イラスト:iziz
シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。今回のお悩みは中間管理職の方から、会議での意思決定についてです。それでは、さっそくお便りを読んでいきましょう!
クリエイティブ系の部署で10名程度の管理職をしています。各個人は非常に優秀なのですが、いざ意見をまとめようとすると、個性の強さゆえ着地を意識しない議論になりがちです。なかなか解決策がみつからず、通常の意思決定の倍くらいの時間がかかっている気がしています。
かといって、トップダウンで落とす方式でうまくまとまるとも思えません。個性の強いステイクホルダーの意見をまとめながら、会議で物事を「決定」していくにはどうしたらいいでしょうか(国際会議などその典型ではないかと思うのですが)。
(mmmさん、30代後半、会社員)
国際会議の結論は、最初から決まっている
シマオ:お便りありがとうございます! 僕はまだ管理職じゃないですけど、mmmさんのお気持ちは分かるような気がします。誰も発言しない会議もいたたまれないですけど、我の強い人が集まってまとまらない会議っていうのも大変ですよね。佐藤さん、こんなときはどうしたらいいんでしょうか?
佐藤さん:mmmさんのご相談は「会議で物事を決定するにはどうすればよいか」ということです。決定するには、文字通り「決める」か「決まっている」かしかありません。
シマオ:「決まっている」って、どういうことですか?
佐藤さん:例えば、ほとんどの国際会議は最初から結論が「決まっている」のです。
シマオ:えっ、そうなんですか?
佐藤さん:国家間の交渉ごとは8割方パワーバランスによって決まります。それも会議の場で話し合って結論が導き出される訳ではなく、事前に根回しがされている。つまり、席についた時点ですでに落としどころは定まっているんですよ。
シマオ:もっと政治家とか外交官が、かんかんがくがくの議論をしているのかと思っていました……。
佐藤さん:そんなことはありません。シマオ君、大きな事案になればなるほど、大国同士の話し合いが決裂したらどうなるでしょうか?
シマオ:ハッ……世が世なら、戦争になってしまうかも……。
佐藤さん:そのような危険は避けなければなりません。だからこそ、根回しが必要になってくる。何も準備せずに臨む国際会議があるとすれば、それは瑣末事項か、決裂しても構わないということです。
シマオ:根回しが必須って、何だか日本企業の会議みたいですね……。
佐藤さん:ですから、実は日本の会議は“グローバルな”基準に合致しているということなんですよ(笑)。
根回しのないトップダウンは恐怖政治と同じ
シマオ:そういう意味では、mmmさんはクリエイティブ系のお仕事をされているということですから、アイデアをまとめて「決める」必要があるということですよね。
佐藤さん:そうですね。私からのアドバイスは2つあります。1つはmmmさん自身の問題、もう1つは組織の問題です。
シマオ:まず、mmmさん自身の問題とは?
佐藤さん:mmmさんは「トップダウンではうまくいかない」とおっしゃっていますが、その認識は誤りです。中間管理職である以上、最終的にはmmmさんが決めるしかない。mmmさんはご自身もクリエイティブの出身で、単にその延長線上で管理職に就いただけだと思っているかもしれませんが、プレイヤーであることと管理職であることは明確に違うのです。
シマオ:でも、クリエイターとかデザイナーみたいな人たちってわがままというか、言うことを聞かない人たちも多そうじゃないですか。
佐藤さん:組織である以上、上司の命令に従わない部下は、クリエイティブだろうが何だろうがその場から去ってもらうしかありませんよ。
シマオ:そんな強権的でうまくいくでしょうか……。
佐藤さん:管理職というのは必然的に悪者にならざるを得ません。いわゆるパワハラに当たるような行為は許されませんが、管理職は部門の成果に責任を持つ代わりに、部下をその決定に従わせる権限を与えられている。それが組織です。
シマオ:そこは軍隊と同じということですね。でも、そのやり方ってクリエイティブ系の人たちには合わない気が……。
佐藤さん:シマオ君が言うように、その組織の性質によってやり方は変わってきます。軍隊と同じように命令しても馴染まない組織もあるでしょう。
シマオ:では、どうすればよいのでしょうか?
佐藤さん:クリエイティブ系の人たちであれば、一人ひとりと個別に話す場を設けて説得し、了解してもらうことが重要になってきます。一人ひとりがどう考えているのかを聞いた上で、組織としてなぜその選択をするのかを説明することが必要になってくるでしょう。
シマオ:なるほど。つまりは、根回しと同じってことなんですね。
佐藤さん:そうです。トップダウンの時こそ、根回しが重要になってくる。根回しのないトップダウンは、恐怖政治と同じですから。クリエイティブの世界では、いいと思ったアイデアが必ずしも成功するとは限りません。しかし、管理職になればその責任すらも負わなければならないのです。
人数が多すぎる場合は、サブチームをつくる
イラスト:iziz
シマオ:もう1つの組織の問題というのは何でしょうか?
佐藤さん:mmmさんの部署は10人程度ということで、端的に人数が多すぎるという問題があります。人事コンサルタントの西尾太さんから聞いた話では、上司が能力や業績を把握できる部下の人数は8人が限界なのです。これは議論の場でも同じで、10人の議論をすべて把握してまとめることは難しいので、必然的にトップダウンになるしかありません。
シマオ:人数が少なければ、議論する余地もあるということですか?
佐藤さん:4、5人であれば、議論を重ねた上で意思決定をするという方法をとってもいいでしょう。ただし、意思決定に際しては、いつまでに決めるという時間の区切りを必ず設けてください。
シマオ:とは言っても、組織構成って会社が決めることなので、何ともしがたいですよね……。
佐藤さん:方法はあります。メンバーを2つのサブチームに分けて、それぞれにチームリーダーを決めます。そのチームリーダーに自分のチームの意見を集約させて、mmmさんは彼らから報告を受けた上で決定を下すのです。
シマオ:なるほど! それはいいアイデアですね。
佐藤さん:つまりは権限委譲をするということです。チームリーダーに選ばれた人はモチベーションも上がるでしょうし、議論を尽くすことで、不満も出にくくなるでしょう。ただし、気をつけなければならないのですが、あくまで決定権はmmmさんにあるということをチームリーダーたちには最初から認識しておいてもらう必要があります。
シマオ:やはり最後はトップダウンという訳ですね。でも多分、mmmさんは優しい方なんだと思うんですよ。だから、トップダウンに躊躇してしまうというか……。
佐藤さん:過去の相談でも何度か指摘していますが、「いい人」では管理職は務まりません。みんなの意見を聞くのは構いませんが、それで全員が平等である訳ではないのです。管理職である以上、成果や成績に責任を負う。だからこそ、自分で決める覚悟を持つ必要があるんです。
シマオ:それが上に立つということなんですね……。という訳でmmmさん、ご参考になりましたでしょうか。「覚悟」を持ってバシッと意思決定をできるよう頑張ってみてくださいね!
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。次回の相談は10月20日(水)に公開予定です。それではまた!
佐藤優:1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。85年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、09年6月有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。現在は執筆や講演、寄稿などを通して積極的な言論活動を展開している。
(構成・高田秀樹、イラスト・iziz、編集・野田翔)