(写真左から)Zebras and Company共同創業者/代表取締役の陶山 祐司さん、田淵 良敬さん、阿座上 陽平さん。
撮影:キム・アルム
「ゼブラ企業」という言葉をご存知だろうか? めざましい成長で投資家に莫大な利益を目指す「ユニコーン企業」に対し、よりよい社会に寄与しつつ持続可能な事業を営む企業を「ゼブラ企業」と呼ぶ。ESG投資への関心が高まり、世界各所で金融を通じて社会を変革しようという動きが興るなか、日本で旗を上げたのがZEBRAS & CO.だ。彼らはゼブラ経営の社会実装をめざし、「優しく健やかで楽しい社会」の実現に貢献したいという。事業を立ち上げたばかりの共同創業者3人に話を聞いた。
Zebras and Company 共同創業者 / 代表取締役 Tokyo Zebras Unite 共同創設者 (一社)日本GR協会理事
ベンチャーキャピタリストとして、さまざまな企業の投資審査や、宇宙開発ベンチャー、IoTベンチャーの事業戦略策定、資金調達、サービス開発、営業等の支援を実施。大企業においても新規事業の開発および新規事業が生まれて来るような組織開発・人材開発・経営支援を実行するとともに、経済産業省での経験と繋がりから政策提言等も行なっている。
Zebras and Company 共同創業者 / 代表取締役 Tokyo Zebras Unite 共同創設者 Cartier Women’s Initiative東アジア地区審査員長 MIT Inclusive Innovation審査員(2019)
約10年前から国内外でのインパクト投資に従事。その経験から投資実行と共に、投資後のビジョン・ミッションや戦略策定と、実行するための仕組みづくりや組織作り・リーダー育成およびインパクト指標を使った経営判断の支援を行う。グローバルな経験・産学ネットワークから世界的な潮流目線での事業のコンセプト化、経営支援、海外パートナー組成を得意とする。
Zebras and Company 共同創業者/代表取締役 ユートピアアグリカルチャー プロデューサー
スタートアップの商品/サービス開発から広報/プロモーションまでのマーケティングプランニング、クリエイティブディレクションなどの事業及びブランド全体の設計と実装までを行う。社内外の関係者や市場/競合のリサーチに基づくビジョンミッション策定から企業を表す言葉やデザインのコンセプトを作り、社会で語られるブランド設計を得意とする。
社会貢献的かつ利益も出す。そんな企業が生き残れる仕組みを作りたかった
田淵良敬さん。投資家としてインパクト投資に関わる中で「世の中に提供されている資金の性質と、起業家が本当に必要としている資金の性質が違うのでは」という問題意識を持ったという。
撮影:キム・アルム
——「ゼブラ」という概念に出会ったきっかけは?
田淵:社会起業家が多く登壇する「スコールワールドフォーラム」というカンファレンスに足を運ぶ機会があって。オックスフォードで開催されたんですが、ちょうど前職をやめた時期だったので、ビジネススクール時代の同級生が登壇するというので覗きに行ってみたんです。
その頃私は、投資家としてインパクト投資に関わって「世の中に提供されている資金の性質と、起業家が本当に必要としている資金の性質が違うんじゃないか」と感じていました。
そこで、そのカンファレンスの会場で出会った人たちに、私の問題意識をぶつけて話してみたところ、共感してくれる人が非常に多かったんです。なかでも、ゼブラ企業という概念の提唱者で、Zebras Unite という組織ファウンダーのAstrid Scholzのパネルを聞いてみたら「なんだか自分が思っていたこととすごく近いことを言っているな」って。
彼女の活動について聞くうちに、私が応援したかったのは「ゼブラ企業」というものではないか、と考えはじめました。
というのも、Astrid Scholz はアメリカ人。シリコンバレーに近いところでユニコーンにすさまじい投資が集まる世界を見てきたわけです。
ベンチャー企業が注目のユニコーンになりベンチャーキャピタルの投資を受け、急成長させて売却する。それが果たして本当に正解なのか。
その一方で、株主だけではなく他のステークホルダーや社会に配慮している企業もたくさんあるのに、彼らは資金調達に苦労している。そんなジレンマのなかから、「社会に対しても貢献的で、かつ成長もするし、利益も出すという、そういう企業がきちんと生きていけるようなエコシステムを作りたい」という考えが生まれたわけです。
社会をよりよくするために金融を変えていけるんじゃないか
陶山祐司さん。ベンチャーキャピタルがほとんど重視しない事業のなかに、重要な問題意識をもった質の高いものがあると語る。
撮影:キム・アルム
——陶山さんも経産省をやめた後、投資に関わっていた?
陶山:そうですね。僕はなかでも「プレシード」というまだアイディアレベルというか、設立準備段階のスタートアップへの投資に携わっていました。そのなかで、ベンチャーキャピタルがほとんど重視しない事業のなかに、非常に重要な問題意識をもった質の高いものがあったりする。
そんなとき「内容は悪くないけどマーケットが小さいから、投資の対象としては魅力が薄い」というような理由から、いい事業なのに応援できないということがありました。
僕は日本全体をマクロで見て社会をよい方向に変えていくというビジョンに惹かれてその企業に入ったという背景があり、また、投資をしていく中で、金融の仕組みってすごい、社会をよくするためにもっとこのシステムを変えていけるんじゃないかという気持ちも持つようになりました。
撮影:キム・アルム
——田淵さんと陶山さんが、投資事業を始めると決めてから、阿座上さんが加わった?
阿座上:僕はこれまで、マーケティングやブランディングのストラテジーに関する仕事を主に手がけてきました。なかでも スイーツメーカーのBAKEが急成長するプロセスを組織の中核で経験しました。誰も知らなかった小さな企業が、僕が離れたころには100億の事業になっていた。
その後ファンドに売却して、ファンドの運営というものを遠巻きに見るような体験もあった。
その後、社会に良いことと事業が回っていく循環をきれいに組み込んだ仕組みをつくって、100億円くらいの事業が成立するようになったら、みんなが勝手にまねして広がっていくんじゃないかな、なんて考え始めたんです。人、社会、組織がうまくいく循環をつくるために、僕も投資する側に回り、いろんなところでレバレッジを効かせるようなことをやっていきたいと思っていたところに、ふたりと出会ったんです。
ZEBRAS & CO.が目指すもの。「優しく、健やかで、楽しい社会」
ZEBRAS & CO.が目指す「優しく、健やかで、楽しい社会」
提供:ZEBRAS & CO.
——「優しく、健やかで、楽しい社会」という言葉に込められた意味は。
阿座上:まず、「優しく健やかで、楽しい」って三つセットだと思ってるんです。優しいという言葉には、インクルーシブであるということと、心理的安全性が含まれていて、その両方が担保されていれば誰もが活躍しやすいと思うんですよね。健やかさには、健全な競争という意味合いもあります。それらがあったうえで、プレイフルであるというか、そのこと自体が楽しいという……そういうことが重要だと思うんです。チームスポーツのように。
陶山:(なぜ「優しさ」という言葉を選んでいるのかという質問に)世の中全体が間違いなくそっちに動いていると思うんですよね。フラットに見ても「やっぱり世の中おかしいよね、誰かにしわ寄せがいって成り立っている社会だよね」って。
株主至上主義に変わる価値観を創出し、日本らしい経営を世界に発信したい
阿座上陽平さん。ゼブラ企業を名乗る人がかっこいいという世の中になればいい、と話す。
撮影:キム・アルム
——ゴールや目標のようなものは?あるいはこの事業における「成功」があるとしたら?
陶山:目に見える成功というよりもやっぱり「優しく、健やかで、楽しい」の実現かなあと。「これをやったら成功」って決めた瞬間にどこかバランスが崩れそうで。自分たちも楽しく充実して、周りの人たちも楽しく。社会を良くしていけたらって思っています。
田淵:そう、プロセスを楽しむというのもすごく大事だと思ってます。全体の流れでいうと、大手金融機関もインパクト投資をESG投資の先にあるものと位置付けて関心を持っているし、未上場株への投資も注目されていますよね。
このなかで、私たちは株主至上主義にかわる新しい価値観を創出していきたいし、長期的な視点での成長や、個々の企業にあった支援ができたらいい。三方よし、だとか年輪経営などと言う言葉で表されるような、日本らしい経営というものも世界に発信していきたいという思いもあります。
撮影:キム・アルム
阿座上:僕はいくつかステップがあると思っていて。まずは、ゼブラ企業って名乗ってる人がかっこいい、という風になればいい。その先、そんなことを言う必要もなくなったら、多分扱うお金の額も増えていて、できることの幅も広がっていると思う。その先はZEBRAS & CO.をベースに僕ら3人がそれぞれ、自分のフィールドで新しいことを始めていけばいいと思ってます。田淵さんは、海外でも存在感を発揮しているだろうし、陶山さんは政治の方で面白いことをやっていてほしいな、とか。僕はクリエイティブな領域と事業を結びつけて大きな投資をしている、とか。
田淵:究極的にはゼブラ企業って言葉はなくなっても「優しく、健やかで、楽しい社会」が実現されていて、それが当たり前になっていればいいなって思いますね。
※ジェンダーレンズ投資:男女平等の推進と金銭的リターンの双方を求める投資。ESG投資やインパクト投資の一種であるという見方もある。
MASHING UPより転載(2021年7月30日公開)
(文・MASHING UP編集長 遠藤祐子)
MASHING UP編集部:MASHING UP=インクルーシブな未来を拓く、メディア&コミュニティ。イベントやメディアを通じ、性別、業種、世代、国籍を超え多彩な人々と対話を深め、これからの社会や組織のかたち、未来のビジネスを考えていきます。