「カンパーイ!」の音頭が恋しい……そんな人もいるのでは?
撮影:西山里緒
政府は今月末までが期限となっている19都道府県の緊急事態宣言と8県のまん延防止等重点措置について、9月30日で解除する方針を固めた。9月27日、NHKなどが報じた。
これに対し、東京都は緊急事態宣言が解除された場合、飲食店などに対して午後8時までは酒類の提供を認める方向で政府と最終調整に入った。
終わりの見えない、政府による飲食店への時短要請や酒類提供自粛要請。すでに2020年以降に新卒として入社した世代には「(職場の)飲み会そのものを知らない」若者も現れている。
上司にお酌などのマナーに、アルコールハラスメント(アルハラ)……。職場飲み会のネガティブな面が指摘され、「若者の飲み会離れ」が叫ばれたのも今は昔。コロナ禍を経て、逆に「職場飲み会してみたい」と語る若者たちに話を聞いた。
「職場飲み会」知らない新卒たち
「かつてあったであろう“飲み会”でなにが行われていたかを僕は知らないんです。飲んで騒ぐというよりも、職場の人たちと飲みの席でじっくり話してみたい」
そう話すのは、2021年の新卒として都内の大手ITベンチャーで働くタクトさん(仮名、23)だ。
西村康稔経済再生担当相が9月14日に公表した調査結果によると、8月以降に飲み会に行った人はわずか7%だという。若者どころか全年代にとって、飲み会があった日常は過去のものになりつつある。
タクトさんは、会社や部署レベルでの飲み会にはオンラインでしか参加したことがない。上司や先輩との交流はもっぱら少人数でのランチ会だが、それにも物足りなさを感じているという。
「ランチは、終わりがある程度決まっていますよね。1時間の昼休みでも往復の移動を考えたら50分くらいしかない。5人とかでいくと、ちゃんと話せないじゃないですか」
それでも自分はまだラッキーな方、とタクトさんはいう。
「大学時代の同期には『上司に会ったことがない』という人すらいます。自分はごくたまに少人数で飲みに行けた。機会があったら、楽しいなって純粋に思います」
新卒自ら話しかけ、情報収集
自ら積極的に動かないと、コミュニケーションを取る場がないという若手社員も(写真はイメージです)。
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タクトさんのような人は、少数派なのだろうか。
人事労務に関するシンクタンク、産労総合研究所が2021年に約300人を対象に実施したアンケートでは、職場の飲み会が好きと答えた人はわずか3割。特に20代の女性は「嫌い・どちらかといえば嫌い」を選んだ人が8割超と、40代女性と並び突出して高い。
また、キリンホールディングスが約1000名を対象に実施したアンケートでも、6割超が職場の飲み会を「コロナ収束後もないままでいい」と答える結果に。
やはり、職場の飲み会は人気がないようだ。そうすると、新卒は上司とのコミュニケーションをどうとっているのか ── 。
「部内の飲み会がないので、先輩とご飯をご一緒した時に、気になる部署やプロジェクトについて聞いていました」
そう話すのは、同じく2021年、IT企業に新卒で入社したカナさん(仮名、24)だ。カナさんは入社後、数カ月後のジョブローテーションを経て(それもオンラインだ)、配属先が決まった。
希望の配属先やプロジェクトについて知ったり、部内の雰囲気を知るために、自分からさまざまな部署の先輩や上司に積極的に話しかけ、情報収集をする。新卒にしては難易度が高そうだが「そういった機会を自ら作らないと、本当に、直接接する場がない」ともカナさんはいう。
幸い、上司もきちんと機会を作ってくれ、希望通りの部署に配属されたカナさん。自身も上司との飲み会に抵抗はなく「(若手が飲み会に参加したいかどうかは)環境も大きいのでは」と語る。
タクトさんも環境が大事、との意見にうなずく。
「周りの話を聞いても、アルコールを飲まないといけない、みたいな価値観は全くないですね。『俺の話を聞け』みたいなこともなくて、こちらの話に興味を持って聞いてくれる先輩が多いです」
変わる飲み会、ノンアルもOK
アルコールが飲めない人にもやさしい「飲み会」がアフターコロナの新常識。
撮影:西山里緒
「職場飲み会」もコロナ禍を経て、少しずつ変わりつつある。
日本トレンドリサーチとダイヤモンド・オンラインによる共同調査でも、部下が上司の誘いを断ることについて、約8割が「各自の判断で良い」と回答している。
そうした価値観の変化は、今の新卒世代にも影響を与えている。
「会社で上司に強制的に飲まされたり、新卒が気を遣ってお酌をしなきゃいけないというような前時代的なカルチャーは、同期の話を聞いても、今はほとんどなくなったんじゃないかなって思います」(カナさん)
ちなみに、意外なことに「“飲み会”でじっくり話を聞きたい」と言っていたカナさん、タクトさんともに、実はお酒が飲めない体質だ。
2人は純粋に「職場とは違うコミュニケーションの場」を求めている、というようにも見える。
カナさんは、コロナ禍で酒席が減ったことについても、ポジティブに捉えていた。
「ドリンク単品で自分は頼みたいのに、飲み放題の料金を払わなきゃいけなかったことも。私は飲めないので、お金がもったいないと感じることはありました。そういったモヤモヤは減りましたね」
タクトさんは、アルコールが苦手な人でも楽しめる「ノンアルドリンク」が酒席で広がるといい、と考えている。
「高級店に行くと違いますけど、僕らがいくような大衆居酒屋だと、アサヒのドライゼロかサントリーのオールフリー、もしくは種類の少ないソフトドリンクしか置いていないんです。ミドルドリンクと呼ばれる、食中においしく飲めるノンアルが増えてほしい」
東京都が緊急事態宣言解除後、飲食店での酒類の提供を“容認”することに対し、SNSでは「酒類の提供も大切だが、まずは時短要請解除を」との声も上がっている。「飲み会」の肝はもはや「アルコール」ではなくなっているとも考えられる。
ノンアルでも断ってもOK、そして飲みの席はじっくり話す、傾聴の場に ── 。
コロナ禍が終わった後には、かつての「飲み会」を知らない世代が、新しい「飲みニケーション」の形を生んでいくのかもしれない。
(文・西山里緒)