって「日本は安い」状況は極まりつつある。

最新のiPhone「平均月収の6割」が意味すること

最新のiPhone価格が「平均月収の6割」にもなる理由は、端的に言えば、低成長が続くなかで賃金がほとんど増えていないからだ。

賃金が増えなければ、消費に回せる予算が制約されるので、国内の物価は上がりにくくなる。消費者物価指数(CPI)のような指標も低迷を続ける。

そういった全般的な物価低迷の動きを織り込んだ結果、本稿で解説してきたように、日本円の実質的な価値は劣化している。

本来、こうした通貨価値の劣化は日本の輸出産業にとって追い風になるはずだ。しかし、有力企業の多くはすでに海外に生産移管しているので、通貨価値の劣化=円安の影響で(業績を大きく押し上げるほどに)輸出量が伸びることはもはやない。

結局、最後に残るのは、「弱い円」を介して海外の財・サービスを購入しなければならない日本人の不利な状況だけだ。

iPhoneが月収の大きな割合を占めるほど高いというのは、あくまで末端の一例にすぎない。今後は「弱い円」のおかげで、石油・天然ガスのような資源にも余計なコストが乗ってくる展開が予想される。

結果として購買力は低下し、そのような国にはさまざまなモノが入ってきにくくなる。

iPhone価格にとどまらず、輸入財がじわじわ高くなっていることが実感されたこの機会に、これまで注目されてこなかった実質実効為替レートのような重要指標の変化にも目を向けていただきたい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文:唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める

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