アメリカのフードデリバリー市場でウーバーイーツ(UberEats)を上回る圧倒的なシェアを誇るドアダッシュ(DoorDash)。時価総額で両社の立場が入れ替わり、関係者に衝撃が走っている。
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ウーバー(Uber)は近ごろ、時価総額でドアダッシュ(DoorDash)に追い抜かれた。衝撃的なこの現実を前に、ウーバー従業員の間で動揺が広がっている。
ウーバーの内情に詳しい関係者によれば、近々開催される社員総会は、時価総額の逆転に至った経緯や理由、今後の対応について経営幹部に問う場になりそうだ。
9月の第3週、ドアダッシュの終値はウーバーを上回り、時価総額は752億ドル(約8兆2700億円)に達した。ウーバーの時価総額はわずかにそれを下回り749億ドル(約8兆2400億円)だった。
ウーバー(Uber)とドアダッシュ(DoorDash)の時価総額の推移。下落傾向がウーバー、上昇基調がドアダッシュ。
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新型コロナの世界的大流行が長期化するなかで、主力事業である配車サービスのV字回復が本当に実現可能なのか、投資家は疑念を抱きつつ展開を見定めようとしており、ウーバーの株価はここしばらく低迷が続いている。
一方、ドアダッシュはアメリカ市場における力強いシェア、コンビニ起点の食料品宅配など市場拡大の可能性に期待する強気のアナリストたちに支えられ、株価は過去6カ月間でおよそ70%上昇。同期間のウーバー株価は30%近く下落した。
ウーバーの社員総会は、従業員があらかじめ質問を提出し、集まった質問のなかから経営陣がどれに答えるべきかを事前投票で決めることになっている。
9月21日(米国時間)に予定される総会で質問リストのトップに選ばれたのは、ドアダッシュとウーバーの時価総額の問題だ。
企業の多くは株式市場の動向に目をくれることなく、ひたすらビジネスに全力投球するものだが、シリコンバレーではそういうわけにもいかない。
テック企業の従業員は株式で報酬を得るケースも多いため、株価低迷は士気を低下させる。直接の競合企業の業績が向上すれば、人材の確保も難しくなる。
ウーバーの株価は2019年の新規株式公開(IPO)時の45ドルをピークに下落を続けている。一方、ドアダッシュは2020年12月の上場時に102ドル、現在は200ドルを大きく上回る価格で取り引きされている。
こうした株価の動向を見て経営陣に対する批判の声をあげているのはウーバーの従業員だけではない。
ダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)率いるウーバーの批判をくり返してきた元最高事業責任者(CBO)のエミール・マイケルは9月16日、ドアダッシュの株価がウーバーのそれを上回る事態は「悪夢」だとツイートした。
ウーバーは2018年の時点で、規模にしてドアダッシュの4倍に相当するフードデリバリー事業を展開していたにもかかわらず、それだけの大差を追いつかれた現経営陣には大きな責任がある、というのがマイケルの投稿の主旨だ。
コスロシャヒCEOは社員総会に参加して従業員向けに説明を行うとみられる。さらに、同日予定のゴールドマン・サックス主催のテックカンファレンスでも講演する予定。
収益力の格差が株価に影響
ウーバーは配車サービス事業とデリバリー事業という2つの収益源を持つにもかかわらず、デリバリー一本足打法のドアダッシュに時価総額で逆転された。
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外形的な事実だけ考えれば、配車サービスとフードデリバリーの両方を事業として展開するウーバーが、フードデリバリーのみ提供するドアダッシュの時価総額を下回るというのは、直感的な理解に反する。
ウーバーのフードデリバリーはすでに世界各国に広がっており、インドのグルメサイト大手ゾマト(Zomato)のような国際企業にも出資している。
また、ウーバーのデリバリー部門の直近四半期(2021年4〜6月)売上高は19億ドル(約2000億円)で、ドアダッシュの12億ドル(約1300億円)を上回っている。ウーバーにはそれに加えて、モビリティ部門の売上高16億ドル(約1700億円)がある。
にもかかわらずウーバーの株価が低迷を続ける理由のひとつは、ドアダッシュに比べて圧倒的に低い収益性だ。
直近四半期、ドアダッシュの調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は1億1300万ドル(約120億円)だった。
一方、ウーバーのデリバリー部門は調整後EBITDAで1億6100万ドル(約180億円)の損失を出している(同社は年末までに黒字に転じる見通しと発表)。
ウーバーとドアダッシュのコントラストは、直接競合するアメリカ市場で最もはっきりして見える。当初リードする立場だったウーバーが、いまやドアダッシュに大きく引き離されている。
ブルームバーグ傘下のデータ分析プラットフォーム「セカンドメジャー(Second Measure)」によれば、アメリカのフードデリバリー市場における2021年7月時点のシェアは、ドアダッシュが57%、ウーバーが26%。
ウーバーの現役社員や元社員に取材すると、ドアダッシュは2018年以降、レストランとの契約獲得により積極的な戦略を展開し、そこでウーバーイーツを追い抜き、差を広げたという。
ウーバーは直近四半期でフードデリバリー事業が売上高の半分にも達しており、配車サービス事業で失われた売上高をどう埋め合わせるのか、明確な戦略を示すよう求める経営陣へのプレッシャーはこれからますます高まっていくだろう。
そして、ウーバーの従業員たちが(ドアダッシュとの時価総額逆転への対応として)すぐにでも答えを出すよう求めているのも、まさにその点ということになる。
(翻訳・編集:川村力)