家事代行訪問中に「AV見て自慰行為」の客を略式起訴、抑止力は働くか?

食器を洗っているイメージ写真。

家事代行サービスのスタッフに性被害を負わせた利用者が略式起訴された。

Shutterstock/YAKOBCHUK VIACHESLAV

2021年9月に、マッチング型家事代行業者のCaSy(カジー)を通じて一般家庭を訪問し家事代行を行う働き手が、利用客による性的ハラスメントの被害に遭った事件で、加害者が東京地検に、威力業務妨害罪で略式起訴されていたことが、明らかになった。

今回、警察・検察が動き、利用客の自宅で仕事をするケースで威力業務妨害罪が適用されたことは、今後同様の事案への抑止力になる可能性がある。

CaSyの加茂雄一社長は2021年9月、著者の取材に対し次のようにコメントした。

「本件が解決したからと対策を終えるわけではなく、今後も同様の事案が起こるリスクは存在するので引き続き改善をしていきたい。(警察が動いたことに対しては)お客様に対する啓発もしていく中で、その一環としては前に進む一歩」

どのような事件だったか

男性がテレビのリモコンを触っているイメージ写真

加害者は複数回別アカウントでサービスを利用していたという。

Shutterstock/ Lolostock

CaSyは(家事代行を行う)キャスト1.2万人、利用者12万人が登録する巨大プラットフォームだ。利用者が掃除等の依頼を希望すると、CaSyがマッチングをし、業務委託契約を結んでいるキャストに対してその仕事を受けるかどうかを確認。了解を得られればキャストを派遣するという仕組みになっている。

当該事件とはどのようなものだったか。

2020年9月15日午後2時半、30代女性のNさんは、CaSyの「キャスト」として、男性Zの一人暮らし宅を訪問した。

この利用者Zは、Nさんが掃除をしていると、6畳ほどのワンルームで脱衣場もない中、服を脱ぎ、入浴をし始めた。その後、Zは裸で腰に手ぬぐい1枚を巻いた状態で浴室から出てきて、アダルトビデオを鑑賞し始めた。

Nさんが背を向けて洗濯物を畳み続けていると、気が付くと、Zは近づいて話しかけてきた。振り向くと手ぬぐいはなくなっており、全裸で仁王立ちをするZがいた。全裸であることに気づかないふりをして会話に応じたが、今度は「自慰行為をしながら迫ってきた」という。

ZはNさんがCaSyのアプリ上で確認した際は「新規利用者」との表示だったが、事件後にCaSyが確認したところ、それまでに複数回別アカウントで利用をしていたことが分かった。

Nさんが被害に遭うまではトラブル等の報告はなかったが、一度別のキャストが在宅中にも、Zが入浴をしていたことが業務報告書に書かれていたという。

NさんはZ宅から逃げ出し、警察に通報した。その後、Nさん以外からも証言が得られたことから、今回の逮捕・起訴につながったとみられる。

事件後、対策を強化

スマートフォンを持つ手。

CaSyは本人確認書類の提出を義務付け、サービス利用中の入浴は禁止事項にした。

撮影:今村拓馬

CaSyはそれまで顧客側の本人確認書類の提出を求めていなかったが、2021年3月からは、新規利用者や前回の利用から1年以上間があいた利用者については提出を義務付けている。既存顧客も含めて、本人確認と反社リストとの照合をしはじめた。

Nさんの事件を受け、キャストが稼働中は利用客に入浴することも禁止行為に設定し、禁止行為がみられた場合はサービスが停止される。キャストが禁止行為に遭遇した場合は利用客の許可を得ずに退出してよいことになっている。

このほか、キャスト登録希望者には選考会でこのようなリスクがあることを説明するようになった。説明を聞いて辞退するケースもあるという。また、キャスト向けのサロンを開催し、具体的にどのような場面に遭遇したらどのように発声して退出をするかの訓練をする、アプリ内に本部につながる通報ボタンを設置するなどの対策を打っている。

現在は、キャストが業務終了後に利用客について「今後この顧客に対してのサービスを提供したくない」と報告した場合は運営側で理由を精査した上、利用客に注意をしたり、解約請求をしたりすることもあるという。

利用客側から「このキャストには来てほしくない」という報告が入った場合も同様だ。

業界横断の模索続く

シェアリングエコノミーのイメージ写真。

シェアリングサービス業界では、強制退会者の情報共有を検討している。

Shutterstock/Koshiro K

シェアリングサービス業界全体でも被害をどう防ぐかが課題になっている。

シェアリングエコノミー協会は事業者を審査し、審査を通過したものについては認証マークを与えるという枠組みもつくってきた(CaSyは認証マークは未取得)。認証に際しては、内閣官房の有識者会議の委員だった専門家らが審査委員を務め、その認証委員会を監視するための第三者委員会もある。

2021年8月2日には、CaSy、シェアダイン、タスカジの3社は「プラットフォーム安心安全宣言」を出し、利用者と働き手双方に向けて、ハラスメントを撲滅するための啓蒙活動を実施した。宣言に参加したタスカジの和田幸子社長は次のように話す。

利用者の家の中でサービスをする業態は、オンラインで解決する業態とリスクの性質が異なり、広くユーザーにもリスクを知ってもらう必要がある。ルールを守ってお互いに気持ちよく使って、みんなで場をよくしていくことがシェアリングエコノミーでは必要」(タスカジ和田幸子社長)

あるプラットフォームで、強制退会などを求められた利用者・働き手が別のプラットフォームに移動して加害を繰り返す可能性もあり、業界では強制退会者の情報を共有することも検討されている。

ただ犯罪歴については要配慮個人情報にあたり共有が難しいなどの課題は残り、模索が続いている。

(文・中野円佳

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