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ホリエモンも熱視線。「牛糞ロケット」は北海道・大樹町を“宇宙のまち”にするか

北海道スペースポートの完成イメージ(credit_北海道スペースポート)

北海道スペースポートの完成イメージ

画像:北海道スペースポート

町中なのに、牧場の臭いがする ── 。

2021年夏、「ホリエモン」こと堀江貴文氏が率いるベンチャー企業・インターステラテクノロジズ(IST)が開発したロケットの打ち上げを取材しに、射場がある北海道大樹町を訪れた筆者(=私)は不思議に思った。牧場がすぐそばにあるわけではないホテルの駐車場や大通りで、牛糞の臭いがしたからだ。

このことは、私と同じように関東から集まった記者やスタッフの間でも、話題になっていた。

宇宙開発が悪臭問題を解決する?

大樹町役場周辺の航空写真

大樹町役場周辺の航空写真。市街地が畑で囲まれているのがわかる(2019年9月21日撮影)。

出典:国土地理院

大樹町は北海道の東部に位置する、人口が5400人ほどの小さな町だ。広大な土地の利を活かし、町をあげて宇宙開発の誘致に取り組んでおり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や大学などの研究機関が実験を行う「宇宙の町」として知られる。

一方で大樹町は酪農が盛んな地域でもあり、牛の糞尿を原料にした堆肥を肥料として畑に利用している。

農林水産課の職員によると、市街地は畑で囲まれているため、風向きによってはその臭いが広がりやすい。町や農協は、牛の糞尿を十分に発酵させ、臭いが出ないようにして使用するように酪農家を指導しているという。しかし手間がかかるため対応が進んでいない状況にある。

宇宙開発と牛糞による悪臭 ── 。意外な方法で、この問題を一気に解決できるかもしれない。それが、牛糞に含まれるバイオガスを酪農家から買い取って「液化バイオメタン」を製造し、ベンチャー企業がロケットの燃料として使うというプロジェクトだ。

牛糞から液化バイオメタンを製造する

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大樹町にある「北海道スペースポート」の滑走路。JAXAや大学、民間企業に利用されている。将来的には、有人宇宙飛行用に3000mの滑走路が新設される予定。

画像:北海道スペースポート

「ロケット燃料となるバイオガスを作る」という一見、突拍子もないアイデアを生んだのは、東京理科大学発のベンチャー企業SPACE WALKER(スペースウォーカー)が直面した、ある課題だった。

SPACE WALKERは、2024年以降に科学実験や衛星の軌道投入を目的としたロケットの打ち上げを計画している。滑走路の長さが決め手となり、打ち上げの場所に大樹町のスペースポート(宇宙港)を選んだ。

SPACE WALKERは、再利用型のロケットを開発している。採用されているメタンエンジンは、燃料となる液化天然ガス(LNG)にメタン以外の不純物が多く含まれていると、腐食してしまい、機体の再利用ができなくなる恐れがある。そのため、一般に供給されているものよりもメタンの純度が高いLNGを使用しなければならない。

SPACE WALKERが開発するロケットのイメージ。

SPACE WALKERが開発するロケットのイメージ。有翼式なのが特徴。2029年に高度120kmを往復する宇宙旅行の提供を計画している。

Credit:SPACE WALKER

ところが、現在日本は海外から高純度のLNGを輸入していないため、メタンの純度が高いLNGを入手する方法は2つ。一般的なLNGを一度、気化させて不純物を除去し、再び液化して使用するか、高純度のメタンを製造するかのどちらかだ。

LNGを高純度化できる設備を持つガス会社は限られている。ロケットを打ち上げる大樹町で、再液化して純度を上げたメタンガスを使うには、都内のガス会社から購入して、専用の船で北海道まで運搬しなくてはならず、コスト高になってしまうのだ。

そこで、SPACE WALKERは燃料を道内で調達できないかと考えていたところ、牛糞から高純度の液化バイオメタンを製造して、燃料として使うアイデアが浮んだ。

どうにか実現できないかと、道内の産業ガス市場において高いシェアを占めるエア・ウォーター北海道に相談を持ちかけたのだという。エア・ウォーター北海道はSPACE WALKERの要望に応え、共同で牛糞バイオメタンの実用化に向けて開発を進めている。

SPACE WALKERの代表取締役CEO 眞鍋顕秀氏は、こう語る。

眞鍋顕秀氏の写真。

SPACE WALKER代表取締役CEO 眞鍋顕秀氏。

撮影:井上榛香

「ロケットの打ち上げには、地元の応援が必要です。牛糞バイオメタンを使うことが地元の課題解決につながるのであれば、みんながWin-Winになれますし、それも一つの競争力になります。大樹町からロケットを打ち上げるなら、牛糞バイオメタンを使うのが良いと思っています」(眞鍋氏)

ホリエモンロケットも牛糞バイオメタンに熱視線

ISTロケット打ち上げ準備

ISTが開発するロケットの打ち上げ準備。

撮影:井上榛香

堀江貴文氏が創業したインターステラテクノロジズ(以下、IST)も、牛糞から製造した液化バイオメタンの活用を狙う一社だ。

ISTは小型で低価格のロケット開発に取り組んでいる。現在開発中の人工衛星を打ち上げる新型ロケットにはメタンエンジンが搭載される予定で、その性能を安定させるために、一般的なLNGよりもメタンの純度が高いものを必要としている。

堀江氏によると、LNGを再液化して使う場合と牛糞から液化バイオメタンを製造して使う場合でかかるコストには、ほとんど差がない。しかし、バイオ燃料を使用することは、ロケット企業にとっての競争力にもなり得るという。

堀江貴文氏の写真

インターステラテクノロジズ ファウンダーの堀江貴文氏。

撮影:井上榛香

「ガソリンエンジンの車を作っている企業は炭素税を払っていますが、電気自動車を作る企業は逆に炭素税が貰える。簡単にいうと、General Motors(ゼネラルモーターズ)から、Tesla(テスラ)にお金が渡っているわけです」

同氏は、自動車業界で炭素税が導入されているように、ロケット企業にも環境税がかけられる流れが来るだろうと予測した上で、こう指摘する。

「燃料にバイオメタンを使うなら、ロケットの打ち上げによる温室効果ガスの排出量を減らしているわけで、環境税を貰える側になります」

さらに堀江氏は、牛糞からバイオメタンをつくる取り組みの利点として、環境へ配慮した選択である点、エネルギーを地産地消できる点を挙げる。

その一方で、牛糞バイオメタンを含むバイオ燃料をロケットの燃料として使う研究開発事例はあるものの、実用化に至っているケースは未だない。

ロケットエンジンの燃焼について研究する東京大学大学院の津江光洋教授と中谷辰爾准教授に、バイオ燃料をロケットの燃料として使うことの現実性を聞くと、このような回答があった。

「ロケットベンチャー企業が使用を検討している液化バイオメタンは、通常のもの(高純度LNG)とその性状はほぼ変わらないと思われますので、バイオ由来かどうかということが燃焼特性に影響することはないと思われます」

「ただし、ロケットの燃料にバイオ燃料を使用することによる、性能向上は期待できません。バイオ燃料を適用することが社会的および技術的にどの程度意味を持つのかを考えることが必要ではないでしょうか」

目指すは“北海道の宇宙産業”拡大

4km地点からみた北海道スペースポート(撮影:井上)

4km地点からみた北海道スペースポート。

撮影:井上榛香

バイオ燃料をロケット燃料として使うことには、まだまだ高い壁がある。それにも関わらず、エア・ウォーター北海道は、ISTとSPACE WALKERと協力しているほか、大樹町のスペースポートを事業推進するSPACE COTANに出資するなど、ロケット事業を広く支援する姿勢を見せている。

その理由をエア・ウォーター北海道、北海道地域連携室の高橋宏史氏はこう語る。

「ロケットの燃料として使おうとすると、求められる品質が高くなるので、1ステージくらい技術レベルが上がります。そこに挑戦して、結果的に北海道の宇宙産業が大きくなり、地域が発展していけば、当社の業容拡大はもちろん、社員も成長できると思っています」(高橋氏)

大樹町から頻繁にロケットが打ち上がるようになれば、人工衛星を製造するメーカーをはじめ、宇宙関連企業が集まってくるはずだ。町の人口が増えれば、住居や商業施設の建設が行われる。そこでの液化バイオメタンの需要拡大を見込んでいるのだ。

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牛糞バイオメタンをLNGの代替燃料として十勝地方の工場などに供給する実証実験は、環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」の優先テーマとして採択されている

エア・ウォーター北海道

エア・ウォーター北海道は、牛糞バイオメタンをLNGの代替燃料として牛乳工場に供給する実証実験を2021年4月に始めた。将来的には、地産地消のエネルギーとして十勝地方の工場や札幌周辺を走るトラックの燃料としての利用が見込まれている。

一連の取り組みには、行政も期待を寄せている。

大樹町役場、企画商工課航空宇宙推進室の担当者は、こうした取り組みは家畜糞尿の適正処理という、町が抱えていた課題解決にもつながると話す。

「家畜糞尿由来の液化バイオメタンをロケット燃料などのエネルギーとして利用することができれば、地域内の資源を有効活用した新たなエネルギーの地産地消モデルとなる。経済を含めた地域の活性化、さらには系統制約等により進まないバイオガスプラントの建設促進にもつながるのではないでしょうか」

牛糞由来のバイオ燃料は、地域の課題や環境課題を解決しながら、町の産業の発展にもつながるというイノベーションの新しいモデルケースになるかもしれない。

(文・井上榛香


※こちらの記事は、2021年7〜8月にBusiness Insider Japanが開講したスクール「編集ライター・プロ養成講座」の受講者が、編集部のディレクションのもとに取材・執筆したものです。

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