電気自動車(EV)メーカーの多くが航続距離の最大化を目指しているが、消費者にとって意味のある競争だろうか?
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電気自動車(EV)スタートアップのなかでも有望株とされる米ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)が注目すべきマイルストーンを達成した。
アメリカ環境保護庁によれば、同社が近日販売予定の高級セダン『エア ドリームエディション(Air Dream Edition)』が、フル充電状態から520マイル(約840キロ)の連続走行を記録した。
従来の航続距離の最長記録は、テスラ(Tesla)『モデルS ロングレンジ』の415マイル(約670キロ)だった。
さて、消費者にとって重要なのは、達成されたこのマイルストーンは十分な距離か、それとも必要ない過剰な性能なのかという問題だ。
電気自動車の購入を考える消費者の多くは、電源切れの不安なしに十分な距離を走れるかどうかを一番気にする。だからこそ、急成長を続ける市場でトップに立つプレーヤーを決めるファクターのひとつは、航続距離だと言って差し支えない。
実際、レガシー自動車メーカーから設立間もないEVスタートアップまで、どこもかしこも航続距離の最大化に何十億ドルもの研究開発費を投じている。
ドライバーの不安を解消し、消費者にEVの充電はガソリン車の給油と大差ないと納得してもらうには、結局のところ航続距離を伸ばすしかない。ただ、そんなに長い距離を充電なしで走るニーズは存在しないのが現実では……というのが大方の専門家の見方だ。
米消費者情報専門誌コンシューマー・レポートのシニアポリシーアナリスト(交通・エネルギー担当)クリス・ハートはこう指摘する。
「(アメリカの)消費者の走行距離は250〜300マイル(約400〜480キロ)といったところです。そのくらいの航続距離があれば、日々の生活には何の支障もありません。
長期的に考えて、400マイル、500マイルという航続距離が必要になるのか、現時点ではわかりません。今後さまざまなオプションが登場してくるでしょうから、消費者は追加投資してまで航続距離を伸ばす価値があるか、個別に判断していくことになると思います」
新型セダン『エア ドリームエディション』の販売価格は16万9000ドル(約1860万円)。2021年末の生産開始が予定されている。
「航続距離2000キロの燃料タンクを積めばいい」とイーロン・マスク
テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は当初、新型ロードスター(遅延して2023年に出荷開始予定)の航続距離を600マイル(約965キロ)として開発を進めていたが、2021年2月に著名ポッドキャスト司会者ジョー・ローガンの番組に出演した際、そこまで必要ないかもしれないと口にしている。
「航続距離600マイルというのは、使いもしない電池パックを始終載せて走るのと変わりません。
航続距離がそんなに大事なら、2000マイル(約3220キロ)分の燃料タンクを積んで、四半期あるいは半年ごとの給油で済むようにしたらいいんです。でも、そんな人はいません。そんなにたくさんの燃料を積んで走るのは割に合わないと、誰もが基本的にはわかっているのです」
一方、テスラやルーシッド・モーターズと競合する有望EVスタートアップとされるリビアン(Rivian)は近ごろ、ピックアップトラック『R1T』で314マイル、多目的スポーツ車(SUV)「R1S」で316マイル(いずれも500キロ強)を、公式航続距離として環境保護庁から認定されている。
クリーンエネルギーの導入促進を支援する非営利団体センター・オブ・サステナブル・エナジー(Center for Sustainable Energy)のジョン・ガートナーは、400マイル以上の航続距離について次のように切り捨てる。
「ほとんどのドライバーは400マイル以上の航続距離を必要としていません。もっと遠くまで行ける、航続距離500マイルを実現して、競合他社に自分たちの優れた技術とその可能性を誇示したい……そんな上昇志向の類いでは。
ドライバーのなかには差別化のポイントと考える人もいるのでしょうが、本当に運転生活に不可欠の性能なのかどうか。大多数の人にとってはそうではないと思います」
(翻訳・編集:川村力)