撮影:伊藤有
Hikakin(ヒカキン)、はじめしゃちょー、Fischer's(フィッシャーズ)……。子どもや若者の間で絶大な人気を誇るYouTuberたち。いまやYouTuberは、小学生の「なりたい職業ランキング」の常連としてもすっかり定着した感があります(※1)。
そんなYouTuberを数多く抱え、いまや芸能事務所をしのぐ存在感を持っているクリエイター集団、それがUUUM(ウーム)株式会社(以下、UUUM)です。
YouTube動画市場は群雄割拠
UUUMの創業は2013年で、大株主には国内屈指の人気YouTuberであるHikakinも名を連ねています。2017年に上場を果たした同社の時価総額は本稿執筆時点で約280億円。売上高は期を追うごとに右肩上がりで、直近の2021年5月期で240億円を超えます(図表1)。
綾瀬はるか、石原さとみ、鈴木亮平をはじめ300組以上の人気俳優やタレントを擁するホリプロの売上が135億円ですから(※2)、UUUMがいかに多くの売上を稼いでいるかがお分かりいただけるでしょう。
(出所)UUUM有価証券報告書をもとに筆者作成。
もちろん、YouTube動画をとりまくこの新しい業界には、UUUM以外にも競合企業が多数存在します。2014年に創業したBit Star(※3)、その翌年に創業したVAZ(※4)などは、UUUMと同じく自らクリエイターを抱え、YouTuberのマネジメントを行うスタイルをとっています。
一方、エージェントという立場からクリエイターをサポートしているのがGuild(※5)です。Guildは人気YouTuberのヒカルのほか、宮迫博之や手越祐也といった知名度の高い芸能人を筆頭に400を超すYouTubeチャンネルをエージェントとしてサポートしており、いまや年商は100億円を超えています。
このように動画クリエイターのマネジメントを行うサービスを「マルチチャンネルネットワーク(MCN)」と呼びます。MCNは複数のYouTubeチャンネルと連携し、動画制作、企業とのタイアッププロモーション、視聴者の獲得、ノウハウ提供、デジタル著作権管理、収益受け取り等の面でクリエイターたちを支援しています。
このように、YouTubeによって新たに生まれた動画市場をめぐっては新興企業がしのぎを削っているわけですが、なかでもUUUMは、2021年6月30日時点のYouTubeチャンネル登録者数ランキングトップ10のうち4チャンネルをUUUM所属のクリエイターで占めるなど、まさに国内MCN事業者の最大手の地位を確立しています。
2021年5月31日時点でUUUMの専属クリエイターは313組、専属以外のクリエイターを含めたUUUM所属のチャンネル数はなんと1万4440にもなります。テレビの地上波のキー局がNHKと民放5社しかないことを考えると、UUUMが支援しているチャンネル数がいかに多いかがイメージできるでしょう。
そんなUUUMの経営は盤石と言えるのか、将来に向けての戦略的な狙いは——そこで今回は前後編の2回にわたり、同社のビジネスモデルを会計とファイナンスの視点から分析していくことにしましょう。
動画編集はどれほど大変なのか
日本で最も有名なYouTuberの一人といえばHikakinでしょう。Hikakinがブレイクするきっかけになったのが、「YouTuber」という言葉すらまだ存在しなかった2010年に公開された、スーパーマリオのボイスパーカッション動画です。
HIKAKIN「Super Mario Beatbox」
そこからこの新しい市場の第一線を走り続け、2021年9月には自身のYouTubeチャンネル「ヒカキンTV」の登録者数が1000万人を突破するという快挙を果たしました(※6)。
そのHikakinは、2018年にNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演した際、「7分の動画を編集するに6時間かかった」という趣旨を発言をしています(※7)。
これを聞いて、動画を編集したことがない人なら「たった7分の動画を編集するのに6時間もかかるの?」と思うかもしれません。
ですが、動画編集を一度でも経験したことがある人なら、クオリティにもよりますが、7分の動画を6時間で編集するというのはおそらくかなり早いと感じるはずです。私自身、過去に友人の結婚式の余興や娘の保育園の卒園式のために動画を編集した際には、5〜10分程度の動画を1本作るのに20時間以上かかりました。
編集だけでこれだけの時間がかかるわけですが、YouTuberの仕事はこれだけではありません。企画、構成、出演、撮影、さらにプロモーションやマーケティングまでを1人もしくは少人数でこなすケースがほとんどです。そう考えると、YouTuberがいかに大変な仕事かが想像できるでしょう。
Hikakinは『プロフェッショナル 仕事の流儀』が放送された2018年だけで実に500本を超える動画を投稿しています。その多くをHikakin自らが手がけているというのですから、トップYouTuberの仕事ぶりはまさにプロフェッショナルそのものです。
もちろん、すべてのYouTuberがHikakinのように何でも器用にこなせるわけではありません。ここにこそ、クリエイターを支援するしくみを提供するUUUMが介在する意義があるのです。
UUUMは芸能事務所とどう違う?
UUUMには多数のクリエイター(YouTuber)が所属していますが、契約形態によって大きく2種類に分けられます。
1つは「専属クリエイター」で、その名のとおりUUUMと専属契約を結んでいるクリエイターのこと。もう1つは「ネットワーククリエイター」と呼ばれ、自身でYouTubeチャンネルを持ちながらもUUUMから動画作成、視聴者獲得、ノウハウ提供を受ける契約(※8)を結んでいるクリエイターのことです。
ここまで読まれた方の中には、「UUUMは結局のところ、芸能事務所と同じなのでは?」と感じた方もいるかもしれません。
確かに、表現の場がテレビなのかYouTubeなのかという違いはあるものの、YouTuberのやっていること自体はテレビタレントと似ています。
実際、カジサックや中田敦彦のほか、最近では本田翼や仲里依紗といった存在感のある芸能人までもがYouTubeに参戦していますから、外から見ている限りUUUMと芸能事務所の違いはますます曖昧になってきているように感じられます。
ですが、UUUMの取り組みと芸能事務所とでは、本質的にやっていることが異なります。
その違いを、UUUMは以前、自社サイトで図表3のように説明していました。
テレビ番組の5つの制作工程のうち、芸能事務所が関わるのは主に「出演」に関わる部分。「タレントを発掘し、育て、テレビに出演をさせる」こと、そしてテレビ出演までの導線とその後のフォローが芸能事務所の主な領域です(ただし、芸能事務所が関わる領域は時代とともに広がってきており、近年では「出演」以外の工程に積極的に関わる事務所もあります)。
一方、YouTuberはこれら5つの工程をすべて1人でこなし、自らコンテンツを配信する必要があります。しかし、動画のクオリティが日々上がっていくなか、これらすべてをクリエイター1人でこなすのには自ずと限界があります。そこでUUUMが、クリエイターを多方面にわたってサポートするビジネスをしているわけです。
(出所)2020年5月期 UUUM 決算説明資料より。
それだけではありません。いまや1万4000以上のチャンネルを支援しているUUUMは、企画、構成、出演、撮影、編集のすべてに強みを持っているうえに、動画の再生回数を高めるノウハウも数多く持っています。これらの強みを生かして、芸能事務所との提携も進めています。
その代表例が、UUUMが2020年4月から始めた吉本興業との資本業務提携です。吉本興業には6000人以上のタレントが所属しており、所属タレントが運営するYouTubeチャンネルは800チャンネル以上にのぼります。これらすべてを吉本興業がサポートするのは現実的ではありません。
そこでUUUMの出番です。例えば吉本所属のかまいたちのYouTubeチャンネルは、UUUMが支援したことで動画の再生回数が317%もアップしたといいます(※9)。
このように、UUUMが培ってきたノウハウはいまや専属クリエイターだけでなく、提携先を含めたネットワーククリエイターに対しても大きな価値を提供しているのです。
UUUMはどうやって収益を稼いでいるのか
UUUMのビジネスの概要がつかめたところで、同社の財務的な分析に入っていきましょう。
まずは売上の内訳です。UUUMの売上構成は、(1)YouTubeからの収益であるアドセンス(AdSense)、(2)企業とのタイアップ案件である広告、(3)グッズやイベント等の売上、そして(4)自社チャンネルやゲーム等の4つからなっており、四半期ごとの売上高推移は図表5のとおりです。
同社の売上高の約85%を占めるのが(1)のアドセンスと(2)の広告です。それぞれどういったビジネスなのかを見ていきましょう。
アドセンス:動画1再生あたりの収益は?
売上構成の5割以上を占める「アドセンス」とは、YouTube動画の広告表示回数に応じて広告主から支払われる広告報酬のことです。
図表6にあるように、広告主はYouTubeに対して広告を出稿します。UUUMの所属クリエイターがYouTubeに動画を投稿すると、再生回数に応じてアドセンス収益がUUUMに入ってきます。UUUMは、このアドセンス収益をクリエイターに配分するわけです。
(出所)UUUMホームページより。
UUUMに所属するクリエイターの動画再生回数は、2021年5月期の単月平均でなんと39.5億回にもなります。YouTubeでは「100万再生」が一つの大台とされていますから、単月平均39.5億回とは100万再生の動画が3950個分、つまりミリオンセラー連発という状況です。
これを年間の再生回数にすると、実に39.5億×12=474億回。もはや天文学的な数字です。UUUMに所属するクリエイターの再生回数がいかに多いかがよく分かりますね。
さて、UUUMはこの年間474億回という動画再生回数をもって、約143億円のアドセンス収益を稼ぎ出しています(先の図表6参照)。つまり動画1再生≒1広告表示と仮定した場合、動画1再生あたりの収益は0.3円(143億円÷474億再生)となります。
もちろん、アドセンス収益は単純な視聴回数で決まるわけではなく、視聴時間や視聴中に流れた広告の回数でも変わってきますし、クリエイターによっても違いはありますから、一概に言えるものではありません。しかしおおよその目安として、再生1回あたり平均0.3円のアドセンス収益になると言えそうです。
タイアップ広告:アドセンスを上回る売上高成長率
UUUMの売上高の約28%を占める第2の収益の柱が「タイアップ広告」です。
タイアップ広告とは、広告主の商品やサービスを紹介するタイアップ動画をクリエイターが作成し、自身のYouTubeチャンネルに公開する対価として、広告主から動画制作費を受け取るというものです。UUUMは受け取った動画制作費の一部を、クリエイターに対して支払うことになります。
(出所)UUUMホームページより。
タイアップ動画では、UUUMは広告主や広告代理店に対し、クリエイターを活用したプロモーションを提案するほか、案件受注後はクリエイターが動画を制作する際のサポートも行います。
タイアップ動画には、次のような3つの特徴があります(※10)。
(1)クリエイターの影響力:アドセンスの広告とは異なり、タイアップ動画では、小学生のなりたい職業でも上位に位置するほどの影響力を持つYouTuberたちの力を借りることができます。クリエイターは、コンテンツとしてのエンタメ性や普段のコンテンツとの親和性を意識して動画を制作します。
(2)視聴者の視聴態度:一般的なテレビCMは多くの視聴者にリーチできる半面、視聴者は半強制的にCMを見ることになるので、視聴態度は受け身になりがちです。しかしタイアップ動画では、視聴者はより能動的にコンテンツを見ることになります。
(3)コンテンツの情報量:一般的なテレビCMの視聴時間は15〜30秒ですが、タイアップ動画は5〜10分ほど。したがってその分多くの情報とともに広告主の意図を伝えることができます。
図表8にあるように、売上高の絶対額で見ればアドセンス収益のほうが大きいものの、前年同期比の売上高成長率で見ればタイアップ広告のほうが大きくなっています。
(出所)2021年5月期 UUUM 決算説明資料より筆者作成。
2020年5月期第4四半期と2021年5月期第1四半期は、コロナ禍や緊急事態宣言の影響もあって広告市場全体が冷え込み、UUUMのタイアップ広告の売上高も前年同期比で大きく減じました。
しかしその期間を除けば、タイアップ広告の売上高成長率はアドセンスを常に上回っています。広告主からすれば、それだけUUUMのクリエイターによる広告宣伝効果は大きいということでしょう。YouTuberの存在感が増すなか、この傾向は今後も続いていくことが予想されます(※11)。
UUUMの費用構成はどうなっているのか
では次に、UUUMの費用の構成を見ていきましょう。売上から営業利益までの流れを滝チャートで表現すると、図表9のようになります。
(出所)2021年5月期 UUUM 有価証券報告書より筆者作成。
ご覧のとおり、245億円の売上のうち73%(180億円)を占めるのが売上原価です。この売上原価はクリエイターへの支払いです。つまり、YouTubeからの収益やタイアップ広告で得られた収益のうち、73%はクリエイターへ支払われ、残りの27%がUUUMの売上総利益となるわけです。
そして、次に注目したいのが販売費および一般管理費です。約57億円の販管費のうち、半分以上の31億円を人件費が占めています。UUUMには2021年5月末時点で546名の従業員がいますから、従業員1人あたりの年間支払いは単純計算で568万円(※12)となります。
上述のとおり、UUUMでは、動画制作に関わる企画、構成、出演、撮影、編集のサポートをしているほか、タイアップ広告については営業活動もしています。これだけの守備範囲をもって1万4000を超えるチャンネルを支援するとなると、それなりの従業員数が必要であることは容易に想像できます。
このように、原価となるクリエイターへの支払いと、動画コンテンツ制作の支援等にかかる人件費だけで211億円となり、売上高の実に86%を占めるまでになっています。
UUUMはこれまでの成長過程で、売上が増えるたびに従業員も増やしてきました。
(出所)UUUM 有価証券報告書より筆者作成。
原価率はこれまで安定的に72%前後で推移してきており(図表11参照)、今後も支援するクリエイターが増えれば、従業員も必然的に増やさざるをえないでしょう。つまり、UUUMはかなり労働集約的なビジネスだということが分かります。
(出所)UUUM 有価証券報告書より筆者作成。
UUUMのビジネスモデルは、アドセンス広告にしろタイアップ広告にしろ、クリエイターへの支払いという原価を伴います。となると、仮にビジネスモデルが今のままなら、UUUMの成長戦略として考えられるのは「売上成長率を上げる」というほぼ一択になってしまいます。
もちろん、売上を増やす(=YouTube動画市場の広告を拡大させる)ことも重要ですが、それだけでなく、さらなる成長機会を模索する必要があるでしょう。
この点、UUUMはどのような布石を打っているのでしょうか? この点については次回後編で詳しく見ていくことにしましょう。ヒントは「NFT」です。
※1 「小中学生男子が将来就きたい職業ランキング 3位「ゲームクリエイター」、2位「サッカー選手」、1位は……?」ITmediaビジネスオンライン、2021年3月31日。
※2 東洋経済新報社編『「会社四季報」業界地図 2021年版』東洋経済新報社、2020年。
※3 Bit Starはセガサミーホールディングス、丸井グループ、電通グループなどの出資を受けており、企業のYouTubeチャンネルの制作や運営を行う「BitStar Studio」や、自社で開発したインフルエンサー分析ツール「IPR」などを提供しています。また、YouTubeだけでなく、TikTok、Twitter、Instagram等のインフルエンサーを多く抱えることで、インフルエンサーマーケティングも強みにしています。
※4 VAZにはホリプロやソニーミュージックエンタテインメントが出資しているほか、共同ピーアール社長の谷鉄也氏も出資するとともに取締役会長も務めています。かつてはヒカルやラフェエルといった人気YouTuberが所属していましたが、近年は彼らを含む看板YouTuberが近年では退所。これを受けて2020年には経営体制を刷新しました。10〜20代の若年層のYouTuberが多く所属しているという特徴があります。
※5 Guildは、VAZの副社長だった高橋将一氏が2019年に創業しました。同社の創業には、2ちゃんねるの創設者であり「論破王」としても知られるひろゆき氏も参画しています。「株式会社Guildが創業。2ちゃんねる創設者ひろゆき氏も参画」
※6 なお、HikakinはHIKAKIN、HikakinTV、HikakinGames、HikakinBlogの4つのチャンネルを運営しています。
※7「『7分の動画を編集するのに6時間』ヒカキンの仕事ぶりがまた話題に 他のユーチューバーからはやっかみも」キャリコネニュース、2018年3月22日。
※8 ここでいう契約とは、UUUMのMCN(マルチチャンネルネットワーク)規約のことで、MCN規約に同意しているクリエイターがネットワーククリエイターです。
※9 UUUM 2021年5月期第3四半期決算説明資料より。
※10 ここでは、2021年5月期のUUUMの有価証券報告書に従って記載をしています。
※11 ただし、タイアップ広告においては、ステルスマーケティング(ステマ)にならないよう注意が必要です。ステマに対してはいまや、多くの消費者が拒否感を示しています。実際、ステマだったことが後から分かって炎上した事例も複数あります。これを避けるため、UUUMでは、「タイアップ動画 提供表示ガイドライン概略」を定めています。
※12 UUUMの有価証券報告書(2021年5月期)p.13では、平均給与は512万円と記載されています。本稿で述べた「568万円」はあくまで単純計算であり、実際の平均給与額との差異は社会保険料などに起因するものと推察されます。
(執筆協力・伊藤達也、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。