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中国は台湾のTPP加盟申請を「事前に知っていた」。台湾の加盟歓迎する日本は「地域紛争の源」との指摘も

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9月25日、カナダでほぼ2年間拘束されていた中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の孟晩舟副会長が釈放された。米中関係の変化を感じさせるこの動きと並行して、東アジアでも環太平洋連携協定(TPP)の中台加盟申請を軸に変化が見えてきている。

REUTERS/Aly Song

中国が9月16日に環太平洋連携協定(TPP)への加盟を申請し、その1週間後の23日に台湾も加盟申請を発表した。

背後でどんな動きがあったのか。

米中対立の政治的文脈からみれば、中国の主眼はTPP加盟そのものにはない。台湾加盟の阻止に向けた「先発制人」(=先手を打って相手を制する)が狙いだ。

中国は、日米両政府が「一つの中国」政策の空洞化を図っているとみており、今回の動きからは空洞化に歯止めをかけようとの思惑が透けて見える。

日本の閣僚はこぞって「台湾加盟を歓迎」

「新規加入できる状態ですかね今の中国は、と単純に思う」

中国の加盟申請をあざ笑うかのようなコメントをしたのは麻生太郎副総理兼財務相(ロイター通信、9月17日付)。

TPP担当の西村康稔経済財政・再生相も「TPPの極めて高いレベルのルールを満たす用意があるのか、しっかり見極める必要がある」(同、9月17日付別配信)と述べるなど、日本政府の対応は極めて冷淡だ。

一方、台湾の加盟申請については、対照的な反応が多かった。

茂木敏充外相は「歓迎したい」「戦略的な観点も踏まえた上で対応していく必要がある」(同上)と述べ、先の麻生氏も「台湾は極めて重要なパートナー。日本としては歓迎すべきこと」(毎日新聞、9月24日付)と語るなど、閣僚がそろって「熱烈歓迎」した。

台湾がTPP加盟条件の多くをクリアしているのは事実だが、申請に際しての対応のあまりの違いに、日本と国交があるのは中国?それとも台湾?と勘ぐりたくなる。

米中対立のホットスポットになっている台湾問題で、日本政府は日米首脳会談(4月17日)後の共同声明に、日中国交正常化(1972年)以来初めて台湾問題を盛り込んだ

日米安全保障条約についても、従来の「地域安定の基礎」としての位置づけを「対中同盟」に変質させ、台湾をあと押ししている。

中台両国の加盟申請に対する日本政府の反応の「格差」は、そうした流れの延長にあると言える。

中国は台湾の加盟申請の動きをつかんでいた

中国のTPP加盟には、国有企業への補助金など優遇の制限、国境をまたぐデータ移動の自由化、強制労働の禁止、結社の自由および団体交渉権の承認など高いハードルが待ち受けている。

さらに全加盟国の同意も必要で、例えば、貿易摩擦を抱えるオーストラリアの反対は必至。これらの条件を中国がただちに満たすのはきわめて困難だ。

そんな現実があるにもかかわらず、中国は加盟申請を急いだ。

筆者の旧知の台湾人国際政治学者は「北京(=中国)が台北(=台湾)の加盟申請を事前に察知していたのは間違いない」と話す。

台湾のケーブルテレビ大手TVBSも「先を越された。中国が加入したら台湾は封殺される」と、中国の主眼が台湾排除にあるとみる。

台湾の蔡英文政権は2016年の発足時からTPP加盟を希望していることを明確にしてきた。

2022年1月発効予定の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定への加盟を、先行した中国に阻まれた苦い経験もあった。

中国への輸出額および投資額が4割を超える台湾としては、対中経済依存を減少させて中国の統一攻勢をかわすためにも、TPP加盟のプライオリティは高い。

さらに、5回にわたってコロナワクチンの無償供与を受けた友好関係にある日本が(2021年の)TPP議長国であるいまは、台湾にとって絶好のチャンスだ。

経済産業省の関係者によると、台湾は水面下で日本政府と加盟申請などについて協議を続けてきたというが、そんな隠密行動も中国側に把握されていたことになる。

「一つの中国」の変容

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2021年6月、中国共産党創立100周年を記念し、北京国家体育場(愛称:鳥の巣スタジアム)で行われた祝賀行事。中央スクリーンに習近平国家主席の姿。

Kevin Frayer/Getty Images

中国は日本政府の「親台湾」姿勢に神経を尖らせている。

駐日中国大使館は最近出した報道官談話(9月25日付)のなかで「強烈な不満と断固とした反対」を表明し、日本に抗議したことを明らかにした。

談話の要点は以下の3点にまとめられる。

  1. 台湾の加盟申請は「国際空間」を拡大し「独立」をはかる活動
  2. 日本は台湾問題でネガティブな動きをみせ、中日関係を著しく阻害している
  3. 台湾問題を適切に処理し、中日関係を一段と損なうことのないよう促す

中国が台湾のTPP加盟申請を「台湾独立」に向かう動きとみなし、台湾をあと押しする日本政府にも日中関係が悪化するとの警告を発したのだ。

また、台湾では対中関係の改善を訴える最大野党・国民党の主席(=党首)選挙が9月25日に行われたが、中国の習近平国家主席は主席に当選した朱立倫氏に祝電を送り、「一つの中国」原則を確認した1992年の合意と、台湾独立反対という「共通の政治的基盤」を強調している。

祝電にもあるように、TPP加盟をめぐる中台攻防のキーワードは「一つの中国」だ。

アメリカも日本も中国を承認し台湾と断交して以来、中国を唯一の正統政府とみなし、台湾との関係は「非公式な民間関係」としてきた。

しかし「一つの中国」政策の内実は微妙に変化している。

アメリカ政府は中国の“抑止カード”として台湾を重視し、政治・経済・軍事などで台湾との関係を非公式な民間関係から「公的関係」に格上げした。

アメリカのトランプ前政権は、閣僚級の高官訪台や大量の武器売却を押し通し、中国から強い反発を受けた。

バイデン現政権も4月に米陸軍顧問団を台湾に進駐させ、戦車部隊の訓練を指導。6、7月には議員を乗せた米軍輸送機が台湾を2度訪れるなど、台湾重視政策を継承している。

米ジョージ・ワシントン大学のマイク・モチヅキ教授は筆者の取材に対し、アメリカ政府の意図を「『一つの中国』を事実上空洞化する試み」と分析した。

バイデン大統領は今後どう動くか

バイデン大統領は9月に入り、米英豪3カ国による安全保障協力の新たな枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設したのに続き、日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)の対面会議を開き、重層的な対中包囲網を強化している。

その一方、7カ月ぶりに行われた米中首脳による電話会談(9月10日、約90分)で、バイデン大統領は「競争を衝突へと発展させないための方策を話し合った」ことを明らかにした。

中国側の発表によれば、バイデン大統領は「両国には競争のゆえに衝突に陥る理由はない。アメリカには『一つの中国』政策を変える考えはそもそもない」(駐日中国大使館、9月10日付)と述べたという。

ホワイトハウスによると、電話会談では、カナダで釈放された中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の孟晩舟副会長をめぐる問題も取り上げられたという。

バイデン大統領が緊張緩和のための首脳会談実現に向けた環境づくりに乗り出したことがうかがわれる。

アメリカの中国包囲網強化と、緊張緩和に向けた対話模索という矛盾する動きを「いったいどちらが本音?」と、二項対立の視点でみるのは誤りだ。

バイデン大統領は野党・共和党との対立という内政要因を横目に、硬軟両様のバランス政策を継続するだろう。

台湾問題については、TTPだけでなく、台湾の非公式代表機関の名称を現在の「台北経済文化代表処」から「台湾代表処」に変更することを検討中で、バイデン政権はこれも貴重な“対中カード”として温存するはずだ。

いずれも中国からすれば「一つの中国」政策の空洞化を進める動きに見え、攻防は激しさを増すかもしれない。

台湾加盟の可否を左右する「3つのポイント」

TPPに話を戻そう。

台湾の加盟は日米のあと押しで順調に進むだろうか。踏まえておくべきポイントは3つあると筆者は考える。

第1に、アメリカが脱退して中国も未加盟のTPPは、台湾にとってどれほどの経済的意味があるのかという視点。

第2に、中国は同国のTPP加盟を歓迎するシンガポールやマレーシア、ペルーなど友好国を通じ、台湾の優先加盟を阻むための多数派工作を開始しており、そのうちシンガポールは2022年に議長国となるため、中国にとって大きな追い風になること。

第3に、台湾が自らクリアしなければならない難題がある。それが日本からの支持獲得だ。

台湾は現在、福島など5県からの農産品輸入を全面禁止している。日本は台湾のTPP加盟の条件として輸入を解禁するよう圧力をかけてきたが、台湾での住民投票で解禁は「ノー」とされた。

日本が台湾への圧力を強め、蔡英文政権が(TPP加盟を優先して)輸入解禁に踏み切れば、国内で反対運動が起きて支持率低迷に苦しむ蔡政権にとって一層の打撃となる可能性がある。

試される岸田新政権の実力

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9月29日に行われた自民党総裁選で岸田文雄氏が新総裁に選ばれた。次期政権は中台TPP問題にどう向き合うのか。

REUTERS/Issei Kato

日本では9月29日に自民党総裁選の投開票が行われ、岸田文雄氏が新総裁に選ばれた。

(順調に進めば)岸田新政権にとって中台のTPP加盟問題のハンドリングは、緊張要因に満ちた東アジア外交における最初の試金石になる。

中国はこれまで米中関係を最優先する立場から対日批判を極力抑えてきた。しかし、先述の通り駐日中国大使館の報道官談話は、日本政府の「親台湾」姿勢が日中関係を損なうとして異例の厳しい警告を発している。

最後に、旧知の日本研究者で黒龍江省社会科学院北東アジア研究所の笪志剛(たんしごう)所長が発した日本への警告を紹介しておこう。

「大国間ゲームという新変数のもとで、安倍前首相は憲法9条改正を推進してきた。日本は東アジアやインド太平洋地域の新たな不安定要因となり、再び地域紛争の源となる可能性が高い

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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