全国の小中高校の教員を対象に実践型のプログラミング教育研修を展開するNPO法人「みんなのコード」が、新たに国立の教育大学との連携プロジェクトをスタートさせた。
出所:「『コンピュータサイエンス教育』のカリキュラム開発に向けての実証研究」報告書より筆者作成
デジタルトランスフォーメーション(DX)を担う人材の争奪戦が激化するなか、公教育の現場から人材育成の底上げを図る動きが活発化している。
その動きをリードしているのが、全国の小中高校の教員を対象に実践型のプログラミング教育研修を展開するNPO法人「みんなのコード」だ。
国立の教育大学とタッグを組み、新たに今年10月から、教員養成課程を履修する大学生向けの講習をスタート。デジタルの「消費者」ではなく、デジタルを使って自己表現や課題解決などを行う「価値創造者」としての子どもを育てる教員を養成する。
みんなのコードがタッグを組むのは、東北地方で唯一の教員養成大学、宮城教育大学(仙台市)だ。
宮教大が開講する、教員養成課程の講習「情報機器の活用」のカリキュラム策定に協力。実際の講習では、学校現場で長年コンピュータサイエンス教育を実践し、みんなのコードで研修実務に携わってきた元教員が学生の指導に当たる。
なお、宮教大で行われる教員免許状更新講習でも、現役教員向けの講座を別途開講する。
DX化の流れを受け、ここ数年でデータサイエンス関連の学部・学科を新設する大学が相次いでいるが、小中高校でのプログラミング教育必修化への対応に特化した教員養成向けの講習は、全国でも珍しい取り組みだ。
教員養成課程に詳しい関係者によると、「おそらく日本で初めてではないか」という。
小学校での実証実験の成果
みんなのコードと宮教大は、2020年度から宮教大附属小学校、2021年度からは同附属中学校で実証研究を行い、公教育におけるコンピュータサイエンス教育のモデルケースづくりを進めている。
目指すのは、「デジタル社会をどう生きるか」を自分の言葉で語ることができ、また「地方でも、地方だからこそ、コンピュータでより豊かな生活を送れる」ことを実感できる子どもたちの育成だ。
今回の講習は、小中高を問わず教員を目指すすべての学生が受講可能。みんなのコードがこれまで積み重ねてきた教員研修の経験に加え、(2020年度に実施した)附属小学校での実証研究から得た知見を大幅に取り入れている。
みんなのコードとともに実証研究を進める宮教大の安藤明伸教授はこう話す。
「どのように体験し説明すると、子どもが納得して理解できるのか、また生活とのかかわりを認識できるのか。教える側にとって必要な内容を整理し、講習のカリキュラムを構成しました。
小学校での実証研究の成果がもとになっていますが、どのように指導すればいいかという基本は、中学・高校の教員を目指す学生にとっても大いに参考になるはずです」
また、みんなのコード代表理事の利根川裕太氏は今後の展開を次のように見据える。
「コンピュータがどんな性質や特徴を持っているのかを理解したうえで、教員になってほしい。
また、これから実施する講習の成果を、ぜひ全国の大学の教員養成に役立ててもらいたい。みんなのコードとしても、同様の取り組みをしたい大学が出てくれば、ぜひ協力したい」
2015年に設立したみんなのコードは、「すべての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」をミッションに掲げ、コンピュータサイエンス教育の普及事業を推進。さらに、小中高校でプログラミング教育の必修化が決定したことを受け、2016年からは教員向けの研修に力を注いできた。
独自開発した無料の教材「プログル」と組み合わせた研修は評判を呼び、グーグルやセールスフォース・ドットコムといったグローバル企業をはじめとする国内外の企業・団体が相次いで支援。
2020年度に先行して必修化した小学校教員研修だけでも、過去3年間で42都道府県・50都市の2100人以上が参加した。
また、「テクノロジー教育は男性教員の専売特許」といった固定観念に陥りがちな現状を打破するため、一般社団法人Waffle(ワッフル)と協力し、小学校女性教員向けの養成プログラムも開設。IT分野におけるジェンダーギャップの解消にも力を入れている。
(取材・文:湯田陽子)