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Toward 2050 変革のカタリストたちの挑戦

お金の流れを変えることが、社会を変えていく──今注目の「サステナブルファイナンス」を解説

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デロイト トーマツ グループの対木さおり氏(左)と鶴渕広美氏(右)。

世界が持続可能な社会の実現へと大きく舵を切った今、企業の気候変動対策は急務だ。

金融庁は2021年9月に、上場企業を主な対象として「気候変動リスクなどに関する情報開示の強化」に向けた検討を開始。投資家や金融機関は「単に利益が出るかどうか」だけではなく、「サステナブルな社会に貢献するかどうか」で企業への投資や融資を判断する流れが強まっていくだろう。

そうした状況を受けて注目度が高まっているのが、『サステナブルファイナンス──持続可能な社会を実現するための金融』だ。

サステナブルファイナンス市場の最新動向はどうなっているのか、デロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)のスペシャリスト2人に聞いた。

「サステナブルファイナンス」が注目されている背景とは

今、金融の世界で注目を集めている『サステナブルファイナンス』。一言でいえば持続可能な社会を実現するための金融のことだが、具体的には何を指すのだろうか。有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)で、国際規制や政策の分析、金融機関への情報提供などを通してサステナブルファイナンスと関わってきた対木 さおり氏はこう話す。

「サステナブルファイナンスは、さまざまな定義があります。日本でも急速に広まったESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンス)に関わる投資はもちろんのこと、グリーンボンド※などの債券やサステナブルなビジネスに対する融資(ローン)、その他にも持続可能な社会づくりを目指す幅広いお金の流れを包括する言葉です」(対木氏)

※企業や地方自治体が、環境分野への取り組みに特化した資金を調達するために発行する債券のこと。

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対木さおり(ついき・さおり)氏/有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター シニアマネジャー。財務省入省後、大臣官房にて経済・政策分析業務、関東信越国税局(国税調査官)、理財局総務課・国債課にて、国有財産・債務管理や国債発行政策策定に従事。米国コロンビア大学にて修士号(MPA)取得後、大手シンクタンクにて、政策分析・経済予測やコンサルティング業務を担当。

同じくトーマツで、気候変動リスクの開示やESGの動きに対して、金融機関の体制整備や実務支援を行ってきた鶴渕 広美氏は、歴史的経緯を次のように語る。

「サステナブルファイナンスは、パリ協定締結やGPIF※の責任投資原則(PRI)署名などを契機に、2015年ごろから拡大してきました。中心的に動いたのはヨーロッパの機関投資家です。ヨーロッパでは、環境をはじめ移民や差別の問題に対して、ミレニアル世代を中心に社会課題を解決しようという機運が高まっていました。そうした背景があり、ESGに取り組む事業会社の株式に機関投資家が投資する動きが広がってきたのです。

このような株式投資は、資金を必要とする企業に直接的に資金を供給するいわゆる『直接金融』がメインでした。

現在は、保険や銀行といった金融機関にもこうした動きが波及し、『間接金融』である金融機関の融資でもサステナビリティを考えることで、より一層企業の行動を変容していこうという流れが加速しています」(鶴渕氏)

※年金積立金管理運用独立行政法人。世界一の年金資産残高を有する。

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鶴渕広美(つるぶち・ひろみ)氏/有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 シニアマネジャー。大手信託銀行にて投資顧問・資産運用に従事。財団法人年金総合研究センター(現・公益財団法人年金シニアプラン研究機構)客員研究員。トーマツ入社後は、年金ガバナンスコンサルティング業務の他、ESG投融資に関する調査業務、ESG投融資態勢に係る助言業務などに携わっている。

先行する欧州とやや出遅れた日本、その理由とは?

世界地図の写真。

Shutterstock / Tudoran Andrei

サステナブルファイナンスといっても、もちろん事業会社がサステナビリティを掲げればすぐに資金調達ができるわけではない。投資家や金融機関に向けて情報を開示して、本当に持続可能な社会に貢献する企業や事業なのかを示し、認めてもらう必要がある。

こうしたルール作りに対して先頭を走っているのがヨーロッパだ。

開示のルールや基準はさまざまなものがあり、代表的なものとして、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)や、企業の経済活動が持続可能であるかを判定してグリーンな投資を促すEU独自の仕組み、EUタクソノミーなどがあるという。

「TCFD並みの開示水準は、まずは日本でも一定ステータス以上の企業、いわゆるプライム企業に要件として求められることになります。しかし、すでにヨーロッパではTCFDに基づく内容を上回る非財務情報の開示が検討されています。

開示を強化するのは、サステナブルについてのより一貫性のある情報やCO2排出量などのデータを広範囲かつ長期で収集していきたいためです。科学的データを収集できれば、現状の把握や将来に向けた分析が容易になり、投資家や金融機関も投資や融資先を選ぶ際の判断がしやすくなるでしょう」(対木氏)

開示が必要なのは事業会社だけではない。世界では、金融機関自身もサステナブルファイナンスについて開示を求められている。そして金融機関向けのルール策定も、ヨーロッパが先を行っているという。

「例えばヨーロッパでは、金融機関に自らが行っている融資のうち何パーセントがEUタクソノミーの基準に合致しているのかの開示を求める案が議論されています。

政治的事情で出遅れていたアメリカも、金融機関が多く集まるニューヨーク州では、ヨーロッパの金融機関向けガイドラインに類似した内容のレターを出し、金融機関の対応を求めています。2021年に入ってからは、アジア諸国でも金融機関向けガイドラインや方針が次々に検討・発表されています。

それに対して日本は、2020年12月から有識者会議で検討が始まったところ。欧米ではサステナビリティ全般を担う特命担当役員であるChief Sustainability Officer(CSuO)を置く企業が増えていますが、日本はサステナビリティに精通した人材を育て、実務に落とし込んでいる段階です。他国の動きが速いからこそ日本はやや出遅れているものの、方向性は間違っていない。長い目で事業会社とも金融機関とも伴走していきます」(対木氏)

金融機関自身の変革が今、求められている

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開示ルールが整ったとしても、金融機関の前に立ちふさがる壁は高い。現時点で、サステナビリティについて十分に開示している融資先は決して多くはない。金融機関が投資や融資を通じて自らサステナビリティを実現するには、開示に積極的ではない企業からもデータを集めて精査しなければならない。鶴渕氏は、次のように指摘する。

「銀行などの金融機関は、信用リスクをスコアリングして評価するのは得意です。ただ、融資先のサステナビリティを評価するには、担保の価値だけではなく、事業の長期での成長性や気候変動のリスク、例えば炭素税が導入されたときの影響なども含めて評価する必要があります。

そのため、企業に開示を促す行動も求められます。また、長期の視点と短期の視点でも評価が異なることもあり、そこが実務上非常に難しいところです。

デロイト トーマツでは、このような見えにくい指標を可視化するデジタルツールを開発・活用しながらサポートしています」(鶴渕氏)

同社は、これまでもパンデミックなど新しいリスクに関して、統計予測モデルをもとにシミュレーションするサービスを提供してきた。2021年8月には、世界的データ分析企業のSASと共同で開発した新しい評価ツールを発表。例えば、このツールに、水害が発生したときの物理的リスクを評価するアルゴリズム(計算方法)を組み込めば、マンション選びのときにハザードマップを参考にするように、融資先が水害のリスクをどの程度抱えているのかがわかるという。

将来的に、銀行はリスクに対する自社の貸出先への影響を評価し、その結果を内外に開示したうえで、リスクの低減などに長期的な視野で取り組むことが求められていく。気候変動に伴う水災の頻発や疫病の発生など経験したことがない事象が起こっているなか、リスク管理の観点からも今後の活用が期待されている。

また、対木氏は次のように加える。

「実はESGの観点で言うと、金融機関より事業会社の方が取り組みの先を行っているのが現状です。

『金融機関が事業会社の今後の取り組みを正しく評価できているのか?』がまさに直近の課題であり、サステナブル経営をしていくにあたり、評価する・投資する側の金融機関自身の変革も急務です。

監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務・法務などといったデロイト トーマツが有する各専門的な知見を駆使して全方位的に支援し、持続可能な社会を実現するための金融を推進しています」(対木氏)

持続可能な社会と金融機関の架け橋に

人々が街を歩くイメージ写真。

Shutterstock / BABAROGA

このように、長年培ってきた総合プロフェッショナルファームとしてのノウハウで金融機関や事業会社のサステナブルファイナンスを支援しているデロイト トーマツだが、最後に今後の展望を聞いた。

「私は行政に近いところで情報収集していますが、サステナブルファイナンスに関する情報は日々更新されていて、現状に対応している間にもう次の動きが起きているような状況です。

デロイト トーマツはグローバルなファームで、日本側で足りない情報があれば先行している海外のメンバーから話を聞くことができます。これからもネットワークを活かして、お客様に最新かつ有益な情報をお届けしたいですね」(対木氏)


「ありがたいことに、私はインベストメントチェーン(投資の連鎖)を俯瞰して見られる立場で仕事をしています。

今後、企業自身のサステナビリティを考えるとき、今の事業だけでは成長が難しいかもしれない。そうなったときに、いつ・どの事業をトランスフォーメーションしていけば良いのか、例えば、気候変動への対策として、経済や社会が行動を変化させることに伴う、いわゆる『移行リスク』への対応やそのタイミングが企業内で課題となっています。

私たちはそこに、資本効率に配慮しながら、サステナビリティの要素を組み込んだサステナブル経営にむけてガバナンスの整備や開示の検討をサポートしています。

そのような事業会社などへのサポートが、金融機関や投資家にプラスの効果をもたらし、金融機関や投資家へのサポートが年金基金などのアセットオーナーへの貢献になっていく。そしてそれが受益者や消費者等の利益になり、さらに一周回って事業会社へと還元されていく……。

そうやってサステナブルファイナンスのサイクルを回すお手伝いすることが、持続可能な社会につながると信じています」(鶴渕氏)

鶴渕氏が冒頭で言っていたように、サステナブルファイナンスがヨーロッパで広がった背景には、ミレニアル世代・Z世代の若者による「社会に対する違和感」の声が投資家に波及し、経済を動かしていったことにある。「一人ひとりが声を上げ、一歩を踏み出すこと」がサステナブルな未来の実現には必要だ。それを金融面から後押しするデロイト トーマツの挑戦は続いている。


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チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)の未来を考察したオリジナルレポートはこちら

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