新しく発売されたアマゾンの家庭用ロボット「Astro」。
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アマゾンの新製品となる家庭用自律走行型ロボット「Astro(アストロ)」は、アマゾン史上最も優れた発明品となるか、はたまた目を引くだけの最大の失敗作となるかのいずれかだ。
これは、Insiderが、Astro開発に携わる複数のアマゾン関係者に取材して分かったことだ。Astro開発を進めるのは、ヴェスタ(Vesta)というコードネームで呼ばれるチームだ。アマゾンは、家庭用ロボットの設計や実現可能性について数年間議論を重ね、2021年9月28日にAstroを発表した。
Astroは、新たな分野を創出するいわゆるカテゴリー・クリエイターとして、家庭用支援ロボットの必要性への認識を高めると強気な意見を述べる社員もいる。当初Astroがターゲットとするのは、1000ドル(約11万円)を容易に支払い最新のガジェットを購入する高所得層だ。同社員は例として自分の友人を挙げる。その友人は、ヘッジファンド創設者の息子で、自宅には複数の「人間の」お手伝いさんもいるという。
「ヘッジファンド業界の大物なら、家にAstroを導入したいと考えるでしょう。間違いありません。裕福な人たちは、発表直後にAstroを購入するでしょう」と、同社員は語った。
そこまで強気ではない社員もいる。アマゾン製品らしからぬ高価格設定に疑問を持っているからだ。同社員は、Astroの機能が限られていることを指摘し、市場のニーズはあまりないとして、次のように述べた。
「こんなものに1000ドル(約11万円)も払う人なんていませんよ。高すぎます。中間層の人が買うとは思えません」
Astroについて、さらに弱気な見方をする社員もいる。大失敗に終わったFire Phone(ファイア・フォン)に例える者もいる。Fire Phoneはアマゾンが開発したスマートフォンだが、2014年のリリースからわずか1年で生産停止に追い込まれた。約1億7000万ドル(約187億円)相当分が在庫として売れ残った。
「間違いなく失敗します。Fire Phoneと同じ結果になるでしょうね」と、1人の社員は述べた。こうしたデリケートな問題について、社員たちは匿名を前提に回答を寄せた。
これまでにない新製品のリリースは、しばしば極端に異なる反応を引き起こす。そうした反応は、製品開発プロジェクトに関わってきたメンバーの間でさえ起きる。アップルのiPadやAirPodsの場合も、当初はばかにする向きもあったが、結局は大ヒットとなった。
999ドル(約11万円)で売り出されるAstroは、実装スクリーンを持つ3輪型自律走行ロボットで、持ち主を追って移動する。アマゾンの説明によると、Astroは「家庭を見守る家庭用ロボット」で、アレクサのデジタル・アシスタント・テクノロジーを利用し、音楽をかけたり、電話をしたり、タイマーを設定したりとさまざまな活用が可能だ。
「世界初の発明には、常に懐疑的な見方があります。自動車、テレビ、Kindle(キンドル)、アレクサしかりです。しかし、懐疑的な意見ばかりに耳を傾けていると発明は死んでしまいます。当社は楽観的になって、ロボットがお客様の生活に意味のある変化をもたらすと信じています。当社のチームは、全ての家庭にロボットがあるという5年、10年後の未来のビジョンを持っています。その未来への一歩を踏み出せたことをとても喜んでいます」と、アマゾンの広報担当者は述べている。
アマゾンのアレクサは、天気からアメリカ疾病予防管理センター (CDC)のコロナ対策ガイドラインまで、問いかけに答える。
Andrew Matthews/PA Images via Getty Images
アマゾンは、Astroについて大きな野心を抱いている。ある社員はInsider の取材に対し、Astroが長期的に目指すものは「究極のパーソナル・アシスタント」だという。書籍やその他のモノを運ぶなど、家庭内の作業をこなす存在になることだ。
将来、Astroには手などの付属品を追加できるようになると数名の社員が語った。使用方法を拡張するため、アマゾンはAstroのソフトウェアをプラットフォーム型に変えようとしている。そのプラットフォーム上に、iPhoneやApple Watch同様に、開発者がアプリを提供できる形を目指しているという。
他にも議論されてきたアイデアがある。掃除機能、家周辺セキュリティ機能、毎日飲む薬の整理といった雑務を行う機能などだ、とある社員は言う。「そうなるとお手伝いさん事業は不要になります」
ただ、アマゾンによれば、Astroはモノを持ち上げたり階段をのぼったりすることができず、看護師やメイドに取って代わるものではないという。
Astroには成功への強いプレッシャーがかかっている。Astroは、ジェフ・ベゾスがCEO職を辞任する前に情熱を注いだ最後のプロジェクトだ。ベゾスは、その開発に直接関与し、毎日フィードバックをしていたほどだ。つまりAstroは、アマゾンにおけるベゾスの永遠の遺産になるか、その輝かしい経歴の汚点になるかのいずれかだ、と社員たちは語った。
ジェフ・ベゾス。
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AstroがEcho(エコー)と同じ道筋をたどると見る向きもある。エコーは2014年のリリース当初、目新しさだけで広くは受け入れられないと見られていた。しかし、その後アレクサをベースとした製品が1億台売れたのに伴い、Echoは大成功を収めた。Astroの価格は今後、販売台数の伸びとアマゾンの技術進化に伴い低下するだろうと予想する社員もいる。
アマゾンのシニア・バイスプレジデントのデイブ・リンプ(Dave Limp)は2021年9月28日のプレゼンテーションの中で、「5〜10年以内に」すべての家庭がロボットを持つようになると述べた。ワイアード(Wired)の取材に答え、リンプはAstroをEchoになぞらえ、AstroもEchoに匹敵する驚異的なヒット商品になりうると語った。
しかし、Astroの魅力について、やはりそこまで強気になれないアマゾン社員もいる。そのうちのひとりは、Astroは単に「高価な玩具」だとして、Google Glass(グーグル・グラス)を例に挙げた。Google Glassは、2013年のリリース当初、スマートグラスとして大きな注目を集めたが、消費者向け製品としては最終的に失敗に終わった。同社員は次のように言う。
「Astroと遊ぶのは楽しいです。しかし、結局誰もがこう言うでしょう。『で、Astroは必要なんだろうか。分からないな』と」
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)