iPhone 13 Pro(フロストブルー、左)と、iPhone 13((PRODUCT)RED、右)。
撮影:西田宗千佳
iPhone 13シリーズの販売が9月24日から始まった。
毎回iPhoneが出ると、「スタンダードかProか」という点で悩む人が出てくる。今回の答えは簡単だ。
「通常の体験なら13で十分。でも、もっと非日常的な撮影にお金をかけられるならProを」
ではそれはどういうことなのか?実機のテストから考えてみよう。
性能とディスプレイに違いあり、実は選択ポイントは「デザイン」?
撮影:西田宗千佳
iPhone 13とiPhone 13 Proの違いはいくつかある。
1つはプロセッサーが違うこと。だが、ベンチマークを見ると、スピードを生かすゲームなどに強く興味がある人を除くと「その程度の違いか」で済む範囲に思えるかもしれない。
「GeekBench 5」でのテスト結果を見ても、差は主にGPUに集中しており、むしろ「iPhone 13というシリーズ全体が速い」という印象を強く持つ。
GeekBench 5によるiPhone 13のマルチコア性能。iPad Pro・11インチ(2020年モデル)に匹敵。iPhone 13 ProはわずかにiPhone 13よりも上だ。
画像:筆者計測
グラフィックス処理能力にかかわるGPU(Compute)性能。iPhone 13 ProはiPad Pro・11インチ(2020年モデル)より22%速い。一方のiPhone 13であっても、iPad Pro・11インチ(2020年モデル)に比べると少し劣る程度と極めて高い。
画像:筆者計測
次の違いはディスプレイ。性能的にいえばProシリーズの方が明るい。
ただ、その違いを感じられるのは、映画をしっかり見たい時や、夏場の強い光の中でスマホを使いたい時くらいだろう。iPhone 13の方も明るくなっているので、これも「13でもいい」という話になるかもしれない。
Proシリーズは秒間120回の画面書き換えが可能な「120Hz駆動」になり、画面スクロールなどがとにかく滑らかになった。これは横に置いて比べると結構な違いがあり、快適さ重視ならPro、というのは間違いない。
毎秒240コマのスロー撮影で、iPhone 13(左)と13 Pro(右)のスクロール画面を撮影。120Hz対応の13 Proの方が動作がなめらかだ。
デザインはもちろん違う。
スマホは身に着けるものなので、気に入るものを選ぶのも大事だ。iPhone 13と13Proでは仕上げのテイストがかなり違うので、実はとても大切な点かもしれない。とはいえ、ケースなどで変えられる、といえば変えられる。
iPhone 13 Pro(フロストブルー)
撮影:西田宗千佳
iPhone 13((PRODUCT)RED)
撮影:西田宗千佳
iPhone 13 ProとiPhone 13を比べると、サイドなどの仕上げが大きく違うのがわかる。
撮影:西田宗千佳
13 Proはもっと「寄れる」カメラだ
そうなると、一番違いがはっきりしてくるのがやはり「カメラ」ということになる。
iPhone 13と13 Proでは、搭載しているカメラがかなり違う。13は「広角」「超広角」の2カメラの構成。13 Proは「望遠」「広角」「超広角」の3カメラに、暗所でのフォーカス補助などを行うLiDAR(空間把握用センサー)が付いている。
iPhone 13は対角上に2つのカメラ、iPhone 13 Proは3つのカメラ+LiDARという構成
撮影:西田宗千佳
今回、13 Proは「望遠」が光学3倍になっており、2020年発売の「iPhone 12 Pro Max」よりも、ずっと寄れる(近くで撮れる)カメラになった。それに、「超広角」が特に明るくなったので、夜間や薄暗いところでの撮影には強くなっている。
マクロ撮影がおもしろい
とはいえ、「超広角」の進化は、むしろワイドな撮影以上に「もっと寄る」撮影の方に向いている。
13 Proは被写体に2cmまで近づいて撮る「マクロ」撮影ができるのだが、実はこれが、オートフォーカスと超広角側のカメラの組み合わせで実現されている。
同時発売の「MagSafe対応iPhoneレザーウォレット」(色はゴールデンブラウン)を、iPhone 13とiPhone 13 Proで接写してみる。
撮影:西田宗千佳
iPhone 13では、2cmくらいまで寄ると、もはやピントが合わない。
撮影:西田宗千佳
iPhone 13 Proでは、被写体まで2cmまで寄れるため、縫い目やレザー表面のシボ加工まで細かくバッチリ見える。
撮影:西田宗千佳
iPhone 13と13 Proの「マクロがある・ない」の差は、上の写真を見ていただければ一目瞭然だ。どちらも同じ距離から撮ったものだが、13ではピントが合わないが、13 Proならちゃんと撮れる。
しかも、暗いところに強いカメラになっているために、「近寄った結果、自分やスマホの影で暗くなる」現象にも強くなり、割とちゃんと写る。正直これはかなり魅力的だ。
おもしろいのは、撮影には「特殊なマクロモードがあるわけではない」ところだ。単に物体に近づいて撮ればいい。
具体的には、マクロモードが必要な距離まで近づくと、自動的にカメラを切り替えてマクロモードに入るようになっている。
「シネマティックモード」が最大の魅力
iPhone 13シリーズでは、動画撮影時に背景のボケ味がついた映像を撮影できる「シネマティックモード」が搭載されている。
この機能は、動画撮影としては画期的なものだ。
映画やドラマで日常的に見ているような、「背景にボケ味があって味のある動画」が撮れる。
シネマティックモードの美点は、こうした映像がシンプルにスマホ1台で、特別なテクニックも使わずに撮影できる、という点だ。
映像表現としては、まだまだ未成熟な部分はある。
輪郭の判定は完全に正確ではないし、ボケ味のつき方もどこか画一的で「書き割り」のように感じてしまう部分もある。
とはいえ、日常的な動画、ちょっとした旅行などの映像が、よりドラマチックなものになる——というメリットは大きい。
以前からあった撮影手法をスマホで簡単に実現する機能に「シネマティックモード」と名付けたことが、今回のアップルの最大のお手柄かもしれない。
どの要素があればシネマティックなのか、という話ではなく、「なんとなく撮れば、それだけでちょっとだけ映画っぽいもののになる」わけだから。
人物の動き判定を軸に組み立てられた機能だが、被写体だと認識できればそこにフォーカスがあたり、ボケ味も生まれる。だから、さっと撮った焼き肉だって、急に「シネマティックな焼き肉」になってしまう。なかなか面白い。
まとめ:Proとの「レンズの差」は、実はかなり大きい
この機能については、iPhone 13と13 Proの間ではあまり大きな違いがないように見える。 シネマティックモードも、iPhone 13でも使える。
ただ、レビューを通してみると、両者には明確な差が1つある。
それはシネマティックモードで「光学3倍」が使えること。特定のものを拡大した映像をボケ味付きで撮影できるのは、それだけ撮影の幅が広がるということ。表現の幅は大きいことだ。
静止画での望遠やマクロも含め、「自分で日常の撮影を演出する」人にとって、カメラの機能は重要だ。iPhone 13はその幅を広げてくれるのは間違いないが、どうせ幅を広げるなら「Pro」の方がいい。
また「寄った写真を撮りたい」なら、そもそもProを選ぶべきだ。
最低ストレージ容量が増えたこともあり、13のコスパはいいのは以前記事に書いた通りだ。「5Gで良いカメラが付いているスマホを選ぶ」のが目的なら、iPhone 13は良い選択肢だと思う。
だが、シャッターチャンスはコスパでは測れない。
カメラにこだわってスマホを買う、というのは、そういうことではないだろうか。
(文、撮影・西田宗千佳)
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。