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プログラミング研修「みんなのコード」に全国の教育関係者が集う理由。IT企業と学校現場の「触媒」に

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NPO法人「みんなのコード」代表理事の利根川裕太氏。

提供:みんなのコード

「世界を変えてやろう! というほど高い意識を持って始めたわけではないのですが、これほどの勢いで全国に広がるとは。自分でも正直驚いています」

そう話すのは、NPO法人「みんなのコード」代表理事の利根川裕太氏だ。

「すべての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」をミッションに掲げ、小中高校の教員を対象にプログラミング教育研修を全国展開している。

グーグルやセールスフォース・ドットコム、SAP、日本財団など名だたる企業・団体が相次いで支援。2021年春にはミクシィ取締役ファウンダーの笠原健治氏が設立した 「みてね基金」から約6600万円の資金提供を受けた。

学校でのプログラミング教育の必修化を背景に、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げている。

ラクスルを共同創業後、教育分野に転身

代表理事としてみんなのコードを率いる利根川氏は、実は自身がエンジニアであり、ネット印刷や物流サービスで知られるラクスルの共同創業者でもある。

大学卒業後、不動産デベロッパー大手の森ビルに就職。同社では、経理や営業などプログラミングとは縁遠い業務を担当していた。

ところが、ラクスル最高経営責任者(CEO)の松本恭攝氏との出会いが人生を変えた。すぐに意気投合した2人は、ラクスル立ち上げに向けて走り出す。

仕事が終わると松本氏に合流する日々が始まって、2〜3カ月経ったころのことだった。「どうやら自分たちがやろうとしていることには、プログラミングやソフトエンジニアリングができたほうがいいらしいと気付き」(利根川氏)、エンジニアとしての一歩を踏み出した。

森ビルを退職し、ラクスル第1号の社員となった利根川氏。会社の成長に合わせて社員が増えていくうち、経理やカスタマーサポート、営業などエンジニア以外の社員との間に存在する、テクノロジーに関する知識の差が気になり始めたという。

テクノロジーの基礎が分かれば、社内のコミュニケーションが深まり仕事の質も上がるはず。そう考えた利根川氏は、社内講習会を計画。

初心者にも分かりやすく教える方法はないかと調べるうちに発見したのが、アメリカのNPO法人「Code.org(コード・ドット・オーグ)」が開発した子ども向けプログラミング教育ツール「Hour of Code(アワー・オブ・コード)」だった。

Hour of Codeを取り入れた社内講習会は大好評。手応えを感じた利根川氏はさらに、子ども向けのワークショップも開催した。

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2014年に利根川氏が初めて開催した「Hour of Code(アワー・オブ・コード)」のイベント。

提供:みんなのコード

格差が広がるばかりの世の中を変えたい

ワークショップで夢中になる子どもたちの姿を見て、利根川氏はプログラミング教育の大切さを意識するようになっていった。

Hour of Codeはアメリカでどのくらい普及しているのか調べてみると、オバマ大統領(当時)がコンピュータサイエンス教育の重要性を訴え、マイクロソフトやフェイスブック、アップル、グーグルなどの巨大IT企業が資金を投じてその普及を後押ししていた。

「日本でもコンピュータサイエンス教育が盛り上がれば、日本発のテックベンチャーがさらに増えて、きっと面白くなる。そのために自分も何かしたい。そう思ったのが始まりです」(利根川氏)

まずはHour of Codeを日本で普及させようと動き出し、2015年7月、みんなのコードを設立。最初の半年はラクスルの仕事とかけ持ちをしながら、子ども向けワークショップを開催していった。

そんな毎日のなかで、利根川氏はあることに気付いた。

「ワークショップに参加しているのは、比較的意識の高い家庭の子どもばかりだったのです」(利根川氏)

テクノロジーは基本的に、豊かな人がより豊かになる性質を持っている。それは動かしようのない事実だが、だからと言って放置しておけば、意識の高い家庭の子とそうでない子の教育格差が広がってしまう。そんな流れを変えたいという思いが芽生えた。

「家庭環境、経済環境にかかわらず、テクノロジー教育をベーシックなものとして受けられる世のなかにしなければならない。そのためには学校の外でイベントを開催するだけでなく、学校現場に広げていく活動が必要だと考えるようになりました」(利根川氏)

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2017年12月の「コンピュータサイエンス教育週間」に開催したHour of Codeイベント

提供:みんなのコード

周りを巻き込む柔軟な発想と行動力

「利根川は、既成概念や業界ルールにとらわれない柔軟な発想の持ち主。しかも、実行に移す行動力がある」

そう話すのは、立ち上げ初期から広報を担当してきた辻田健作氏だ。利根川氏との出会いは2016年。みんなのコードが主催するイベントの場だった。

予想を超える数のメディアが取材に来ることが分かり、ひとりでは手が回らないと考えた利根川氏は、メディア対応を手伝ってもらうため、顔見知りのIT企業の広報担当者に声をかけた。

呼びかけに応じた辻田氏は、利根川氏の活動に共鳴。その出会いがきっかけとなり、広報担当としてみんなのコードに伴走するようになったという。

辻田氏だけではない。利根川氏の周りには賛同者の輪が広がっていった。ラクスルの元同僚をはじめ、プロボノ的に集まった仲間と毎週ミーティングを開き、アイデアを次々と実行。そのなかに、顧客関係管理(CRM)ソフトウェア大手セールスフォース・ドットコムの社員もいた。

セールスフォースがみんなのコードの本格的な支援に乗り出したのは2020年。高校でのコンピュータサイエンス教育の普及を目指すプロジェクトに、10万ドル(約1100万円)超の助成を行ったのが始まりだ。

テクノロジーを活かしてより良い社会を築くためには、「テクノロジーそのものだけでなく、それを生み出す人材を育成する教育現場との橋渡しが不可欠」と話す同社の専務執行役員・伊藤孝氏は、みんなのコードをこう評価する。

「すべての子どもたちに情報教育を受ける機会を提供するというみんなのコードのミッションは、当社が大切にするコアバリューのひとつ、『平等(Equality)』の考え方にも合致します。

ひとりでも多くの子どもたちに質の高い情報教育を提供できるよう、みんなのコードの活動が公教育の現場にさらに広がっていくことを期待しています」(伊藤氏)

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学校外でも、経済環境の格差にかかわらず子どもたちの可能性を広げる拠点を開設。写真は「コンピュータクラブハウス加賀」(石川県加賀市)。

提供:みんなのコード

「一本釣り」でプロ集団を結成

みんなのコードにとって転機となったのは、立ち上げ直後に決定した、2020年度からの小学校でのプログラミング教育必修化だった。小学校の数は公立だけでも全国約2万校、そこで指導にあたる教員たちの数は40万人以上にのぼる。

教員の大多数はプログラミング未経験者。つまり、実際にプログラミングをやったことのない教員が子どもに教えなければならない。学校現場の混乱、教員たちの苦労は火を見るより明らかだった。

利根川は早くも2016年、教員に対する研修に力を入れることを決意。そのための組織づくりも進めた。

これぞと思う人に声をかける「一本釣り」(利根川氏)で、経験豊富な現役教員や元校長を採用。ファンドレイジングの担当者も加わり、イベントや活動に対する資金調達に力を入れた。

みんなのコードならではのユニークな特徴は、授業で使える教材「プログル」を開発し、それと組み合わせた研修を行っていることだ。

授業や校務に追われる教員たちでもそのまま授業にとり入れることができ、テクノロジーに対する基本的な理解を深められる。しかも教員自身が面白がりながら子どもたちに教えることができる。

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教員向け研修のひとコマ。

提供:みんなのコード

2018年度からスタートした小学校教員向けの「プログラミング教育指導教員養成塾」は一気に広がり、2020年度までの3年間に42都道府県50都市、2100人以上の教員が参加。2021年度に必修化した中学校、2022年度に必修化する高校の教員研修も着々と進んでいる。

研修に参加した教員の授業を実際に受けた子どもの数は、正確には把握できないものの、プログルのアクセス数で見ると累計170万人超(2021年9月現在)と、大きな広がりを見せていることがわかる。

利根川氏に「一本釣り」されたひとり、元教員の竹谷正明氏はこう話す。

「講師として研修の場に立って実感したのは、私のような教員経験者が担当することで先生方の関心が格段に高まるということ。自分自身の見える世界も広がりました。行政でも企業でもない立場で支援できることの強みを感じています」(竹谷氏)

公立小学校での教員歴30年という竹谷氏は、自身のプログラミング授業を利根川氏に見てもらったことがきっかけとなり、みんなのコードへの参加を決めたという。

プログルを使った授業の展開方法を紹介する動画。解説しているのは元教員の竹谷正明氏だ。

みんなのコードYouTube公式チャンネル

そうした「周りを巻き込む」利根川氏の発想と行動力は、現場の教員たちをも動かした。

研修に参加した教員たちが「とにかくやってみるプログラミング教育ティーチャーズ」、頭文字をとって「Type_T」という自主グループを結成。

勉強会を通してプログラミング教育の実践者の輪を広げていこうというこの取り組みは、いまや全国に広がっている。

「テクノロジーは格差を広げ、社会を分断していく性質を持っています。最先端のテクノロジー企業と、テクノロジーの浸透していない、いわばレガシーな公教育の世界の間に入り、触媒となって両者をブリッジすることが、サステナブルな社会を築き上げるためには欠かせません。

みんなのコードはこれからも、その触媒の役割を果たしていきたいと思っています」(利根川氏)

(取材・文:湯田陽子


※みんなのコードは、サステナビリティ経営に取り組む企業を表彰するBusiness Insider Japanのアワード「Beyond Sustainability2021」のNext Coming部門にノミネートされています。ノミネート企業23社の中から受賞した5社が登壇するオンラインイベントが、10月4日~8日に開催されます。詳しくはこちらから。

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