左から、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、ジョー・バイデン大統領、スペースXとテスラの創業者イーロン・マスク。
Michele Tantussi/Reuters ; Carlos Barria/Reuters; Lindsey Wasson/Reuters
- 民主党は、アメリカの大富豪が愛用する税金の抜け穴を、封鎖するかどうか決めかねている。
- 「ステップアップ」と呼ばれる抜け穴により、億万長者たちは投資利益を非課税で相続することができる。
- ステップアップの仕組みと、民主党内で廃止するかどうか意見が分かれている理由を説明しよう。
アメリカ民主党はインフラ投資法案可決を迫られている。しかし、党内ではまだ、その費用をどう捻出するかでもめている。
解決策の多くは単純なものだ。下院民主党とバイデン陣営はいずれも、富裕層と企業への増税を支持している。だが、ある税制の問題、ステップアップ方式(step-up basis)が悩みの種になっているのだ。
これは資産の売却益に関する事柄だ。アメリカ人が株式や債券などの資産を売却する際、利益に応じてキャピタル・ゲイン税を支払う。100ドル(約1万1000円)で購入した株式を250ドル(約2万7000円)で売却した場合、150ドル(約1万6000円)の利益に対して税金を払うことになる。
だが、ステップアップ方式という抜け穴を利用すれば、これを完全に回避することができる。投資家が死亡時に資産を相続する場合、相続人は税負担なしにこれを受け取ることになる。不動産の相続税を回避するのも簡単だ。所有者の死後に相続する場合には相続税が課税されるが、不動産の含み益には課税されることはない。
「価値のステップアップ」という抜け穴
「ステップアップ」という言葉は、資産を取得した時と、相続人に相続する時とでは、課税の元になる価値が変化するということを表している。
例えば、億万長者のジェリー(Jerry)が、25万ドル(約2700万円)で住宅を購入し、100万ドル(約1億1000万円)で売却する場合、彼は75万ドル(約8200万円)ドルの利益に対し税金を払うことになる。だが、もしジェリーが娘のエラ(Ella)に家を相続し、その時点で100万ドルと評価された場合、その価値は100万ドルに「ステップアップ」したと見なされる。エラは100万ドルまたはそれ以下で売却する場合、税金を払う必要がない。
ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)やイーロン・マスク(Elon Musk)のように給料よりもはるかに多くの金額を投資で稼いでいる億万長者にとって、この抜け穴は富を守るための完璧な方法だ。アメリカでは世代を超えた富が激しい格差社会を生み出しており、パンデミックでそれはさらに広がっている。カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の左翼系経済学者、ガブリエル・ズックマン(Gabriel Zucman)とエマニュエル・サエズ(Emmanuel Saez)の研究によると、2019年以降、アメリカで最も裕福な400人の富は、1.4兆ドル(約154兆円)も増えている。
左翼系アドボカシー団体、アメリカンズ・フォー・タックス・フェアネス(Americans for Tax Fairness)のエグゼクティブ・ディレクター、フランク・クレメンテ(Frank Clemente)は「こうした人々は、生涯非課税で富を蓄積することが多い」とInsiderに語った。ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領はこの抜け穴をふさぎ、億万長者に「相応の支払い」をさせると提案したが、民主党がそれに触れないかのように見えるのはなぜだろうか。
富裕層への「攻撃」について、民主党内で意見が分かれている
バイデン大統領は相続による利益が100万ドル以上の単身者と250万ドル(約2億7400万円)以上のカップルに課税したい考えだ。それに加え、キャピタル・ゲイン税率を引き上げることで、今後10年で3200億ドル(約35兆300億円)以上を集ることができるとホワイトハウスは述べている。
下院の歳入委員会(Ways and Means Committee)は9月15日に富裕層には増税となる税制改正案を可決した。これには所得税の最高税率は39.6%に、キャピタル・ゲイン税の最高税率は25%に引き上げることが盛り込まれている。
しかし、これらのフレームワークには、ステップアップ方式の廃止は含まれていない。
ニューヨーク大学(New York University)のタックス・ロー・センター(Tax Law Center)のエグゼクティブ・ディレクター、チャイ‐チン・ファン(Chye-Ching Huang)は「富裕層が資産による収入の大部分に対して税金を払わずに人生を送るのを止めることができていない。今後のプロセスで再検討されるべきだ」とツイートした。
上院は構想を公表していなが、抜け穴をなくす方向で検討している。「パンデミックの中でうまくやった億万長者たちは、税金を支払うべきだと強く感じている。看護師や消防士たちと同じように」とオレゴン州の上院議員で同院の財政委員会(Finance Committee)議長、ロン・ワイデン(Ron Wyden)はInsiderに語った。
ワイデンはおそらく、上院の穏健派、ジョー・マンチン(Joe Manchin)やキルステン・シネマ(Kyrsten Sinema)らと戦うことになるだろう。ちょうど、富裕層への増税に積極的ではない下院の穏健派が抜け穴を塞ぐことを渋ったのと同様に。穏健派の主張が通ると、裕福な人々は金銭的な影響をほとんど受けることなく、現金を資産として保有し続けることになりそうだ。
ステップアップ方式の廃止は「バイデン大統領の提案の中で唯一、蓄積された富を目標にするものだ」とクレメンテは述べた。
「しかし、本当に裕福な人は、売却することもないだろうから、いずれにしても税金を払うことはないだろう」
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)