Peter Thiel: REUTERS/Fred Prouser, Elon Musk: REUTERS/Hannibal Hanschke
ピーター・ティールとイーロン・マスクの付き合いは長い。2人の関係の始まりは、それぞれのオンライン送金サービス、ペイパル(訳注:当時の社名はコンフィ二ティで、ペイパルはサービス名)とX.comが合併した2002年に遡る。
以来、マスクとティールの間には紆余曲折があったが、その間も2人の資産は数十億ドル規模で増えていった。マックス・チャフキン(Max Chafkin)は新著『The Contrarian: Peter Thiel and Silicon Valley's Pursuit of Power』(未訳)で、いろいろな意味で真逆の2人の複雑な過去を描き出している。
長きにわたって紆余曲折の関係を続けてきたマスクとティールの、驚きの事実7選を紹介しよう。
1. マスクはティールをソシオパス、ティールはマスクをペテン師だと思っている
マスクとティールは長い間協力してきたが、根本的に正反対だ。マスクは社交的で風変わりでリスクテイカーだが、ティールは慎重で内向的だ。チャフキンはこう記している。
「ティールは親友に対してすら呆れるほど無口だが、マスクは口が軽い。ティールはいかにリスクを抑えるかと考えるが、マスクは無一文になったってかまわないと思っている」
2. マスクが100万ドルの高級車を大破。助手席にはティールが乗っていた
ペイパルとX.comが合併した直後、マスクはティールと投資家との会議に向かう途中、運転していた高級車マクラーレンを全損した。自慢のクルマの加速をティールに見せびらかそうとしたのだが、「マクラーレンは宙に舞った」。ティールは喜ばず、ビジネスパートナーであるマスクが「向こう見ずだ」と感じた、という。
「この経験はティールには衝撃だった」とチャフキンは書いている。「マスクは向こう見ずな男だと感じるようになった。一方のマスクはティールのことを、テクノロジーを金儲けの道具とみなす財務畑の人間だと感じていた」
3. ペイパルとX.comは2000年に合併。理由はティールが事業を失うのを恐れたから
ペイパルは創業期にかなりの損失を計上したため、マスクが介入した。マスクは競合がヤフー(Yahoo!)と手を結ぶかもしれないとの情報をキャッチ。X.comが蚊帳の外に置かれるのを避けるため、ティールを説得して合併に持ち込んだのだ。
マスクがCEOになることが決まっても、ティールはぬかりなく自分の忠実な腹心(いわゆる「ペイパル・マフィア」)を幹部に据えたのだった。
4. ティールは仲間と企み、新婚旅行中のマスクをペイパルCEOの座から引きずり下ろした
ティールの腹心たちは、マスクのつたない経営手腕のせいで次から次へと問題が起こることにうんざりしていた。そこで彼らは、マスクが2週間の新婚旅行に出かけている間に、ティールのCEO就任に賛成しないなら退職すると取締役会に迫った。
マスクがチャフキンに語ったところによると、結局はティールを許すことにしたものの、これ以来ティールを完全には信頼していないようだ。
5. ティールとマスクは幼少期を南アフリカで過ごし、2人ともスタンフォード大学に進学した
ティールとマスクは、シリコンバレーへと至るまでの経歴が似ている。マスクは南アフリカで生まれ、大学に進学するまで南アフリカで育った。ティールも幼少期の数年間、家族と南アフリカに住んでいた。
マスクはもともとスタンフォード大学で物理学博士号を取得する予定だったが、退学してZip2を立ち上げた。オンライン版イエローページとも言うべき、オンライン住所録事業だ。
一方ティールは法学を修め、連邦最高裁判所に就職することを夢見ていたが、アンソニー・ケネディ(Anthony Kennedy)とアントニン・スカリア(Antonin Scalia)の面接を受け、不合格となった(訳注:ケネディとスカリアは当時の米連邦最高裁判事)。
6. マスクによると、ティールがテスラへの投資を拒んだのは、ティールが気候変動に懐疑的だから
マスクが電気自動車(EV)メーカーのテスラモーターズを立ち上げようとしていた頃、ティールはテスラへの投資を断っている。マスクによると「ティールは気候変動関連に消極的」だという。ちなみに、テスラは2020年時点で時価総額8000億ドルを超えている。
チャフキンいわく、マスクは断られるのが嫌いな質なので、ティールが投資を断ったことでそれまでの緊張関係がさらに悪化したという。
7. ティールはスペースXの成功に貢献した
ペイパルの乱やテスラへの出資拒否などがあって、ティールとマスクの関係は暗礁に乗り上げた。しかしティールは、マスクが立ち上げた宇宙事業には草創期に(嫌々ながら)支援している。
ティールが2000万ドル(約22億円)を投資したおかげで、スペースXは2008年に3度目となるロケット打ち上げ失敗に見舞われても存続することができた。そしてその1カ月後、ついにロケットを軌道に乗せることに成功したのだ。
(翻訳:カイザー真紀子、編集:常盤亜由子)