ドンキも取り組む“小売りDX”の裏側…「社内」には自動化専門の内製チームがいる

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小売業にもDXの波は押し寄せている。それは、独特の店舗づくりでも知られるドン・キホーテも無縁ではない。実は業務のバックヤードでは自動化が進んでいる。

撮影:Business Insider Japan

手書きPOPや棚を商品で埋め尽くす圧縮陳列など、個性的な店舗づくりで根強い人気を持つ「ドン・キホーテ」。

小売業にもDX(デジタル・トランスフォーメーション)の波は押し寄せており、働き方の効率化、ネットスーパーによる宅配事業の強化や、「D2C(Direct to Consumer)」による小売店を通さない、消費者への直接販売といった動きは年々活発になっている。

一方でドン・キホーテは、ネット対応という意味でのDXでは、苦心している1社だ。ECサイトは2018年5月に撤退しており、ネット対応は電子マネー「majica」アプリをリリースするが対応チェーンはやや限定的だ。強い個性を武器に、「実店舗運営を重視」というのが、ドン・キホーテのビジネスと言える。

しかし、今回はそのドン・キホーテが、バックヤードでは「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を活用した「自動化」に取り組んでいる、という話を取り上げる。

店舗からの要望で「200種の業務を自動化」

手書きPOPや棚を商品で埋め尽くす圧縮陳列で知られる「ドン・キホーテ」。

手書きPOPや棚を商品で埋め尽くす圧縮陳列で知られる「ドン・キホーテ」。

写真提供:PPIH

ドン・キホーテがRPAによる業務自動化に取り組み始めたのは2017年4月にさかのぼる。

当時、既に現場からは情報システム(情シス)部門あてにさまざまな効率化の要望が寄せられており、自動化への対応は急務だった。少子化による人手不足に加えて、店頭では当時盛んだったインバウンド客決済のレジデータとの照合に、毎日何時間も格闘していたからだ。

ドン・キホーテの情シス部門では、定期的に新たなIT技術を調べており、自社に合った解決策として、2017年当時はまだ珍しかったRPAを導入することを決めた。しかし、当時はサービスの情報が少なく、導入のハードルは正直なところ高かったという。

RPAの実際の導入は、結果的に15年来の付き合いがあるSIer(システムベンダー)が紹介したツール(RPA大手の「UiPath」)で具体化することになった。RPAチームのリーダー、山本速都さんは、試用ライセンスがあること、検証が容易で製品に関する情報も豊富だったことが、採用にこぎつけた要因だったと、取材に対して語った。

ただし、社内で初の試みだけに、2017年当初は困難の連続だった。

「立ち上げ当初は他業務との兼任で集まったメンバーが中心。どうしてもRPAに関する業務が後回しにされたり、学習に割ける時間も限られてしまいました」

と山本さんは言う。

1年ほど試行錯誤したものの、当初は成果が出なかった、と新しいチャレンジの難しさを振り返る。

「そこで改めて、2018年10月頃に兼任ではなく、“RPA専任者によるチーム”で仕切り直しとしました。社内公募制度を利用して、メンバーを新たに集めました」(山本さん)

元々ドン・キホーテには、アルバイトやパートの従業員にも商品発注や店舗のレイアウトを任せるなど、権限委譲していく組織文化がある。そこで専任者によるRPAチームの立ち上げにおいては、自ら異動を希望する従業員で構成することにした。

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RPAチームのリーダー、山本速都さん。

写真提供:PPIH

応募したメンバーには、IT未経験者も多い。

間接部門に在籍していた女性社員、「マスコットキャラのドンペンくんが好き」という理由で入社して、RPAを知った男性社員など経歴はさまざまだ。

「ITのスキルや経験を問わず、まずやる気のある人材を集めた」というのは、自動化を手がけるチームの立ち上げとしてはユニークに感じる。

それぞれのスキルが一定ではないため、山本さんは各々が自発的に学べる環境を作っていった。

例えば、メンバーは毎週のMTG後に相談して先輩メンバーからのフィードバックを受けたり、他のメンバーが作ったものを参考に改良したりもする。各々が自発的に学びながら、RPA開発を身に着けていく……という文化が2年ほどかけてできあがった。

また、チーム立ち上げ当初は限られていた教材も徐々に充実していき、後から加入したメンバーの学習環境も整えられていった。

「人の仕事を奪わない」自動化のお作法

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写真提供:PPIH

情シス部門は、「正常に動いて当然。障害が起きればとにかく文句を言われる」など、他部門からの風当たりが強い印象がある。

一方、RPAチームは元々が現場からの要望を受けて、RPAで業務を自動化するので、「感謝される機会が多い」そうだ。このような社内で評価される点も、未経験者の不安を解消して、モチベーションを高める要因となったのだろう。

山本さんと同じく、RPAチームで活躍する西山奈津子さんは、RPAによる業務自動化の成果は大きい、という。

現場からは実際に「繰り返し作業が減った」「残業時間の削減につながる」「これまでアルバイトに依頼していた単純作業を自動化できた」などの声があり、本来取り組むべき接客や店舗作りの時間が増えたという。

1つ気になるのは、自動化を推進することで、社内から反発を受けなかったのか?ということだ。効率の改善によって、「誰かの仕事が奪われる」ことにならないのか?

「スモールスタートで簡単な業務の自動化を進めて、成果を確認するのが(RPAの)一般的な方法です」

山本さんは、RPA導入の考え方をこう説明する。続けて、業務で前向きに導入し使ってもらうためには、大事なマインドセットがあるという。

“既存業務の置き換え”ではなく、時間が取れずにやりたくてもできない業務をRPAで肩代わりするのです。そうすれば『(RPAに)仕事を取られるのでは?』という現場の心配を避けられます」

「“できないことをやる”というプラス(指向)の業務が、RPAには向いている」という山本さんの言葉は重い。

現在、自動化できている業務は200業務に及び、現在もさまざまな部署から「自動化要望」が舞い込んでいる状況だ。

社員が「売り場づくり」に専念できる環境を

チームリーダーの山本さんは、これまでの4年間を振り返りながら、RPA導入の難しさについても口にした。

「RPAは一見すると、(既存の人力の業務フローを、そのまま自動化で置き換えるだけという)シンプルな印象ががありますが、開発と社内への展開は決して簡単ではありません。RPA専任チームのメンバーに参加したものの、残念ながら途中で諦めた人もいます。結局、真剣に取り組まなければ成果が出ない点は、他のITツールと同様です」(山本さん)

変化には覚悟と苦労がつきものだ。

最初の失敗で諦めなかったから今があり、効率化できたのも、また1つの事実だ。

ドン・キホーテなどを統括するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の広報担当・両角利彦さんは、「グループの大きな目標のひとつに、業務効率化によって、2021年6月までに合計100万時間、2022年6月までに合計300万時間の創出をし、現場を主語にした生産性向上支援をしていくという動きがある」と言う。

効率化はグループ全体の取り組みのため、RPA以外の成果も含まれる。とはいえPPIHとしては、RPAを店舗従業員が売場づくりや発注業務に注力できる環境作りのための取り組み、と位置づける。

「今後もRPAで業務自動化できる余地は弊社内にも多く残されていると考えています」(両角さん)

(文・マスクド・アナライズ


マスクド・アナライズ:元AIベンチャー社員。 同社退職後は企業におけるAI・データサイエンスの活用支援、人材育成、イベント登壇、執筆活動などを手掛けている。近著に『AI・データ分析プロジェクトのすべて』『未来IT図解 これからのデータサイエンスビジネス』(いずれも共著)がある。

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