無印とユニクロとダイソーと足して3で割ったと言われているが、店舗数は「無印とユニクロ」を足した数を上回ったメイソウ。
Reuters
「ついにこんな時代が来たのか」
大阪に今月オープンした「クマの手カフェ」がSNSでバズり出すと、中国通の日本人が複雑な心境を明かした。
「メンタルが繊細な人」が働きやすいようスタッフが非対面で小さな穴から商品を受け渡す。コンセプトは素晴らしいが、運営モデル、店舗の外観、さらにはSNS映えを狙って「モフモフのクマの手」を使うところまで、上海に昨年12月にオープンした「熊爪珈琲」と同じだったのだ。
全てが「借り物」でも問題になりにくい海外ブランドの模倣
左が熊爪珈琲(同社公式アカウント)、右がクマの手珈琲(プレスリリース)
筆者作成
上海の熊爪珈琲は、バリスタやスタッフの半分が顔に大きな傷があったり、聴覚、視力に障がいがあるため、非対面のテイクアウトに特化している。障がい者を積極雇用する姿勢が人民日報など国営メディアに賞賛され、オープン当初は警察が出動するほどのブームが起きた。熊爪珈琲は珈琲の味やバリスタ育成に力を入れ(でなければ一過性のブームで終わるだろう)、中国各地の障がい者団体と連携しながら徐々に店舗を増やしている。
大阪の「クマの手カフェ」はオープン前にメディアやインフルエンサー向けのイベントを実施し、テレビや新聞で取り上げられ、SNSでも「話題の店」として拡散した。すると今度は、
「上海のお店がもう日本進出したの? 」
「パクりだよね」
といった声が出始めた。
クマの手カフェに取材したところ、運営者は「熊爪珈琲を参考にはしたが、コンセプトが違う」「店の形状やスタイルが酷似しているのは、熊爪珈琲をリスペクトしたことでやや引っ張られすぎた」「上海の熊爪珈琲の顧客に、今回の大阪の出店がそこまで影響を及ぼすとは考えにくい」と回答した。つまり、上海の店とは無関係で、連絡を取ることもなく、リスペクトのあまりそっくりな店を作ってしまったということだった。
中国メディア「中国新聞網」に昨年12月に掲載された上海の熊爪珈琲の画像(左)と、クマの手カフェのプレスリリース(右)
筆者作成
法律や権利関係に抵触していなければ、消費者と本家の熊爪珈琲が判断することかな……と思ったが、気になって「クマの手カフェ」のプレスリリースを調べたら、メディア向けに提供している宣材写真は、新華社通信など中国メディアに掲載された熊爪珈琲の写真を流用していた。
「繊細さんが働きやすい店」の運営者は、鋼のメンタルを持つ確信犯だったわけだ。
バカにされながらも成長、NY上場
メイソウがオープンして数年は、もはや「何」かが分からない商品説明だらけだった。
筆者、筆者友人撮影
外国企業が模倣したいと思う小売・飲食店が中国で出現し、実際に模倣する事例が出てきたことは、ある意味感慨深い。これまで、ヒット商品や店舗を真似する、乗っかるのは常に中国側であったからだ。
一方で、「パクりブランド」としてバカにされながらも進化を遂げ、大企業に成長している中国企業もある。その代表が雑貨チェーンの「名創優品(メイソウ、MINSO)」だ。
社名にユニクロの中国語「優衣庫」、ダイソーの中国語「大創」、そして無印良品から1文字ずつ拝借した同社は、ユニクロとダイソーと無印をまとめてパクっただけでなく、2013年の創業時から数年にわたって「日本企業」を偽装していた。
正真正銘の中国企業なのだが公式サイトでは本社を東京・銀座と表示し、「2013年に中国進出」と記載。店舗の商品にはグーグル翻訳でもこうはならないだろうという奇妙な日本語がつけられ、「偽日系ブランド」としてあっという間に有名になった。
日本人の多くが知っているのはここまでだろう。だが、メイソウは2018年ごろからはパクりイメージの払拭に着手し、中国IT大手テンセントから出資も得た。ロゴは相変わらずユニクロ風味なので、海外で店舗を見かけた日本人は衝撃を受けるようだが、2020年10月にはニューヨーク証券取引所に上場し、まともな大企業に変貌している。
2021年6月末時点で90カ国で4700店舗以上を運営し、11月にはコロナ禍でテナント料が下がったのに乗じて、ニューヨークで旗艦店をオープンすると報じられた。筆者は以前、メイソウを「無印とユニクロとダイソーを足して3で割った偽日本ブランド」と揶揄していたが、店舗数だけ見ると「無印とユニクロを足した」数を上回っているのだ。
パクり脱却急ぎサンリオ、ディズニーとコラボ
今のメイソウは「日本風味」はかなり薄れている。北京店舗で2021年9月撮影
Reuters
ただし、NY上場後のメイソウは必ずしも順調には行っていない。2021年6月期の売上高は前年比1%増、90億7200万元(約1540億円)にとどまり、赤字は前期の2億6000万元(約40億円)から14億3000万元(約240億円)に拡大した。直近の株価は13ドル台と発行価格の20ドルを大きく割り込み、今年2月の半分を下回る。
2021年6月末時点でメイソウの店舗数は4749店(中国国内2939店、海外1810店)。国内事業の売上高は同20.6%増の72億9000万元(約1200億円)だったのに対し、国際事業は同39.3%減の17億8040万元(約300億円)だった。
創業者は業績不振の理由としてコロナ禍で海外事業が打撃を受けていることを挙げているが、コロナ禍以外にも、メイソウは大きな課題に直面している。
メイソウは「パクり」イメージから脱却するため、著名IP(キャラクターなどの知的財産)との「コラボ」に力を入れている。
2020年はディズニーやサンリオなど17IPと提携し、ライセンス料1億900万元(約18億円)を支出した。2021年6月期の提携先は80に増え、ライセンス料も倍以上になる見通しだ。
「低価格でそこそこのデザイン」を売りにするメイソウにとって、著名IPとのコラボは商品の開発コストを抑える面でも、グローバル展開でもメリットが大きい。特にハローキティやマイメロディを擁するサンリオとのコラボ商品は、中国だけでなく東南アジアで女性消費者の人気を集めている。
だが、消費者はコラボ先のキャラのグッズを買いに来ているのであり、メイソウのファンになるわけではない。また、多数の著名IPとのコラボは、メイソウというブランドの統一感とは逆行する。目先の利益にはなるが、長期的視点で見ると諸刃の剣と言える。
メイソウはフランチャイズモデルによって短期間で店舗を増やしたが、オリジナル性が欠如した成長はそう長くは続かないという疑念が、今の株価にも反映されているわけだ。
成長のため二番煎じを繰り返す短期決戦
再び高成長軌道に乗るためにメイソウは最近、中国でブームになっている「ブラインドボックス」市場に参入した。日本の福袋とガチャガチャに似たブラインドボックスは、Z世代の女性に大人気で、市場が急拡大している。2020年12月には火付け役のPOP MARTが香港証券取引所に上場した。
メイソウはPOP MART上場から1週間後、広州市に類似形態の「TOPTOY」をオープンした。現在までに中国で50店舗を出店し、こちらでも著名IPとのコラボ商品の投入によって市場を取ろうとしている。
メイソウの創業者の葉国富氏はもともと10元均一ショップで起業し、同形態が下火になるとメイソウに業態転換した。
その時々の流行を捉え一気に規模を拡大する。既に他の企業が市場を広げているから、リスクも抑えられる。今回のブラインドボックス市場への参入も、中国では「またパクるのか」と批判されているが、当人は「パクりで短期決戦」「勝てば官軍」と割り切っている節がある。
パクるのは簡単だが、ブランド力の問題はついて回り、長期的に成長するためには、結局卓越した経営手腕が必要になる。大阪のクマの手カフェも、本当の評価は1年後といったところだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。